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建築家・中川エリカを知る――人の思いが現れる建築
1. 中川エリカを知る ~中川エリカって、どんな建築家?~
2020/11/6
①中川エリカって、どんな建築家ですか?
中川さんは独立後6年目になる若手建築家です。独立前にオンデザインに勤務していた時、初めて基本設計から手がけた「ヨコハマアパートメント」(2009年)が大きな話題となりました。独立した階段からアクセスする4つのワンルームが大きな半屋外空間を共有する「ヨコハマアパートメント」は、住民や近隣住民の間で活発にいろいろな交流が生まれ、竣工を祝う企画が403architecture [dajiba](Y-GSAの同級生であった彌田徹、辻琢磨、橋本健史により2011年に設立)結成のきっかけになるなど、近年の建築の動向を語る時に外せない建築になっています。「ヨコハマアパートメント」で西田司さん(オンデザイン代表)とともに建築家の登竜門と呼ばれるJIA新人賞を、また独立後に「桃山ハウス」で吉岡賞を受賞。建築が完成するたびに話題となり、議論の対象となるような作品が続いています。中川さんの建築には、人々の気ままな振る舞いが起こるような、ゆったりとした心地よさがあるように思います。そしてその状況を、ただ放り出しているのではなく、受け止める力のある構造の検討をするなど、建築としてまとめあげようという意欲が形となって見えているところが特徴だと思います。

©Koichi Torimura
「ヨコハマアパートメント」竣工7年後の様子

②どんなところが評価されているのでしょうか?
3年前のインタビューで「建築を通じて、人の思いや暮らしといった、ふわっとした目に見えないものがフィジカル(身体的)に建ち現れる。その時の感動に、設計のすべてを繋げていきたいと思っています」と語っていた中川さんは、今も建築が建つことで生まれる状況そのものに強く関心をもっているように見えます。それは設計者が決めて、使う人が従うというようなものではなく、使う人の自主性を存分に受け入れることができる場として、形を与えて建築を成立させているのだと思います。
独立後に手がけた「桃山ハウス」(2016年)を訪れた時、恐れず引かず設計をするという強い意思を感じたのを覚えています。その時にはなぜそう感じたのかを私自身はうまく説明できませんでしたが、今回の発行予定の『中川エリカ 建築スタディ集 2007-2020』に収録された西沢大良さんとの対談で解き明かされています。

©yujiharada
「桃山ハウス」1/20模型

③どんな作品をつくっているのでしょうか?
独立以降、前述の「桃山ハウス」以外に、クリエイティブ集団『ライゾマティクス』のオフィスの設計や新宿パークタワーの勤務者専用ラウンジなどのオフィス空間を手がけています。また、いくつかの住宅プロジェクト、企業と協働したプロジェクトなどが進行中です。
ライゾマティクスのオフィスは、倉庫だった天井の高い開放的なワンルーム空間を活かし、スタッフ間のコミュニケーションの活性化をうながす設計になっています。ライゾマティクスの個性豊かなスタッフたちが自由に場所を選びながら働けるように、スタッフの人数の倍以上の席が用意されていて、使い方や集まり方によって、自然に場ができて、また解散していくような流動的なオフィスのあり方の提案です。ここでも、使う人自身が使い方を発見できるような空間が生まれています。「ビッグテーブル」と呼ばれる中2階をつくることで、上から働く同僚を眺めることができ、話しかけなくても「あの人は今、忙しそうだ」とか「今、こういう仕事をやっていそうだ」というコミュニケーションが生まれているそうです。
④どんな特徴がありますか?
中川さんは、とにかく大きな模型(縮尺:1/30など)をつくりながら、設計を進めています。オフィスは大型模型や模型の素材、実際の材料のサンプルなどで埋め尽くされています。たとえば、敷地模型を1/30で模型化することで、敷地と敷地周辺において、何が設計に重要なのかということを理解できるといいます。また、中川さんのオフィスでは敷地模型に加えて街の詳細なドローイングを描いています。対談で西沢大良さんは、それらがもらたすユニークな設計手法について、中川さん自身、気がついていなかった点についても指摘しています。

©Erika Nakagawa Office
「桃山ハウス」の街のドローイング。中川さんの事務所では「街のコンテクスト図」と呼んでいる。

⑤どんな人柄でしょうか?
インタビューの時には、全身が耳になっているのではと思うくらいに神経を研ぎ澄ませて相手と対話をし、目をキラキラとさせて建築のことを語っていた姿が印象的でした。建築設計の過程、また建築作品を通して、出会う人々との交流も糧にぐんぐんと吸収していく植物のような伸びやかさを感じます。作品を発表するたびに大きくジャンプアップしていくような爽快さもありますが、同時にとても謙虚に周りの人の意見を聞いている、という印象もあります。ありふれた表現ですが、一言で言うと「これからがとても楽しみな建築家である」となります。西沢大良さんとの対談のまとめを依頼された時には、どんな対談が繰り広げられるのか、楽しみで仕方なく、ふたつ返事でお引き受けしました。
中川エリカポートレイト

©yujiharada

中川エリカ Erika Nakagawa
1983年東京都生まれ。2005年横浜国立大学工学部建築学科卒業。07年東京藝術大学大学院美術研究科修了。07~14年オンデザイン。14年中川エリカ建築設計事務所設立。

柴田直美 Naomi Shibata
編集者。武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築雑誌「エーアンドユー」編集部に勤務。2006~2007年、オランダにてグラフィック・デザイン事務所thonik勤務(文化庁新進芸術家海外研修制度)。以降、編集やアート・プロジェクトを中心に国内外で活動。www.naomishibata.com
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