ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)
TOTOx日経デザインラボのコラムです。
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vol.09とvol.10でご紹介するのは、70代の夫婦と長女が暮らす一戸建て。白を基調にしたシンプルな外観と濃茶の木材を生かした内装、ダイナミックな開口を設けた空間は、海沿いの居心地のよい別荘を思わせます。実は、以前の住まいの老朽化を機に、「大人3人」の快適な暮らしをテーマに建て替えたといいます。
そのテーマを実現するため、家づくりの際に建築家に伝えた希望は主に2つありました。ひとつは、この家で暮らす大人3人それぞれが気兼ねせず、楽しく暮らせること。もうひとつは、今後、身体が動きにくくなっても、なるべくひとりで移動でき家事もこなしやすいこと。
設計を手掛けた建築家の西田司さんは、上記の希望を融合させ、“バリアフリーがさりげなく溶け込んだ、自然素材がアクセントの住まい”を提案。「シニア層に限らず、住まいにはバリアフリーの工夫と好みのデザインや機能が両立しているべきでしょう。その方が断然、心地いい」と西田さんは話します。
Vol.10では、ひとりではもちろんのこと、介助が必要になってからも日常生活を快適に送るための機能的な工夫を集めました。
左/上がりきった踊り場の窓が、階段を心地よくする
右/段差は約15センチ。スリッパをはいても上りやすい
段差をごく浅く抑えた
緩やかな階段
2階への階段は段差をごく浅く、踏面を深くしたので、斜度がとても緩やか。以前と比べて1階から2階への移動が非常にらくになり、住まい手は「階段というより、緩やかな丘を登る感じ」と話します。絨毯が敷いてあり足ざわりが柔らかいことも、上るときの快適さを一層増しています。階段の幅は130センチと広く、介助してもらう際も十分に余裕があります。
左/玄関とLDKの間は大型の引き戸。冬は暖房費の節約も
右/トイレの2カ所の引き戸はすべて開け放せる
1階の各部屋の入口は
開け放しにできる引き戸
1階のLDK、トイレ、和室など使用頻度の高い部屋の入口は間口を広くとったうえ、すべて引き戸にしました。一部の引き戸を開け放しておくことで、空間の視覚的な広がりが増すうえ、室内に通風を保つことができます。引き戸は、心地よい生活空間づくりの強い味方です。また、開けたままにできるので、車いすや杖を使っていても、介助をしてもらっているときもスムーズに出入りできます。
左/洗面所から浴室を見る。浴室の外開き窓からは借景も
右/洗濯機の横にエアコンつきの物干し場と収納家具がある
洗面所に物干し場も併設
家事の動線をぐんと短縮
リタイア後は家事の負担を減らすことも、生活しやすさにつながります。O邸では、浴室と洗面室をキッチンのそばに設けたうえに、洗面室の一角には物干し場もつくったため、この周辺で一気に家事を終わらせることができます。キッチンから洗面室、浴室までにかけてはほとんど段差もありません。浴室には大型の窓を設けて風と光を呼び込み、清潔な環境を保ちやすくしました。もちろん、毎日のバスタイムも快適です。
家族構成/夫婦+長女
構造/在来木造
竣工/2010年9月
工期/2010年2月~2010年9月
敷地面積/248.15m²
延床面積/173.95m²
建築設計/有限会社オンデザインパートナーズ
西田司、後藤典子
少子高齢化が進むにつれ、リタイア後は子供や孫と一緒の多世代家族ではなく、大人のみの家族として暮らすケースも増えてきます。大人ばかりの生活では、O邸のような「気兼ねせず、楽しく暮らす」というスタンスはとても大切なこと。それを前提とした家づくり、リモデルは今後の大きなテーマのひとつといえそうです。また、全員が楽しく暮らすために、使いやすい、動きやすい工夫を盛り込むことは、必要不可欠な条件といえますね。 介川亜紀
写真/山田愼二 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2013年3月22日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。