ユニバーサルデザインStory

もっとつながろう、もっと楽しもうユニバーサルデザインStory

未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。

Story05 座談会

年齢問わず、多くの人が悩んでいる慢性便秘。課題解決のため、EAファーマ、ユニ・チャーム、TOTO、3社が意見交換をスタート

story05 年齢問わず、多くの人が悩んでいる慢性便秘。課題解決のため、EAファーマ、ユニ・チャーム、TOTO、3社が意見交換をスタート

男女問わず、実は悩んでいる人が多い慢性便秘。特に高齢者の場合は重篤な腸関連のトラブルに発展しかねず、また、介護する人・される人のおむつ交換時のストレスにもつながるといいます。TOTOでは、この問題に取り組むため、EAファーマ株式会社、ユニ・チャーム株式会社との定期的な意見交換を進行中。日本人の慢性便秘の現状やそこから起こるさまざまなトラブル、それらを解消しQOL(クオリティオブライフ)を高めるための対策について、3社に話を伺いました。

  • EAファーマ株式会社 製品戦略部 製品戦略第1グループ
    道宗周(どうしゅう・ちかし)さん
    消化器領域のスペシャリティ・ファーマの一員として、消化器疾患に苦しむ患者様に寄り添い、患者様とご家族が安心して過ごせる未来に向け、日々業務にあたる。製品戦略部第1グループにて主に便秘領域のマーケティングに従事。
  • EAファーマ株式会社 事業開発部
    千葉慎寿(ちば・しんじ)さん
    MR(医薬情報担当者)としてキャリアをスタートし、消化器疾患治療薬の適正使用情報の伝達・収集業務に5年間従事。2019年度より事業開発部で新薬候補品の導入契約や国内外のパートナー企業との提携管理を担当。
  • ユニ・チャーム株式会社 排泄ケア研究所 主任研究員 看護師
    梅林真紀(うめばやし・まき)さん
    入社時より全国の施設・病院において、高齢者の排せつ障がいや排せつケアの実態を調査しながら、介護現場のニーズに即した商品開発や自立排せつを中心とする排せつケアの提唱に従事。現在は、国内外における専門職や一般市民に向けた排せつケア教育にも広く力を入れている。
  • TOTO株式会社 デジタルイノベーション推進本部 イノベーション推進二部 企画主幹
    大橋英子(おおはし・えいこ)
    1995年入社、UDライフスタイル研究部長を経て、現在はデジタル技術の活用により健康で豊かな暮らしを実現することを目指し、業界の枠を超えたイノベーション活動に従事。未来のオフィスを協創する株式会社point0取締役兼務。

排せつの問題は、QOLを大きく左右する

排せつの問題は、QOLを大きく左右する

道宗周さん(以下、道宗)
千葉慎寿さん(以下、千葉)
梅林真紀さん(以下、梅林)
大橋英子(以下、大橋)

 EAファーマさん、ユニ・チャームさん、それぞれの事業内容を教えてください。

千葉:
EAファーマは、エーザイグループと味の素グループの消化器事業が統合して発足した会社で、「消化器領域に特化したスペシャリティ・ファーマ」を標榜しています。消化器領域は炎症性腸疾患や慢性便秘など、まだ満たされていない医療ニーズの多い領域ですので、疾患啓発に取り組むとともに、これまで日本になかった新薬やソリューションの創出を目指しています。
梅林:
ユニ・チャームは一般消費者向けの紙おむつメーカーという印象が強いと思いますが、全国の高齢者施設に向けた業務用紙おむつ販売も行っています。大きな特徴は、販売の際に、排せつケアのアドバイスも行っていること。
施設のスタッフの方々から「おむつの交換頻度が高くて大変」「おむつから尿などが漏れてしまう利用者様がいる」といった困りごとを聞き取り、適切な商品や、交換のタイミング、スタッフの皆様の人員配置などさまざまな観点から知識や情報をお伝えし、より良い介護や施設運営ができるようサポートしています。

和やかな雰囲気でスタートした座談会。気心の知れた顔ぶれで、口にしづらい便秘というテーマも、明るくざっくばらんに語り合えます

 3社が意見交換を開始したした背景には、どのような課題意識があったのでしょうか。

千葉:
意見交換のきっかけは、TOTOさんが2020年1月に、アメリカの展示会で「走るトイレ」を発表されたこと。これは、パブリックトイレが少ない場所に、スマートフォンアプリを利用してトイレを搭載した車を呼ぶというサービスです。過敏性腸症候群や炎症性腸疾患など消化器疾患領域の患者様はトイレの確保に悩まれる場面が多いので、興味を持ちTOTOさんにご連絡しました。 お話をしていく中で「生理的で自然な排便の実現により、慢性便秘に悩む患者様のQOLの向上及び介護者様の排せつケアにかかる負担軽減に貢献したい」という想いが合致していることがわかり、3社それぞれの強みを活かした包括的な課題解決策の検討を始める運びとなりました。

会場に展示された「走るトイレ」(写真提供/TOTO)

大橋:
多くの方が、「介護が必要になっても、排せつだけは自分でしたい」という気持ちがあると思います。TOTOはこれまで、トイレまでの移動をスムーズにする商品、トイレ内での姿勢保持をサポートする商品を通じて、そのようなニーズにお応えしてきました。しかし、トイレにたどり着く途中で失禁してしまったり、便秘によって30分以上便座に座っていなければいけなかったり……と、もっと生理的な課題もあると聞いています。 TOTOのみではこうした課題に対応するのは難しいのですが、3社が連携すれば何かできることがあるかもしれませんよね。排せつは日々の暮らしに必要不可欠なものでありながら、表立ってお話する機会はなかなかありません。多くの人がオープンに話せるようになるには、私たちが排せつに関する情報をわかりやすくお伝えしていくのが第一歩だと思います。
梅林:
排せつ障がいは生死に直結しないものの、ご本人の生活に大きな影響を及ぼします。平均寿命が延び高齢者が増えるなかで、QOLを左右する排せつの問題に取り組むことはとても重要です。 現在、介護が必要な高齢者には、おむつに排せつしてもらうことが当たり前になっています。しかし、本来はトイレで排せつするのが一番快適なはず。よほど安静にしなければならない方や障がいのある方以外は、「便座に腰掛ける」ポテンシャルを持っています。便座に座ったときにするっと出るようにお薬を活用する、トイレにたどり着くまでが難しい場合はTOTOさんのベッドサイド水洗トイレを導入するなど、さまざまなアプローチを組み合わせたご提案ができるのではないでしょうか。

ベッドサイド水洗トイレの開発秘話について説明中の大橋(左)

ベッドサイド水洗トイレは、移動可能な後付け水洗トイレです(写真提供/TOTO)

「便秘は疾患であり、診療によって改善する可能性がある」ことを知ってもらいたい

「便秘は疾患であり、診療によって改善する可能性がある」ことを知ってもらいたい

 慢性便秘をめぐる昨今の状況を教えていただけますか?

道宗:
2017年に、日本で初めて慢性便秘症診療ガイドラインが策定されました。しかし、今はまだ「便秘を病院で診療してもらおう」と考える方は多いとは言えません。生活リズムの改善など、下剤以外にもさまざまな治療法があります。たかが便秘、されど便秘。放置すると日常生活に支障が生じる可能性もあります。まずは、「便秘は疾患であり、診療によって改善する可能性がある」ことを広く知っていただきたいですね。 慢性便秘症というと、「2〜3日に1回しか便が出ない」といった状態を想像する方が少なくないのではないでしょうか。ところが、ガイドラインでは「本来体外に排出すべき糞便を、十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。毎日出ていたとしても、快適性がなければそれは便秘と言えるのです。 また、一般的に「便秘は女性に多い」と思われていますが、2016年の国民生活基礎調査の結果を見ると、加齢とともに有病率は増加し、80歳以上では男女が同じ比率になっています。超高齢社会では、誰もが日々の排せつに悩む可能性があると言っていいでしょう。 こうした慢性便秘症をめぐる最新の情報を伝えるため、EAファーマでは「イーベンnavi」というサイトを開設して情報発信を行うとともに、病院や薬局の待合室にポスターを掲示し、受診を促しています。並行して、医師・看護師に向けた講演会や勉強会なども実施しています。

EAファーマさんが病院や福祉施設などで配布している「お通じノート」。その日の便の状態や服用した下剤などを簡単に記録でき、医師とのコミュニケーションに活用も

「病院ではスタッフの配置転換などで排せつケアを習得しにくい場合があるので、研修用動画も用意しています」と、千葉さん(左)と道宗さん(右)

(資料提供/EAファーマ)

高齢者施設での下剤依存に見直しを

高齢者施設での下剤依存に見直しを

 高齢者施設では、どのような排便トラブルがあるのでしょうか。

梅林:
高齢者の排便障がいは、加齢に伴う筋力低下、大腸の蠕動ぜんどう運動の低下、認知機能の低下などさまざまな原因によって起こります。とくに多いのが、便が肛門近くの直腸まで降りてきているのにうまく排出できない直腸性便秘です。筋力が低下するといきみにくくなりますし、寝たきりなどで適切な姿勢が取れないと排便が難しくなるのです。 あとひと押しの状態であれば、浣腸などが有効です。しかし、実際には便秘の原因や状況を確認しないまま、「とにかく下剤を使って出す」という対処法を取ることが多いのが現状です。そうすると下痢になってしまったり、下剤とともに排出される消化酵素が皮膚のタンパク質を壊して皮膚トラブルを起こす場合もあります。これはご本人のQOLを下げるだけでなく、ケアをする側の負担も増やす可能性もあります。 また、下痢便は紙おむつで吸収することができないため、漏れやすくなります。尿のように水分であれば吸収できますし、形になっていれば受け止めることができますが、ゆるい形状のものは広がりやすい。漏れもまた、ご本人や介護者様の心身に大きな負担を及ぼしますね。 こうした状況を改善するためにも、排便アセスメントやケアの見直しを図り、便秘の原因に応じたアプローチが取れるよう環境を整備していくことが重要だと考えています。

本体(右)にパッド(左)を組み合わせて使用する紙おむつ。寝ているときの背中側(写真上)からの漏れを配慮した形に

 さきほど、「本来はトイレで排せつするのが一番」とお聞きしました。やはり、おむつでの排せつは、ご本人のQOLに影響するのでしょうか。

梅林:
介護が必要となる前と同じように排せつができれば、それに越したことはないと思います。それよりも大事なのは、「排せつ障がいによってできなくなってしまったことが、再びできるようになること」だと思います。たとえば、便失禁の不安から外出できなかった方が、安心して外出できるようになる。それによってQOLは大きく向上することが期待されます。 ユニ・チャームでは1995年に、軽い力で着脱でき、失禁してしまったときも漏れにくい「ライフリー リハビリパンツ」を発売しました。それまで「便器の代わり」と見られてきたおむつを、トイレでの排せつを支援する「福祉用具」と捉えた、画期的なパンツ型の紙おむつです。リハビリという言葉には、ラテン語で“らしさ”を表す「ハビリス(Habilis)」を再び取り戻す、という意味があります。おむつも、自分“らしく”社会と関わるための道具、安心して外に行けるための道具であってほしいですね。

「ライフリー リハビリパンツ」について説明する梅林さん(右)。パンツはお腹まわりや股繰りに工夫が施され、動きやすく尿などが漏れにくくなっています

ベッドサイド水洗トイレやアームレストで、自立排せつをサポート

ベッドサイド水洗トイレやアームレストで、自立排せつをサポート

 TOTOでは、慢性便秘や高齢者の排せつトラブルという問題に、どのように対応されてきましたか?

大橋:
1970年代から障がい者や高齢者向け商品の研究開発に取り組み始め、2006年にUD研究所を発足し、ウォシュレット付きポータブルトイレや腰掛便器用のアームレスト、ベッドサイド水洗トイレといった福祉商品を開発してきました。ウォシュレット付きポータブルトイレは、「昨日までウォシュレットを利用していたのに、介護になった途端にバケツ式のおまるやおむつを使うことになるのは抵抗があるはず」という配慮から生まれました。リモコンの操作ひとつでおしりを温水で洗えるので清潔です。暖房便座なので冬でも暖かく、気持ちのよい排せつが期待できます。 その思想はベッドサイド水洗トイレに引き継がれていて、ウォシュレット付きが基本となっています。加えて、こちらは排せつ物をすぐに下水へ流すことができるため、排せつ物のにおいが部屋にこもらないという利点があります。
アームレストは、「長時間便座に腰掛けているのがつらい」という声を受けて、排せつ時の座位姿勢をしっかり支えられるように開発した商品です。さらに排せつしやすい前傾姿勢を支える前方ボードも誕生しました。姿勢をサポートすることで、便秘解消に寄与できればと思っています。

腰掛便器に座って、前方ボードの使い勝手を試している道宗さんと周辺の装備を確認する梅林さん

本人や家族、介護者の負担が軽くなるように

本人や家族、介護者の負担が軽くなるように

 排せつトラブルが改善されると、高齢者の日常生活はどのように変わっていくでしょうか?

千葉:
慢性便秘によって、食べる楽しみが失われてしまうことがあります。やっぱり、下腹部に詰まっている感覚があると、なかなか食欲が湧きませんよね。慢性便秘が改善され、好物を食べられるようになる、ご家族と同じものを食べられるようになる。消化器領域のスペシャリティ・ファーマである私たちは、ユニ・チャームさん、TOTOさんと協働しながら、そのような当たり前の心地よい毎日を目指して活動を進めていきたいですね。
大橋:
さきほど梅林さんがおっしゃっていたように、排せつトラブルが改善されると、「できること」が増えていくのではないでしょうか。「自力でトイレに行く」という目標があれば、日常生活に意欲も湧きますよね。それが達成されたとき、次には外出してみようという気持ちになるかもしれません。 活動量が増え、ごはんが美味しくなり、強い下剤に頼らなくても自然と排せつできるようになる。そうすると介護の負担も軽くなって、ご本人はもとより、周囲の皆さんの身体と気持ちが楽になるでしょう。このような形で、毎日の生活に笑顔を増やすお手伝いをしていきたいですね。

編集後記たかが便秘、されど便秘。放っておくと、いつの間にか重篤な状態にもなりかねないため、恥ずかしがらずに家族や専門家に相談したいものですね。今回話題に上ったような薬、おむつ、便器など多方面の最新情報を得られれば、快適な日々はすぐそこに。便秘に限らず、介護の悩みを明るくオープンに話せる社会になることが、根本的な解決策と言えるかもしれません。編集者 介川 亜紀

写真/石川望(特記以外)、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀  2021年6月25日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。


ページトップへ

ユニバーサルデザインStoryについてお聞きします。

このページの記事内容についてアンケートにご協力ください。

Q1.この記事について、どう思われましたか?
Q2.どんなところに興味がもてましたか?具体的に教えてください。
Q3.「ユニバーサルデザインStory」を次号も読みたいと思いますか?
Q4.ご意見がございましたらご自由に記入ください。
Q5.お客様についてお教えください。
性別:
年代:

送信後、もとのページに戻ります。

ページトップへ

Share
  • Facebookでシェアする

CLOSE