TOTO汐留ビルディング オフィスにて
vol.52 座談会すべての人が安心して使えるパブリックトイレとは?性的マイノリティ-LGBT-座談会[後編]
実は、多くの人に望まれている男女共用トイレ
―――「こういうパブリックトイレがあったらいいのに」「もっとトイレがこうなったらいいのに」というアイデアやご要望はありますか? たとえば、すべてのトイレを個室にするとか、「だれでもトイレ」を増やすとか。
- ゆずま:
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たとえば男性トイレがすべて個室になったとしても、「だれでもトイレ」(※1)があったら自分はそちらを使うと思います。なぜなら、一般的な個室トイレは上が開いているから。小学校のとき、男子に上から覗かれたことがあって、天井まで壁があるトイレでやっと「ここなら入りたい」と思えるんです。
(※1)「だれでもトイレ」とは多機能トイレなどの男女共用トイレを指す
―――男女共用トイレはどう思いますか? 前半でご指摘があった通り、「だれでもトイレ」には、車いす使用者の方優先のイメージがあります。そこで、TOTOでは車いす使用者トイレとは別に、少し広めの男女共用個室トイレを増やしていくのはどうかと検討しています。
小さい女の子を連れたお父さんや、パートナーの介助をしたいご夫婦など、LGBTの方以外にも、男女共用の広めのトイレを求めている方はいらっしゃるんです。
TOTOが企画・提案を進めている広めの男女共用トイレの図(資料/TOTO)
「LGBTが使いやすいトイレになった結果、ほかの誰かが使いにくくなってしまう状況は避けたい」とやくしさんは強調する
- ゆずま:
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それがすごく特別感のあるものだと、正直使いづらいですね。また、「だれでもトイレ」の隣にその広めの男女共用トイレが並んでいた場合、どちらを使うべきか戸惑いそうです。もちろん、「だれでもトイレ」を設置するほどの場所の広さや、機能、予算が必要ないので施設で採用しやすく、とてもいいと思います。自分としては、「だれでもトイレ」が2つ並んでいて、文字通り「だれでも使っていいですよ」というサインがあるほうが嬉しい。
- そうし:
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高速道路のサービスエリアのトイレのように、短時間に多くの人がスムーズに用を足せるほうがいい場所では、あらためて工夫を考えてもいいかもしれません。たとえば、男女でトイレを分けるのではなく、片方には個室トイレ、片方にはパーテーションで区切られた小便器が並んでいるというように、機能で分けるやり方もありますね。
男女共用トイレは「異性と同じトイレを共用するのが嫌」という議論も出そうですが、たとえば、パウダールームを別に設置すれば抵抗も薄れるのではないかな、と。最近、居酒屋などでもこういうトイレを見かけます。
- ゆき:
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「用を足す」という用途だけ考えたら、結局は男女が分かれていなくてもいいのではないでしょうか。
「どのようなトイレだと入りにくいか、気後れしてしまうか」を説明するXジェンダーのゆずまさん
―――一般家庭のトイレも、飛行機のトイレも分かれていませんね。「パブリックトイレは男女で分かれているべき」というのは、染み付いた固定観念なのかもしれません。
- やくし:
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男女共用トイレを増やすと、例えば一部のトランスジェンダーや、異性の子どもと一緒に使用したい保護者など、トイレに行きやすくなる人もいるかもしれません。一方で、男女共用トイレに抵抗感のある女性もいるかもしれません。男女共用トイレに変えることで、他の人たちがトイレに行きづらくなってしまったら、状況が逆転するだけで解決にはなりません。難しいですね。
現在、労働安全衛生規則で、職場に男女別にトイレを設置することや、従業員数に対する設置数が決められています。規則ができるまでは、職場によっては男性トイレしかなく、働いている女性社員が支障をきたすこともあったと聞きます。女性トイレは、女性の権利の象徴でもあると言えますね。ですから、果たして、それをなくしてしまっていいのかとも思います。使えるトイレの選択肢を増やすこと、その選択肢がみんなに開かれていること、理解を促していくこと、ただただこの3つを粛々と実践していくことが解決への道なのではないでしょうか。
選択肢が増えるので、私は「少し広めの男女共用個室トイレ」を増やすことに賛成です。「だれでもトイレ」は、スペースに十分な余裕がなく設けられない施設もあるでしょう。男女別トイレが使いづらい人のためにも、まずは、「少し広めの男女共用個室トイレ」を増やすことは解決策の糸口になるのではないかと。
ただ、それが必ずトイレの課題を解決するかと言われるとそうではなくて、50年後まで見据え、そうしさんの言うように、トイレは機能別に分けるという方針に切り替えていくなど議論を進める必要があります。とはいえ、人の意識の変化には数十年はかかるでしょうし、今、困っている人たちを救う解決策も考えなければ。
- そうし:
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「こんな社会になったらいいよね」というゴールを見据えながら、「でもいまの時点ではこれがベストだよね」というものを形にしていくことが大事なのでしょうね。
トイレには、LGBTを象徴するレインボーマークをつける?
―――トイレのサインについてもぜひご意見をお聞かせください。どのようなサインをつければ、より多くの人が入りやすくなるでしょうか。実際に使われているものはさまざまで、社会でもどれがいいのか議論されている状況のようです。
- やくし:
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意見が分かれるでしょうね。LGBT用のトイレという掲示や、身体の半分を男性、半分を女性にしたサインの使用については、批判的な意見も耳にします。
- ゆき:
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「緊急の方も使っていいですよ」ということを示すマークをつけるのはどうでしょうか? おなかを下しやすい人やトイレが近い人は、一分一秒でも早くトイレに入りたい、空いているなら、だれでもトイレを使いたいという場面もあると思います。そういう人のためのマークをつくれば気後れなく入れるし、誰でも「緊急なんです!」といって入りやすくなると思います。
- そうし:
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本来、使用する人が知りたいのはトイレの機能のはず。なので男女のサインは使わず、トイレそのもののサインや、中にある機能を示すだけでもいいのかもしれません。
- やくし:
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究極を言えば、「だれでもご自由にお使い下さい」でいいのでしょう。ただ、海外の人にもわかりやすくする必要があるし、そこに車いすなどのサインを加えるとほかの人が入りづらくなるのなら、多様なセクシュアリティの意味合いとしてレインボー(※2)マークなどをつける意味はあると思います。
(※2)赤・橙・黄・緑・青・紫の6色の虹は性的マイノリティの尊厳や理解があることを示す国際的な象徴とされている
- そうし:
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レインボーマークは本来、性の多様性を応援・推進する気持ちの表れとして掲げるものなので、「はたしてトイレは啓発をする場所なのか?」という疑問の声も聞きますね。
以前、学校で働いていたえりこさんは、「学校に『だれでもトイレ』がないと、LGBTの子どもたちが困ることは多いのではないか」と話す
―――トイレに困っている人がいることを理解してもらう意味で、あえてレインボーマークをつけているところもありますね。
そのような事例を踏まえると、レインボーマークをつけることに、皆さんは賛成、反対どちらでしょうか。
- やくし:
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一概に賛成・反対とは言い切れません。しかし、オストメイト(※3)のサインは、それをトイレにつけた結果、認知が広まったと聞いています。同様に、トイレにレインボーをつけることで話題になり、LGBTの理解促進や啓発につながるという社会的な意義もあると考えています。
(※3)オストメイトとは、手術によって腹部に排せつ口(人工肛門、人工膀胱)を造設した方のこと
- えりこ:
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私の友達にはレインボーマークがあると嫌という人もいます。そのトイレを使用することでLGBT当事者と見られてしまうのではないか、と。ただ用を足したいだけなのに、それがカミングアウトにつながってしまうならマイナスですよね。
- ゆずま:
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レインボーだと、白黒でシックにまとめた施設のデザインバランスが崩れてしまうとか、色覚異常の人には見えづらかったりするとかが気になります。色よりも、形で表したほうがいいかもしれません。
- ゆき:
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「きっと、施設の方はアライ(※4)なんだな」と嬉しくなりますね。ただ、私は、レインボーの有無でトイレを選ぶことはありません。賛成でも反対でもないですね。
でも、自分はレインボーマークがあるトイレを見ると、「ここは使っていいんだ」と安心して、気持ちよく利用できます。
(※4)LGBTなど性的マイノリティを理解し、尊重するという考え方やそのような立場を明確にしている人々を意味
- きょうへい:
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レインボーマークは本来、LGBTを応援しているその「気持ち」を可視化するときに使うものです。そこをちゃんと理解をしていれば、「LGBTはここを使いなさい」という限定的な意味だとは考えないでしょう。
- そうし:
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トイレに関する問題は、LGBT当事者の中でも、意見が分かれるでしょうね。
- やくし:
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LGBTすべての意見が共通しているということはなく、個人で様々な意見があります。また、本日の座談会に参加した私たちはLGBTを代表しているのではなく、あくまでLGBTでもある個人として発言しています。
私やこのメンバーのように座談会で話すような人は「困ってます」と言える人。言えない人のほうが、悩みが深刻な場合も少なくありません。そういう人たちの声まで広くすくい上げていきたいですね。
「我々はレインボーの意味や背景を啓発する側だから知っているが、LGBT当事者でも知らない人のほうが多いので、使うときは誤解のないように注意したい」ときょうへいさん(左)
―――最後に、何か読者の皆さんに伝えたいことはありますか?
- そうし:
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先にやくしさんが言ったことと重なりますが、トイレの問題をLGBTに限定して語るのは、少し違和感があります。僕自身は「トイレに困っていますか」と聞かれれば、「困っていません」と答えます。トランスジェンダーに困っている人が多いわけですが、かといってトランスジェンダーだけの問題で自分には関係ないとは思っていません。自分も使うものだから。みんなが使いやすいトイレを考えたほうがいい、と伝えたいです。
- やくし:
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やはり、「男女で入り口が分かれていて、中に入ると個々の空間は仕切られていない」というような、今まで一般的と思われてきたトイレの構造で困っている人は、LGBTに限らずいらっしゃると思います。だから、誰もが使いやすいトイレのあり方を考える上で、ジェンダーで二分すると使用しづらい方がいることを念頭に議論するのは大きな意味があると思います。
反面、今日にもパブリックトイレを使えていない人がいるわけで、その議論や解決も急ぐ必要があります。ジェンダーやセクシュアリティにかかわらず、だれもが安心・安全にトイレを使えるように、ハード面では議論、ソフト面では周囲の理解が進められたら幸いです。
「現在の困りごとを基点に解決策を考えるのか、将来の世の中の理想像から遡って、今何すべきかを考えるのか。2つの方向性がある」とそうしさん(中央)
※当記事の内容は、あくまでも座談会に参加いただいた皆様のご意見です。
【ご案内】こちらで性的マイノリティ配慮のトイレに関するTOTOの動きや提案をご紹介しています。
NPO法人ReBit LGBTを含めたすべての子どもがありのままの自分で大人になれる社会を目指すNPO法人。学校・教育委員会・自治体で生徒・教職員向けに出張授業や研修を行う「LGBT教育」、年齢・セクシュアリティ不問の成人式「LGBT成人式」、LGBTの就活支援や企業への就活に関する研修を行う。
編集後記新たなパブリックトイレを考えていくときに、早急に対応すべき課題とじっくりと議論すべき課題があるのですね。どちらかを選ぶのではなく、双方を並行して実践していくことになりそうです。とはいえ、施設や設備機器の更新は、時間を要するもの。社会全体として解決に歩みつつ、その半ばに続く悩みは、使う人たち同士の意識や心配りで補っていきたいですね。日経デザインラボ 介川 亜紀
写真/鈴木愛子 取材・文/飛田恵美子 構成/介川亜紀 監修/日経デザインラボ 2018年4月9日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。