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2018.02.08
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【シリーズ企画】もっと知りたい!ヴェネチア・ビエンナーレ
2.2016年のビエンナーレはどんな展覧会だった?
ヴェネチア・ビエンナーレの主会場はジャルディーニ地区とアルセナーレ地区。12世紀につくられた造船所(アルセナーレ)跡のあるアルセナーレでは企画展示とパビリオンをもたない国による展示、ジャルディーニ地区では各国パビリオンの展示と中央パビリオンでの企画展示が行われる。今回は2年前のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展をジャルディーニ会場に絞って振り返ってみよう。

「REPORTING FROM THE FRONT(最前線からの報告)」という総合テーマを設定したのは前回、総合ディレクターをつとめたアレハンドロ・アラヴェナ。アラヴェナはチリの建築家で、建築界での最高賞といわれるプリツカー賞を2016年に受賞している。この受賞では住宅問題への取り組みが大きく評価されたが、彼の仕事には一貫して設計行為をさまざまな社会的な問題へとコネクトさせていく姿勢を見てとることができる。総合テーマ発表時のステートメントでも、厳しい社会状況のもとで、さまざまな難題に直面しながらも建築環境と生活の質の改善を目指す最前線での試みを幅の広い層へと伝えたいと述べていた。

企画展示部門で金獅子賞を受賞したパラグアイの建築家、Solano Benítez( Gabinete de Arquitectura)の作品は、ジャルディーニ会場中央パビリオンの中心部分にすえられた巨大なインスタレーション(下の写真1)。レンガとモルタルというありふれた素材を使ってつくられたアーチは熟練工でなくとも構築することが可能で、十分な社会的サービスを受けることができない人たちに建築をつくる機会をもたらすものと評価された。

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すべて中央パビリオンの展示風景。1は金獅子賞を受賞したSolano Benítez(パラグアイ)の作品。2~ 8の作家は次の通り。2:Designworkshop(南アフリカ)、3:Battle i Roig(スペイン)、4:SANAA(日本)、5:Simón Vélez(コロンビア)、6:Elton Leniz(チリ)、7・8:Jiakun Architects(中国)。5は竹を使った作品で知られる建築家。安価で、容易に入手と再生が可能な竹を構造素材として使用している(以下、※、※※以外は内野撮影)

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アラヴァナによる総合テーマの発表が2015年8月と時期的に遅かったため、日本をはじめ参加作家の選定がすでに終了しているパビリオンもあり、各パビリオンがどの程度まで彼の問題設定に応じているかは不明だが、国別参加部門で金獅子賞を受賞したスペイン・パビリオンの選んだテーマはアラヴェナが設定したテーマに通ずるものだった。

そのテーマは「Unfinished(未完成)」。これには未完成の住宅を居住者に委ねて完成させる「incremental design(漸進的なデザイン)」というアラヴェナの設計手法との親和性も感じられた。経済危機により建設途中で放棄されたプロジェクトや「Adaptable(適応可能)」ほか9つのキーワードで分類された55の建築プロジェクトなどが展示されたが、メタルのフレームに固定されただけの写真と建築図面をメインとして、ストレートにケレン味なく見せる展示が、全体として洗練された空気感を漂わせて好感度の高いものとなっていた。

すべてスペイン・パビリオンの展示風景。写真と建築図面をメインにすえメタルフレームのユニットを使った展示が、シンプルだが目を引いた。天井から吊るされた7つのフレームユニットはそれぞれ異なる写真家による作品がはめこまれ、観客はその間を歩きながら見る仕掛けになっていた

その他、スペインのようにアラヴェナのテーマに応じたテーマ設定と感じられたのが、難民問題を取り上げたパビリオンである。

近年、各地の紛争から発生した社会問題として世界的に大きくクローズアップされてきた難民の問題は、即、自分たちの切実な社会問題としてとらえざるをえないドイツやオーストリア、オランダといったヨーロッパの国々によって取り上げられた。そのアプローチはパビリオンによりさまざまだったが、ドイツでは難民の住空間や難民をとりまく雇用や教育などの問題に関するリサーチ、オランダは国連が運営する難民キャンプのリサーチや提案の展示(下の写真8)を行い、オーストリアは、「Places for People」のテーマのもと製作された持ち帰り自由の印刷物(写真2 ~ 4)を大量に展示した。

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7※(※は米田明氏撮影)

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1~ 3:「Places for People」がテーマのオーストリア・パビリオン、2・3は大判のポスターサイズのもの、4は新聞紙大のレポートとフォトエッセイ。前者が72頁、後者が40頁にもなる大変力の入ったものだった。5・7:「In Therapy」がテーマの北欧3国パビリオン、6:「Together」をテーマとしたブラジル・パビリオン、8:「Architecture of Peacekeeping Missions」がテーマのオランダ・パビリオン

そのほかの展示の一部を紹介すると、スイスはクリスチャン・ケレツによる「Incident Space(偶発的空間)」を展示(下の写真5)。雲を固形化したようなこの作品は内部に入って空間を体験することも可能であった。変わり種としては、内部にプールを仮設したオーストラリア(写真6・8)やカリカチュアライズされた機械仕掛けの人形を展示したルーマニア(写真3)などがあった。

総じて見るならば、賞を狙うテンションで臨んだパビリオンから特に気負うこともなく参加しているように見受けられたパビリオンまでそのスタンスは幅広く、このような多様さが、祝祭都市ヴェネチアの雰囲気と相呼応してビエンナーレのお祭り的な側面を強めることに一役買っていたようにも感じられた。

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1・2:「Urban Forces」がテーマのベネズエラ・パビリオン、3:機械仕掛けの人形展示はルーマニア・パビリオン、4:カナダは閉鎖中のパビリオン(左奥)の近くでゲリラ的な映像展示(小さな穴から覗き込む)を行った、5:スイス・パビリオンのクリスチャン・ケレツの作品、6・8:内部にプールを仮設したオーストラリア・パビリオン、7:「Heroic:Free Shipping」がテーマのセルビア・パビリオンでは船を思わせる空間を体験

とはいえ、お祭り的な会場の空気感が旅先での鑑賞をさらに高揚させてくれる一方で、展覧会というイベントのメリット――会場の空間体験とセットで展示を楽しむ――を活かしきれていないパビリオンがあったのは気になった。この傾向が強くなると展覧会という形式の存在意義にも疑問符が付きかねないが、次回は吉阪隆正設計の空間に正面から向き合って、そこでしかありえない展示のあり方を探りつつ新しいテーマに果敢にチャレンジしたわが日本パビリオンを取り上げる。参加作家の声も紹介予定なのでご期待ください。

内野正樹 Masaki Uchino
1960年静岡県生まれ。雑誌『建築文化』で、ル・コルビュジェ、ミース・ファン・デル・ローエら巨匠の全冊特集を企画・編集するほか、映画や思想、美術等、他ジャンルと建築との接点を探る特集も手がける。同誌編集長を経て、『DETAIL JAPAN』を創刊。現在、ecrimageを主宰。著書に『一流建築家のデザインとその現場』『表参道を歩いてわかる現代建築』(以上、共著)『パリ建築散歩』『大人の「ローマ散歩」』がある。
シリーズアーカイブ
1.ヴェネチアでビエンナーレが開かれるようになったのは
どうして?
ヴェネチアは、海上の祝祭都市のイメージ。ビエンナーレが開かれるようになったのは、ヴェネチアの歴史と無関係ではなかった・・・
2.2016年のビエンナーレはどんな展覧会だった?
国別部門で「金獅子賞」を受賞したスペインの展示をはじめ、日本以外の国の展示はどうだったのか、ご紹介していきます。
3.参加作家に聞く、2016年の〈ビエンナーレ体験〉― 前編
ヴェネチア・ビエンナーレの参加作家に対して、出展作品の制作にどのような意識で臨んだのか、ビエンナーレの会場ではどのようなことを感じたのか。さらに、ヴェネチアでの反応はどうだったのか、いろいろ伺ってみました。
4.キュレーターの山名善之氏に聞く、
2016年のビエンナーレ
今回は​、​2016 年のビエンナーレでキュレーターをつとめた東京理科大学の山名善之教授​への​インタビューです。

日本パビリオン の会場となった吉阪隆正設計による建物​​のトピックや、​ビエンナーレという場で​、​世界に向けて発信してみた感想、​また、ビエ​ンナーレという世界的な舞台でデビューした参加作家の人たちへの今後の​期待などお話をうかがいました。
5.参加作家に聞く、2016年の〈ビエンナーレ体験〉―後編
ついにシリーズ最終回です。前々回(第3回)に続いて、ヴェネチア・ビエンナーレの参加作家が登場。
「403 architecture [dajiba]」と「ドットアークテクツ」の2組に話を伺いました。
関連書籍
ヴェネチア·ビエンナーレ
編者=山名善之+菱川勢一+内野正樹+篠原 雅武
ヴェネチア·ビエンナーレ
著者=北山恒、塚本由晴、西沢立衛
ヴェネチア·ビエンナーレ
著者=伊東豊雄、乾久美子、藤本壮介、平田晃久、畠山直哉
関連展覧会