ユニバーサルデザインStory

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Story13
前編
インタビュー

パブリックトイレが目指すさらなる進化。個のニーズを反映したUDとは?

story13 前編 パブリックトイレが目指すさらなる進化。個のニーズを反映したUDとは?

社会の変化を受けて、パブリックトイレにも変革が求められています。たとえば、近年ではバリアフリートイレ(旧多機能トイレ)の利用集中を緩和するため、オストメイト用設備、乳幼児連れ配慮設備などの機能を分散させることが推奨されるようになりました。また、トランスジェンダーや異性介助が必要な方を中心に、男女共用トイレのニーズも高まっています。長年、バリアフリーやユニバーサルデザインの活動に貢献してきた東洋大学名誉教授・髙橋儀平さんに、多様なユーザーが使いやすいパブリックトイレのあり方を伺いました。

  • 東洋大学名誉教授 東洋大学工業技術研究所客員研究員
    髙橋儀平(たかはし・ぎへい)さん
    1982年に国際障害者年日本推進協議会(現日本障害者協議会)、1994年にハートビル法制定時の建築設計標準の作成に関わり、以降、継続してバリアフリーやユニバーサルデザインの活動に関与。東京2020オリンピック・パラリンピック大会関連では、新国立競技場のユニバーサルデザインやTokyo2020アクセシビリティ・ガイドラインづくりなどにも関わり、現在は国や地方公共団体のほか、民間事業者の設計活動を支援している。

新国立競技場で、パブリックトイレの機能分散を実現

新国立競技場で、パブリックトイレの機能分散を実現

髙橋儀平さん(以下、髙橋)

 あらためて、髙橋さんの代表的な仕事についてお聞かせいただけますか?

髙橋:

印象に残る大きな案件は、さいたま新都心の整備計画です。1997年に県から依頼を受け、関係者を集めてユニバーサルデザインのワークショップを展開しました。これが現在までの活動につながり、公共施設のユニバーサルデザインアドバイザーを務める際はワークショップを開いて関係者とともに計画を進めるようにしています。2013年には高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、大規模店舗でトイレの機能分散を実現するプロジェクトに取り組み、2014年7月からは新国立競技場の計画に関わりました。

髙橋さんとTOTOのメンバーとで構成した「ぐっどレストルーム研究会」で、多様な人々がより利用しやすいパブリックトイレについて議論を重ねてきました。

髙橋さんの提案が反映されたTOTOのバリアフリートイレ。主に洗浄ボタン等の操作系設備の配置や形状、色などを研究

 新国立競技場での取り組みについて、詳しく教えてください。

髙橋:
バリアフリーについて課題があったザハ・ハディド案の基本設計公表の直後から日本スポーツ振興センター(JSC)のアドバイザーとして携わり、トイレに関しては障がい者や高齢者などの当事者、事業者、設計者、発注者であるJSCなど、さまざまな方とワークショップを重ねました。多様性を追求する共生社会の理念をトイレでも発信しようと考え、バリアフリートイレの機能分散を強く推進しました。

左/新国立競技場には様々なタイプの機能分散型トイレが設置されました。こちらは異性介助などを配慮した男女共用トイレ。同伴者・当事者がそれぞれの排せつ時に待つスペースを設け、便器との間には目隠しのカーテンを取り付けました。右/オストメイト配慮タイプのトイレ。ドア付近にオストメイトを表すサインがあります。(写真提供/髙橋儀平)

 客席のユニバーサルデザインの見直しにも関わられたそうですね。

髙橋:

ザハの基本設計案が出たときに、障がい者団体から「IPCガイドライン(国際パラリンピック委員会がオリンピック・パラリンピックを開催する都市に求めるガイドライン)に沿っていない」という批判が寄せられたのです。私も不勉強でそれまでガイドラインを丁寧に読み込んでいなかったのですが、改めて勉強し直し、日本のガイドラインが国際基準から大きく遅れていることを痛感しました。そこから国土交通省のガイドラインの見直しとザハ案の監修作業を並行して行っていきました。

その過程では、障がい者団体の方にも議論に参加してもらっています。たとえば、客席は前の人が立っても後ろに座る車いすの人の視界が遮られないよう調整したほか、日本発達障害者ネットワークの提案を受け、パニックを起こした発達障がい者が落ち着けるカームダウン・クールダウンスペースを施設内に盛り込みました。

左/新国立競技場の車いす用スペース。同伴者用ベンチもIPC基準に沿っており、車いす使用者と並んで観戦できるようになっています。右/カームダウン・クールダウン専用のスペースのサインと室内。室内は防音仕様で外部からの音を遮断できます。(写真提供/髙橋儀平)

機能分散と男女共用トイレのニーズの高まり

機能分散と男女共用トイレのニーズの高まり

 パブリックトイレの使用者ニーズの移り変わりについて教えてください。

髙橋:

公共交通機関や施設のバリアフリー化が少しずつ進むにつれて、2003年頃からオストメイトや乳幼児連れなど多様な方が使えるトイレのニーズが高まってきました。そこで、「パブリックトイレの中に、おむつ交換台やオストメイト用設備がついた誰でも使えるトイレを最低でもひとつは設置しよう」という機運が高まり、車いす使用者トイレの多機能化が進みました。

しかし、2007年頃になると車いす使用者から「多機能トイレで車いす使用者以外の人が使っていて使えない時がある」という声が上がるようになりました。車いす使用者トイレの数が十分でないときに、複数の機能を集中させてしまったことで利用が集中し、そこしか使えない車いす使用者が困る事態になってしまったのです。そうした声を受け、2013年に多機能トイレの機能をほかのトイレブースに分散していこうと方向転換しました。国土交通省は2020年に多機能トイレという名称も廃止しています。

また、2016年頃から男女共用トイレの必要性が議論されるようになりました。これには、トランスジェンダーなど性的マイノリティの存在がクローズアップされ、オリンピック・パラリンピックなど世界的なイベントも後押しして設置が進んだことが背景にあります。パブリックトイレは2段階ほどバージョンアップしたといえるのではないでしょうか。

左上/男女共用トイレの一例。チャームボックス、着替え台、広めの洗面台などを設置。右上/男女共用トイレ入り口付近にはこのような立体サインも。左下、右下/いずれも一般トイレ内に機能分散を意識したパブリックトイレのモデル。左は「コンパクトオストメイトパック」を、右はおむつ交換台(ベビーシート)をそれぞれ設置しています。

<Information>
パブリックトイレのレイアウト例を考える「ケーススタディ」を公開!

施設の⽤途やそこに集う⼈により、パブリックトイレに求められる配慮は変わってきます。また、施設の規模や改修などの状況によってもトイレのあり方を考える必要があります。⼀⼈でも多くの⼈の使いやすさを⽬指したパブリックトイレを施設⽤途ごとにケーススタディでご紹介します。

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後編はこちら

写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀  2023年2月17日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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