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Story03 座談会

車いす使用者、視覚障がい者、オストメイト。withコロナでの意識の変化と“非接触型”水まわり商品について考える

story03 車いす使用者、視覚障がい者、オストメイト。withコロナでの意識の変化と非接触型水回り商品について考える

2020年3月に公開して反響の大きかった、身体に異なる障がいのある女性3人の座談会。新型コロナウイルス感染拡大を受け、彼女たちの生活や衛生意識に変化はあったのでしょうか。パブリック商品営業グループ担当者も交えて、水まわりに関する意識について語り合っていただきました。

前回の記事はこちら:https://jp.toto.com/ud/style/plus/55.htm

  • 小澤綾子(おざわ・あやこ)さん明治大学卒。20歳のときに進行性の難病・筋ジストロフィーと診断を受けるが、「筋ジスと闘い歌う」と掲げ、全国でコンサートや講演を行う。2018年に『10年後の君へ 筋ジストロフィーと生きる』をすーべにあ文庫から出版。「あらゆる常識や壁を超え、違いを楽しむ」発信を行う車いすガールズユニット「BEYOND GIRLS」のリーダー。外資系企業勤務。
  • 上田喬子(うえた・たかこ)さん桐朋学園大学卒。14歳の頃に全盲となる。2004年「第54回ヘレン・ケラー記念音楽コンクール」声楽部門にて奨励賞受賞。東京・高田馬場の日本点字図書館内で働く。視覚障がい者パソコンアシストネットワーク理事。
  • 中島小百合(なかじま・さゆり)さんバークリー音楽大学卒。アメリカ英語発音塾「こまば音庵」を運営し、完全パーソナルレッスンを提供。平日朝6時半からYouTubeで「英語発音チューニング体操」を生配信中。ミュージシャンの講演会やオンラインセミナーでの通訳も行う。2016年からオストメイト。
  • TOTOパブリック商品営業グループ企画主査
    松原隆二(まつばら・りゅうじ)
    筑波大学基礎工学類で変換工学を専攻。1989年TOTO入社以来、基礎研究所にて材料研究、2004年より広報部にてIR業務、2012年より環境建材事業部にて商品企画業務などに従事。2015年より現職。

新型コロナウイルス感染拡大で変わったこと

新型コロナウイルス感染拡大で変わったこと

小澤綾子さん(以下、小澤)
上田喬子さん(以下、上田)
中島小百合さん(以下、中島)
松原隆二(以下、松原)

松原:
新型コロナウイルスの流行によって、暮らしや意識に変化はありましたか?
上田:
視覚障がい者の間ではよく「百聞は“一触”に如かず」と言うのですが、コロナの流行によっていろいろなものに触れにくくなってしまいました。買い物をするときなど、商品を触って大きさなどを確かめたいのですが、まわりの方々に「嫌がられるかもしれない」と思うと悩ましいですね。 まちなかを歩くとき、見ず知らずの方が「案内しましょうか」と声を掛けてくださることがあるんですが、肘に触れさせてもらって一緒に歩くので、最近は躊躇される方もいらっしゃるようです。残念ながら、以前のように気軽に声を掛けられることは少なくなりました。

座談会中、3密を防ぐため3人の間に距離を確保

その一方で、いいこともありました。外出自粛を機にオンラインが一気に普及したことで、家に居ながら世界中の会議やイベント、コンサートなどに参加できるようになったんです。やはり初めての場所に行くときは道順を調べたりガイドサービスを頼んだりと手間やストレスがあったので、移動せずに人と交流できる機会が増えたのはいいですね。 最近はオンラインでよく囲碁も打っています。視覚障がい者用の触れる碁盤をそれぞれ用意して、どこに打ったかを声で伝え、相手の石も自分で置きます。先日は静岡の方と対戦しました。離れたところに住んでいる人と、こんなに気軽に交流できるんだ、という楽しい発見がありました。
小澤:
私も上田さんと同様にほとんど移動しなくなりました。もう7カ月ほど在宅勤務で、その間会社に行ったのは2回ほど。誰かの助けを借りることもなく、パソコンを立ち上げるだけで「出社」できるのは気が楽です。初めてお目にかかるのがオンラインだった人には私に障がいがあることはわからないから、実際にお会いしたときに「車いすだったんですね!」と驚かれたことも。社会がつくっていたバリア、障がいがなくなったように感じました。 私よりも重度の障がいがある知り合いも、社会活動に参加する機会が増えたと話しています。オンラインでイベントやコンサートを開催したところ、何年も病院で暮らしている方、指一本しか動かないような方も喜んで参加してくれました。 もちろん、リアルな場で歌ったり話したりする機会が激減したことは寂しいですし、免疫力が下がっている人は感染リスクが心配だと思います。ただ、人生は限られているので、コロナウイルスの状況に左右され過ぎず、やりたいことはやっていこうと考えています。もちろん、できる範囲で対策はしながら。
中島:
パンデミックが始まってから、「世界がこちら側に寄ってきた」という印象があります。というのも、私は5年前に手術を受けたときに、半年間“ひとりロックダウン状態”だったんです。ストーマ装具をうまく使えなかったので、外出するのが怖くて。時間をかけて、仕事の打ち合わせやレッスンも家にいながらオンラインでできるように移行していきました。 ですから、コロナ禍でも私の気持ちにはそれほど変化がありませんでした。むしろ、私がずっと味わってきた「今まで当たり前だったことができなくなる」という違和感を理解してくれる人が増えて、生きやすくなった気がしています。
  • 座談会前に3人にTOTOのショールームを見学していただきました
  • 「オストメイト対応流しの使いやすさに驚きました」(中島さん)
  • 「扉の対角線上に便器があることが多いので、多目的トイレに入ったらまずはその方向へ向かいます」(上田さん)
松原:
水まわりに関することで、変化はありましたか?
中島:
私はオストメイトなので、ストーマ装具から排せつ物を大便器に流すのですが、その際に便座のヘリに手が触れてしまうことがあります。それがコロナ禍でさらに嫌になりました。 前回の座談会で「オストメイト対応流しを使ったことがない」とお伝えしましたが、いい機会だと思って試しに使ってみました。そうしたら、排せつ物も流しやすいし水跳ねもないし、安心感があって。「専用のものはちゃんと考えられているんだな」という気づきがありました。 それと、手を洗うシンクについては、デザインより機能性に目が行くようになりましたね。個人店のトイレにはサラダボウルのような小さくて小洒落た手洗い用のシンクがついていることがありますが、シンクに触れないように手を洗うのが大変だし、水が跳ねやすかったりするものもあります。そういうものよりも、洗いやすくて石けんが備え付けてあるシンクが設置されたお店を選ぶようになりました。
上田:
私は多機能トイレではつえを使って便器を探すのですが、最終的には手で触るので、念入りに手を洗うようになりました。エアータオルが使えなくなったこともちょっと辛いですね。代わりのペーパータオルが置いてある場所はすぐには分かりづらいし、濡れた手で洗面台を手探りするわけにもいきません。持ち歩くハンカチの数を増やしました。
小澤:
外出先ではできるだけトイレに入らなくなりました。普段、困っていることのひとつが石けんのディスペンサーの操作。私は力が入らないので、手で押すタイプだと石けんがなかなか出てこないんです。コロナ禍を機に、センサー式で出てくるオートディスペンサーが増えるといいですね。トイレのフタも自動で開いてほしい。多機能トイレはなぜか汚れていることが多いので、できるだけ触りたくないのです。それと、立ち座りのときに必ず手すりを使うので、手すりが抗菌だと本当に嬉しいですね!

1968年から徐々に進化を遂げた自動水栓

1968年から徐々に進化を遂げた自動水栓

中島:
松原さんに伺いたいのですが、自動水栓など非接触型の商品は、いつ頃から開発されていたのですか?
松原:
資料を紐解くと、自動水栓の歴史は1968年から始まっています。その頃はカウンターの下から電波が出る仕組みでした。何しろ古い話なので詳しい事情はわからないのですが、2年ほどで販売終了になっています。そこからしばらくして、1984年に赤外線による自動水栓が登場しました。初期の頃は使い方がわからず混乱もあったようですが、1996年にO-157が流行したことで注目され、いまでは国内外で販売台数800万台を突破しました。

「衛生面を考えると、自動水栓が望ましい」(松原さん)

現在は商業施設のトイレはほとんど自動水栓になっていますが、学校などは未だにハンドル式です。私たちは濡れたハンドルにどれくらいの菌がいるのかを調査し、学校関連の設備担当者に自動水栓の必要性を提案しています。
上田:
やはり濡れたところには菌が多いんですか?
松原:
ええ。この一年弱は、学校で電池式の自動水栓への取り替えが進んでいます。配線工事が必要なく、短時間で取り替えられます。電池式の自動水栓は、去年の今頃と比べて何倍も売れているんですよ。
上田:
すごい! でも、よく考えると学校はインフルエンザやノロウイルスが流行って学級閉鎖になったりするから、水まわりを非接触型にするのは合理的ですよね。

電池式の自動水栓は、元の水栓と取り替えるだけ。電気の配線は不要なので工事時間が短縮できます(写真提供/TOTO)

「おしゃれなシンクもいいけど、機能的であるほうが嬉しい」と3人

小澤:
私たちが通っていた頃は、学校の水まわりというと硬い十字型の蛇口に、使い古したみかん用ネットに入ったレモン石けんでしたよね。
松原:
いまでもそのような学校はありますよ。私の娘の通う高校は、トイレは最新式ですが石けんはネットに入れてつるしてありました。
小澤:
2020年にもなって!? 石けんもオートディスペンサーになるといいですね。
中島:
あ、オートディスペンサーについて質問させてください。1回で出てくる泡の量では少ない気がして何度も追加してしまうのですが、あの量は何か裏付けがあるのでしょうか。
松原:
ええ、商品化するにあたって、何グラムでどの程度汚れが落ちるのかを調査しました。その結果、1グラムで99%落ちることが明らかになったので、それを踏まえた量にしています。石けんの量が多いと、洗い流す水の量も増えてしまいますから、多ければいいというわけではないんです。
中島:
そうでしたか! じゃあ、私は普段使いすぎなんだ……。
小澤:
私は、自動水栓で1回に流れる水の量も少ない気がしていました。洗っている途中で水が出なくなって、何回もセンサーに手をかざしがちです。
松原:
それはセンサーの感度の問題ですね。自動水栓は吐水口から赤外線を出して、手からの反射を感じている間は水を出すという仕様です。ただ、手を動かすので、信号の反射が途切れがちなんですね。多少途切れても水が出続けるようにプログラムしてはいるものの、かくいう私も途中で水が止まってしまう経験はあります(笑)。まだ改良の余地がありますね。
上田:
よく水が途切れるので、私は赤外線に感知されてないのかな、と思ってました(笑)。
松原:
実は、自動水栓も徐々に進化しています。以前は胴体部分から水平に赤外線が出ていたのですが、水は斜めに出るので、手に当たりづらかった。なぜ水平にしていたかというと、斜めだと洗面器からの反射を拾ってしまい、誤作動で常に水が出続けてしまうことがあるからです。 現在は洗面器からの反射と手からの反射の光の質を見分ける技術ができたので、水が出る方向に赤外線を出せるようになりました。ですから、最新の商品は使い勝手が改善されていると思います。
小澤:
へえ〜! 自動水栓にそんな技術が……。
上田:
開発や改良の裏話を伺うのはたまらないですね! 驚きが多い!

設置場所を広げる、発電する自動水栓

設置場所を広げる、発電する自動水栓

中島:
コロナ禍でこれまでにないような色々なニーズが出てきているのでしょうね。
松原:
やはり非接触に関するお問い合わせは多いのですが、取り付けるスペースの広さや配線、給排水設備などさまざまな制約があるので、どんな場所にも同じ商品を取り付けられるわけではありません。取り付けやすさを配慮して、電池式の自動水栓をご用意していますが、2年ほどで電池交換の必要があります。そこで、水の流れで発電する、マイクロ水力発電式の自動水栓も提供しています。
上田:
水力発電!
松原:
サービスエリアなどでは、すべてをAC100Vにしてしまうと災害時に不便なので、いくつかはマイクロ水力発電式にするといった選択をされているところもあります。それなら停電しても手洗いできますから。
中島:
災害時のトイレ問題は重要です。トイレは人の尊厳に関わるものだから、快適に使えないと気持ちが荒んでしまう。避難所生活での人間関係や、心の立ち直りも左右すると思います。

発電の仕組み。水流で発電し、蓄電した電気でセンサーと電磁弁を開閉させます(資料提供/TOTO)

皆さん、トイレの開発裏話に興味津々です

  • 「水力発電を利用して水を出す自動水栓は初めて知りました」(上田さん)
  • 「災害時のトイレの課題の解決策にもつながりますね」(中島さん)
  • 「石けんのオートディスペンサーも増えるといいですね。手の力の弱い人は助かるはず」(小澤さん)
小澤:
私も災害時のことは心配でしたが、発電式があると聞いて少しほっとしました。トイレは本当に奥深いと思います。色々な視点から考えて開発している技術者がいて、それによって世界に誇れる日本のトイレ文化ができていて。
上田:
水まわりのことは何時間でも話してしまいます。前回も同じことを言っていましたね(笑)。
中島:
本当に。もっとたくさんの人と話していきたいですね。

編集後記新型コロナウイルス感染の拡大を機に、トイレで排せつしたり、手を洗うという行為に改めて目が向き、これまで以上に衛生対策に力を入れているという声は少なくありません。今回の取材で見えてきたように、障がいのある方々にとっては身体のコンディションによって、それぞれに新たな課題が明らかになっています。コロナを経てシフトしつつあるニューノーマルの世界で、障がいのある方々、健常者の方々が同様に快適に暮らしていくためにも、「非接触」など新たな要件をユニバーサルデザインに加えていくことが求められています。編集者 介川 亜紀

写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀  2021年1月29日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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