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Story09 座談会

オールジェンダートイレを組み込んだ、バリエーション豊富なトイレ空間。トランスジェンダーの方々と「KADOKAWA所沢キャンパス」を巡る

story09 オールジェンダートイレを組み込んだ、バリエーション豊富なトイレ空間。トランスジェンダーの方々と「KADOKAWA所沢キャンパス」を巡る

日本最大級のポップカルチャー発信拠点「ところざわサクラタウン」内にある株式会社KADOKAWAの新オフィス「KADOKAWA所沢キャンパス」。このオフィスにはオールジェンダートイレを組み込んださまざまなデザインのトイレ空間がつくられています。トランスジェンダーの皆さんと現地を視察し、ともにダイバーシティを意識したオフィスのトイレ空間について考えました。(協力:認定NPO法人ReBit(リビット)

<オフィス設計担当の方々>

  • 株式会社KADOKAWA 総務企画部 アドバイザー
    荒木俊一(あらき・しゅんいち)さん
    ところざわサクラタウンでのオフィス設計にあたりワークスタイル&ワークプレイスデザイン室を立ち上げ、室長として「働き方」と「働く場所」改革を推進。
  • FLOOAT,Inc. デザインディレクター
    吉田裕美佳(よしだ・ゆみか)さん
    オフィス、店舗、住宅など国内外のインテリアデザインを手がける。人の動きや流れを考慮したデザイン、居心地の良さを追求した空間づくりに取り組んでいる。

<トランスジェンダーの方々>

  • やくしさんセクシュアリティはトランスジェンダー男性。出生時の戸籍上の性別は女性、性自認は男性。認定NPO法人ReBit代表。
  • ナカジマさんセクシュアリティはXジェンダー。出生時の戸籍上の性別は女性、性自認は男性寄り。団体職員。
  • 春華(しゅんか)さんセクシュアリティはトランスジェンダー女性。出生時の戸籍上の性別は男性、性自認は女性。公務員。
  • たいがさんセクシュアリティはノンバイナリー(※)。出生時の戸籍上の性別は男性、性自認はなし。臨床心理士、公認心理師。
    ※ノンバイナリー:自身の性自認や性のあり方、性についての認識に関して、「女性か、男性か」という「バイナリー(二項的)」の枠組みにあてはまらない、あてはめたくないと感じる人、またはその状態
  • あきさんセクシュアリティはトランスジェンダー女性。出生時の戸籍上の性別は男性、性自認は女性。団体職員。

新オフィスのトイレ2カ所にオールジェンダートイレを設置

新オフィスのトイレ2カ所にオールジェンダートイレを設置

敷地内には文化複合施設「角川武蔵野ミュージアム」(上)、多目的ホール「ジャパンパビリオン」のほか、オフィス「所沢キャンパス」(左下、右下)などがあります。オフィスは5階ワンフロアで、約9,000㎡(約2,700坪)もの広さ(写真提供/3点ともKADOKAWA)

荒木俊一さん(以下、荒木)
吉田裕美佳さん(以下、吉田)
やくしさん(以下、やくし)
ナカジマさん(以下、ナカジマ)
春華さん(以下、春華)
たいがさん(以下、たいが)
あきさん(以下、あき)

 まず、KADOKAWA所沢キャンパスについて教えてください。

荒木:

もともとKADOKAWAは埼玉の三芳町に製本工場と物流倉庫を持っていたのですが、老朽化が進み、新築するために土地を探していました。その流れで、浄水場跡地の有効活用を模索していた所沢市と巡り合ったのです。所沢市からの「工場や倉庫だけではなく、地域活性につながる施設をつくってほしい」というご要望を受け、日本のポップカルチャーを発信できるミュージアムやオフィスを設ける計画を立てました。

しかし、東京・飯田橋の本社の一部を所沢に移転するとなると、社員に(引っ越しなど)大きな負担がかかり理解を得づらいことが想像できました。そこで、移転ではなく社員一人ひとりが「飯田橋・所沢・ANYWHERE(自宅やサテライトオフィス)」から自由に働く場所を選べるワークスタイルを提案することにしたのです。それがちょうど2015年頃。当時はリモートワークを取り入れている企業はあまり多くありませんでしたが、「オープン予定の2020年、社会や働き方はどうなっているか?」、そう考えながら全体計画を進めました。

構想段階では勤務する社員数は「飯田橋・所沢8割、リモート2割」になると予想していましたが、実際にはコロナ禍でリモートワークが進み、現在は「飯田橋・所沢3割、リモート7割」になっています。計画とは大きなズレが生じましたが、当社がコロナ禍初期の混乱の中でもスムーズにリモートワークに移行できたのは、この計画を準備してきたからだと考えています。

 オフィスのデザインでは、どのような点にこだわりましたか?

荒木:

デザイン事務所『FLOOAT』、建築設計事務所『SUPPOSE DESIGN OFFICE』、家具メーカー『オカムラ』3社にチームを組んでいただき、デザイン提案をお願いしました。“自然”や“本物”といったキーワードを掲げ、たとえば壁には壁紙を貼らず、職人さんの手で塗装してもらいました。そこで生じるムラを“本物”と捉えているのです。また、約9,000㎡のフロアの中に壁や扉を設けず、床や天井の高低差などで空間をゾーニングしていることも大きな特徴です。このKADOKAWA所沢キャンパスは、第34回日経ニューオフィス賞で経済産業大臣賞を受賞しました。

 オールジェンダートイレを設置した背景は?

荒木:

完成予定の2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される年ですから、きっと多様性を重視する社会になっているだろうと考えました。2016年頃に「働く場所を一からつくる機会なのでトイレも新しいあり方にチャレンジしたい」と、TOTOさんにオールジェンダートイレを設置するご相談をしました。

KADOKAWA所沢キャンパス内のトイレは5カ所。オールジェンダートイレはカフェラウンジ近くの来客エリアにあるトイレA・執務エリア内にあるトイレBに設けられました

 吉田さんは、デザイナーとして特にどういった点を大事にされましたか?

吉田:

私はKADOKAWA所沢キャンパスのインテリアデザインを担当しました。オフィスを視察にいらっしゃった方からよく「ユニバーサルデザインですね」と言われるのですが、オフィス空間すべてを誰にでも優しいユニバーサルデザインに設計したわけではありません。フロアはあまり仕切りをつくらず開放的にして、各所にさまざまな空間をデザインし、その中から自由に自分に合う場所を選べるようにしました。「ここは誰が何をする場所」という規定もありません。それと同様に、トイレも自由に選んでもらえたらと思い、5カ所それぞれに特徴を持たせました。そのうち2カ所にオールジェンダートイレを組み込んでいます。

何度も協議を重ねるなかでいまの形になりましたが、これが正解だと思っているわけではありません。まだまだ工夫できるところはあるはずですし、今日は皆さんから忌憚のないご意見を伺えればと思っています。

<トイレA:来客エリアトイレ>

トイレAの入り口を入ると左から順に男性トイレ、オールジェンダートイレ、女性トイレそれぞれの入り口が並んでいます。トイレA、トイレBとも各入り口には目のあたりの高さに、さりげなく男女共用のピクトグラムを表示(写真提供/TOTO)

<トイレB:執務エリアトイレ>

トイレBの入り口はひとつ。入ってすぐ左側にバリアフリートイレ(多機能トイレ)とオールジェンダートイレ(写真)がまとまり、左奥に男性トイレ、右側に女性トイレを配置。トイレA、トイレBともオールジェンダートイレの個室内には手洗器や鏡などがあり、一通りの身支度も済ませられます(写真提供/TOTO)

オフィスのトイレならではの難しさ

オフィスのトイレならではの難しさ

 トランスジェンダー当事者の皆さんがオフィストイレを使う際に困りがちな点を教えていただけますか?

ナカジマ:

まずは私から全般的な話をいたしますね。「同僚へのカミングアウトの状況によって、使えるトイレが自分の希望するトイレと異なる場合がある」という点が、多くの人に共通する悩みとして挙げられると思います。人によって異なる、というのが大前提ですが…。

たとえば、性自認は女性で、カミングアウトせず男性社員として就労している方の場合、本人は男性トイレを使うことに違和感や苦痛があるけれど、その一方で、女性トイレやバリアフリートイレを使うと「なぜあの人がこのトイレを使うのか」と不審がられるのではないか、と悩むケースがあります。

ではカミングアウトをしていれば問題ないかというとそうではなく、社員数が多い会社では情報の伝わり方に濃淡があり、同僚にどう受け止められているかつかみきれず安心してトイレを使えない、という話もよく聞きます。これは知り合いに遭遇する機会が多い、オフィスのトイレならではの難しさですね。特に性別移行中は男女トイレのどちらにも入りにくいというお声を多く聞くので、オールジェンダートイレなど性別を問わず使えるトイレが用意されていることはとても重要だと考えています。

春華:

私はいまの職場では男性として働きはじめましたが、現在は性別を女性に移行中です。すでに女性的な恰好で働いているので女性トイレを使っています。私の場合は女性社員とのコミュニケーションがうまくいっているので問題なく使えていますが、人間関係が良くないと使いづらいのかもしれません。

あき:

前職では入社したときから女性トイレを使っていいと言われていたものの、自分自身が同僚と顔を合わせたときに気まずさを感じ、混んでいるときは自席から遠くのトイレを使っていました。

たいが:

私はノンバイナリーであることを職場で公表していて、バリアフリートイレを使うようにしています。しかし、バリアフリートイレは数が少なく、設置されている場所も遠いので、その点が少し困りますね。また、車いす使用者がバリアフリートイレを使われていて、時間がないのでやむを得ず男性トイレを使ったときに、「なぜ男性トイレに入ってきたんだろう?」というような目線を向けられたことがありました。さきほどナカジマさんがおっしゃっていましたが、カミングアウトしていることによってかえって使いづらくなるケースもあるんです。

春華:

前提として、「みんなが使っているところを自分も同様に使いたい」と考える方が多いのではないでしょうか。特別なものを求めているわけではなくて…。私の場合は女性トイレを使えれば困りません。たいがさんのように性自認がどちらでもない方はオールジェンダートイレやバリアフリートイレが使いやすい。でも、それが不便な場所にあったり、特別感があったりするとかえって使いにくくなってしまうのだと思います。

皆さんから、オフィスのトイレでのさまざまな困りごとやその理由を説明。荒木さんと吉田さんはうなずきながら傾聴していました

バリエーションがあり、使いやすいトイレを選べるという安心感

バリエーションがあり、使いやすいトイレを選べるという安心感

 そうした背景があり、今回KADOKAWA所沢キャンパスのトイレを見学してどのような感想を持ちましたか?

やくし:

「バリアフリートイレなど男女共用トイレはあるものの、ビルの中に1〜2カ所のみで、選ぶことはできない」という職場が多い現状がある中、さまざまなバリエーションのトイレを用意して働く人が好きに選べるようにしたこのオフィスは画期的だと思いました。まさにダイバーシティですね。トイレが、多様性を重視する企業姿勢を体現していると感じます。

荒木さんのレクチャーを受けながら、参加者全員でフロアのトイレを視察しました。「トイレAには音楽が流れていて、周囲の物音は聞こえにくいと思います」(荒木さん)

トイレ入り口付近の通路から、オールジェンダートイレの空き状況が見えるかなども確認しました。「通路から空き状況が分かるとよりスムーズに個室まで行けます」(ナカジマさん)

トイレA のオールジェンダートイレには個室が計4つあり、「入りやすい場所を選べる」ほか、中央の通路の幅が広く「出入りしやすい」など、総合的に使いやすいという意見に

やくし:

細かなところでいうと、男性トイレに個室が多いことはとてもありがたいと思いました。私は立って用が足せないのですが、個室に待ち列ができていて入るまでに時間がかかって困ることがあります。個室が多いとそれだけで安心できますね。

基本的に素晴らしいという感想ですが、こうした機会なので重箱の隅をつつくような意見を申し上げると、男性トイレにサニタリーボックスを置いていただくとより良いのではないでしょうか。男性として働いていて職場の男性トイレを使っているけれど、男性ホルモンを打っていなかったり、打ち忘れてしまったりして生理が来る方もいますから。

入り口に設置されたトイレのサイン。赤、青といった色分けはせず、トイレのピクトグラム、オールジェンダーの文字を黒で統一し示しています

ナカジマ:

男性トイレにサニタリーボックスを置くことで、トランスジェンダーだけではなく、疾患などによる尿失禁によって尿パッドを使っている方も助かるはず。トランスジェンダーなど特定の誰かのための配慮ではなく、多様な人の使いやすさを追求して機能を追加し、「世の中にはこういうニーズを持った人がいる」と気づきを与えることも、このオフィスならできるのではないかと思いました。

やくし:

機能面だけを考えたら、男性トイレでサニタリーボックスを使う人は少ないかもしれません。それでも用意することで、インクルーシブな考え方が伝わると思います。

 ここが皆さんの職場だと仮定した場合にトイレの使いやすさはいかがでしょうか?

あき:

セクシュアリティやカミングアウトの状況、職場環境などによって、男性トイレ、女性トイレ、オールジェンダートイレ、バリアフリートイレのなかからどのトイレを使いたいかは変わってくるので、さまざまな選択肢が用意されているのは助かるなと思いました。

また、オールジェンダートイレにBGMが流れていたのも、トランスジェンダーへの細やかな配慮で嬉しいですね。トイレを使うときの音は結構気になる部分なので……。

「小便器の間のパーテーションは、目線が合わないようにするのであれば、もう少し位置を高くしたほうがよいかもしれません」(やくしさん)

ナカジマ:

私は身体の性は女性で性自認は男女どちらでもないと認識しているXジェンダーですが、男性社員として働いていた時期も長くありました。その頃はオフィスフロアから遠いバリアフリートイレを使ったり、人がいない時間帯に男性トイレを使ったりしていたのですが、どのタイミングでどのトイレに行けるかを考えながら1日のスケジュールを組む必要があり、仕事のパフォーマンスにも影響が及んでいたと思います。その経験をもとに今回トイレを拝見して、「このようなオフィスが増えたら、トイレで頭を悩ませることが少なくなるだろう」と希望を持ちました。

ロッカーエリアや印刷機の横など、執務スペースと直接接していないところにトイレが設置されている点もいいと思いました。人の目を気にせずトイレに入ることができますから。付け加えるなら、通路からオールジェンダートイレの空室状況が確認できるとありがたいです。私の場合、女性トイレは使えませんし、男性トイレも人がいると使えません。中に入ってからオールジェンダートイレに空きがないとわかり、引き返したり待ったりしているとき、同僚にどう見られているかも気になります。外からさりげなく空きを確認してすっと入ることができると嬉しいですね。

トイレBの入り口付近。ワークスペースから適度な距離にあり、「仕事中も周りの目を気にせず利用できそうですね」(ナカジマさん)

サインは黒い壁に白で描かれ、小さくても視認性が高く、入り口付近から見てもひと目で判別できます。写真左はバリアフリートイレ、右奥はオールジェンダートイレの入り口を示すサイン

たいが:

皆さんと同じく、「トランスジェンダーのために用意したトイレ」ではなく、さまざまな人が使えるように設計されているということが魅力的だと感じました。もし私がここで働いていたら、個室数の多いトイレAのオールジェンダートイレを使うと思います。オールジェンダートイレがあること、それもひとつではなく複数あること、個室内で手洗いなどを完結できること。私にとって大事なことがほぼ揃っていてありがたいですね。

いま話したのはノンバイナリーである私の視点ですが、視野を広げてさまざまな人にとっての使いやすさを考えると、スタイリングコーナーが男女トイレ内だけではなく、トイレの外の共有ゾーンにもあって、パーテーションで区切られているといいのかもしれません。

ナカジマ:

トランスジェンダーのなかでも、個室内ですべて完結したい方もいれば、広々とした明るい空間で歯磨きやメイク直しをしたい方もいます。スタイリングコーナーをトイレとは切り離して設置するのもひとつの方法ですね。

オールジェンダートイレの個室の様子。洗面台やフィッティングボード、チャームボックスなど性別問わず利用する設備を用意しています。「照明つきの鏡はメイクしやすく、嬉しい」との声も

荒木:

ロンドンで、男女で入り口が分かれておらず、ただ個室が並んでいるだけのトイレに入ったことがあります。そこではスタイリングコーナーも男女共用になっていて、ここまでいくと少し違和感があるように思いましたが、いかがでしょうか。

やくし:

「メイク直しを異性に見られたくない」と感じる女性は多いでしょうし、共用にすることで女性の使いづらさ、働きづらさにつながってしまうのではないかという懸念がありますね。かと言って、トイレとはまた別に男女別のスタイリングコーナーとオールジェンダーのスタイリングコーナーをつくるとなるとかなりスペースが必要になるので…。難しいところですね。

トイレBのスタイリングコーナーは、広々とした場所でメイクや歯磨きをしたい人などがいることを想定してつくられました

多様な人が使えるオフィストイレは、雇用機会の公平性や、働く人の心理的安全性につながる

多様な人が使えるオフィストイレは、雇用機会の公平性や、働く人の心理的安全性につながる

 社員の方や来客の方からの評判はいかがですか?

荒木:

コロナ禍でリモートワーク率が高く、あまり社員の声は拾えていないのが実情です。ただ、事前に女性社員に意見を聞いたときはオールジェンダートイレに対する反対意見はあまり出て来ず、「女性トイレが混んでいたらそちらを使えていいですね」という反応でした。

僕自身はトイレAのオールジェンダートイレが好きでよく使っています。個室に慣れすぎてしまって、外のトイレで小便器を使っているときに隣に人が立つとちょっと嫌だなと思うようになってしまいました(笑)。

吉田:

私もなんとなく居心地が良いのでトイレAのオールジェンダートイレを使っています。設計段階で役員の方が「男性トイレは汚れがちだから、男女一緒にしすぎると女性社員が嫌がるのではないか」と懸念なさっていたのですが、実際はとても綺麗に使われていますね。

荒木:

来客者にどのトイレを使ったか聞くことはできませんが、週末にカフェラウンジでイベントを開くときなど、オールジェンダートイレがあることでトイレの混雑が緩和されていると感じています。イベントの趣旨によって客層は男女どちらかに偏りがちで、ほかの会場では休憩中に「一方は空いているのに一方は待ち列ができている」という状況を目にします。ここだと、オールジェンダートイレを使ってくださる方が一定数いるので、休憩時間にどちらもスムーズに人が流れています。

やくし:

なるほど、そういうメリットもあるのですね。

荒木:

このオフィスを視察にいらっしゃる企業の方も多いのですが、皆さんオールジェンダートイレに関心を持たれますね。ただ、一般的にはすでに完成したビルにテナントとして入ることがほとんどなので、関心があったとしてもどうにもならないのが現状です。ですので、デベロッパーの方が視察にいらしたときは、「ぜひ、ビルをつくるときに使いやすいオールジェンダートイレの設置を検討してほしい」とお伝えしています。

やくし:

ありがとうございます。トイレは人の尊厳に結びつく重要な場所です。そこに工夫や配慮がされていると、働く人は「私もここにインクルードされているんだ」という安心感を得られるはずです。

実は、さまざまな企業で働き方のコンサルティングをするなかで、「トランスジェンダー社員を受け入れられるオフィス設計になっていないこと」を企業側が憂慮して、優秀な人材の採用を見送るケースを目にしてきました。ハード面を整えることは、トランスジェンダーだけでなく障がいのある方を含めた多様な方々に公正に働く機会を提供することにつながると実感しています。そういった意味でも、KADOKAWA様の取り組みは素晴らしいと思いました。

吉田:

このトイレを設計する際に、「トランスジェンダーの方々のためだけに特別なものをつくるのではなく、みんなが自然と心地よく使えるトイレをつくることが大切だろう」という予感があったのですが、今日皆さんのお話を伺って、それでよかったんだと確信を持ちました。良い機会をありがとうございました。

荒木:

オフィスの稼働率が上がってきたら社員にどのように使われているかを調査したいですし、もし混雑するようになったら、スマホと連携して自分の席からいまどのトイレが空いているか確認できるようなシステムも取り入れたいですね。今日伺ったご意見やご提案を取り入れながら、より良いオフィスにしていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

「誰もが心地よく使えるトイレを目指したことは間違いなかったようです」という吉田さんの発言に微笑む参加者の皆さん

<For your reference>
多様なセクシュアリティが心地よく使えるパブリックトイレとは?

性的マイノリティの中でも特にトランスジェンダーの方々の日常生活での困りごとのひとつが、外出時のトイレです。このWEBサイトでは当事者へのアンケート調査結果やインタビュー記事などをご紹介しています。

詳しく見る
トランスジェンダーのトイレでのニーズ/みんなのホンネ<性的マイノリティ>

パブリックトイレを使うさまざまな人の声を集めたWEBサイトです。トランスジェンダーの方々の声を辿りながらパブリックトイレで配慮できることを考えます。

詳しく見る

編集後記1日の大半を過ごすオフィスの居心地の良さ、働きやすさを決める要素は、執務空間のみではありません。トイレ空間もそのひとつでしょう。業務の節目に足を運び、身支度を整えたり、一息ついたり、気持ちをリセットする場所でもあるからです。とはいえ、そのような場所にふさわしい理想のトイレの姿は人の数だけ存在します。そういった中、さまざまなデザインのトイレ空間を設け、選択できるようにしたKADOKAWAのオフィスは画期的。ダイバーシティを理解し、実現しようとする姿勢が浮き彫りになっています。編集者 介川 亜紀

写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀  2022年7月22日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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