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Story10 インタビュー

コロナ感染症対策による自宅待機を経て見えてきた、高齢者が安全・安心に暮らすための水まわりとは?

story10 コロナ感染症対策による自宅待機を経て見えてきた、高齢者が安全・安心に暮らすための水まわりとは?

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う外出自粛によって、高齢者の生活が不活発化し心身の機能が低下していると言われています。こうした状況のなか、ご家庭の水まわりはどうあるべきでしょうか。理学療法士として、日々高齢者と向き合っている株式会社くますま代表取締役の河添竜志郎さんにお話を伺いました。

  • 理学療法士/株式会社くますま代表取締役/日本支援工学理学療法学会副理事長
    河添竜志郎(かわぞえ・りゅうしろう)さん
    「その人らしく生きて、その人らしい暮らしを続けていただくために、リハビリテーションと住まいづくりでお客様のお手伝いをする」をモットーに、福祉に関する多様な事業を展開している。

社会との接点が減ると、心身の機能や意欲の低下が進む

社会との接点が減ると、心身の機能や意欲の低下が進む

河添竜志郎さん(以下、河添)

 河添さんのお仕事について教えてください。高齢者福祉に幅広く関わっているそうですね。

河添:

熊本で訪問看護ステーションやデイサービス、居宅介護支援事業所の運営のほか、福祉用具のレンタル・販売、高齢者や障がい者向けの住宅改修を行っています。TOTOさんとは1999年から、福祉用具の開発や水まわりの空間プランのアドバイス、ユニバーサルデザインにまつわる研修などで関わっています。

1974年に発刊され、更新されてきたTOTOの「バリアフリーブック」。社内での検証や研究を踏まえ、施設や住宅での水まわり空間の設計ノウハウをまとめています。河添さんは監修やアドバイザーとして度々関わってきました(写真提供/TOTO)

 高齢者のご自宅を訪問される機会が多いと思いますが、コロナ禍で高齢者の暮らしや意識にどのような変化があったか教えていただけますか?

河添:

本題に入る前に少し遡ってお話しすると、2000年に介護保険制度が始まり、ご自宅で暮らす支援や介護を必要とする高齢者の方々への支援が加速しました。ただ、介護スタッフが何でもやってあげてしまうと、ご本人はどんどん動かなくなり、体力や身体の機能が低下していきます。ですから、自分でできることは自分でやってもらったほうがいい。そのためには、自ら動きたくなる何かが必要です。そこで国は、高齢者が趣味や生きがいを見つけて参加することを推奨してきました。住民が主体となって体操教室やサークルを運営し、行政が介護予防事業としてそれを支援する。そうした仕組みがようやくできあがってきた頃にやってきたのがコロナ禍でした。

公民館などで開催されていた教室や集まりもなくなり、デイサービスに来ていた方も感染を恐れて家に閉じこもるようになりました。日常的な「参加」や「活動」が減ると、その分だけ体力も能力も意欲も減少します。また、お子さんやお孫さんが遊びに来る機会が減り、日々の楽しみや張り合いがなくなったと話す方もいます。もちろん個人差はありますが、コロナ禍でさまざまな社会との接点が消え、心身の活力が低下してしまった方は多いのではないかと考えています。

河添さんが経営するデイサービスセンターの様子。写真上から、利用者が食事や趣味のトレーニングなどをこなすデイルーム、リフトを装備した個別浴室、ご利用者の状態に合わせた7種類のトイレ(写真提供/くますま)

心身の機能低下や交流の減少により、家の中の衛生環境が悪化

心身の機能低下や交流の減少により、家の中の衛生環境が悪化

 交流が減ることで、身体や心に影響が出ているのですね。暮らしの中で、何か変化はあったのでしょうか?

河添:

高齢になると、目が悪くなったり臭いがわかりにくくなったりして、自分でも気づかないうちに衛生環境が悪化していくものです。認知機能が低下すると片付けができなくなりますし、身体機能が低下するとこれまでできていた掃除も難しくなります。

感染予防のため手洗いや消毒、掃除を頻繁にされている方もいますが、その反対に、コロナ禍で身体機能や認知機能が低下し、家の中が不衛生になってきている方もいるのが現状です。さらに、これまでだったらご家族が訪問してそのことに気づいたり、訪問介護・看護スタッフがサポートできていたかもしれないけれど、そうした外部の目が入る機会も減っています。本人も周囲も気づかないまま、衛生的ではない環境が続いてしまっているお宅もあるのではないでしょうか。

 家族が同居していると、安心でしょうか?

河添:

お子さんやお孫さんと同居していれば良いかというと、そうとも言いきれません。家にいる時間が増えると、汚れや臭いが気になるものです。「おじいちゃん、おばあちゃんが使った後のお風呂やトイレが汚くて掃除の手間が増える」となると、家族仲がぎくしゃくして全員のQOL(※)が下がっていく。ご家族と同居されている方ほど、清潔な環境を維持することが重要だと考えています。

※Quality of Life(クオリティー オブ ライフ):「生活の質」や「人生の質」という意味。生きる上での満足度を表す指標のひとつ

がんばらなくても環境を清潔に保つことができるように

がんばらなくても環境を清潔に保つことができるように

 TOTOが2022年に発表した洗面化粧台「オクターブ」、トイレ「ネオレストLS」、システムバス「シンラ」、キッチン「ザ・クラッソ」には水からつくられる除菌成分(次亜塩素酸)を含んだ「きれい除菌水」(※1)を搭載しています。河添さんの視点から見ていかがですか?

河添:

高齢者は身体に侵入する菌への抵抗力が弱くなっています。水まわりは汚れやすい場所ですが、キッチンのシンクやまな板、調理器具などを清潔に保てると口から菌が入る可能性が減るのでとてもいいですね。また、歯磨きの前後に歯ブラシを一度洗い流すことで、口腔内を清潔に保てると思います。

<「きれい除菌水」(※1)の特長>

水に含まれる塩化物イオンを電気分解してつくられる除菌成分(次亜塩素酸)を含む水。薬品や洗剤を使わず、水からつくられる。時間が経つともとの水に戻るので環境に優しい。詳細はこちら(資料提供/TOTO)

洗面化粧台オクターブは、水栓はタッチレス(写真左)、ボタンを押すとTOTOのクリーン技術「きれい除菌水」(※1)がふきかけられ、歯ブラシの除菌(※2)や排水口の汚れを抑制(※3)します(写真右)

河添:

掃除が楽になるという点も大きいですね。トイレの清潔さはご本人やご家族のQOLを左右します。多少尿ハネがあっても、使用後に毎回自動で「きれい除菌水」が便器や便座裏に噴霧され、汚れや臭いが発生しにくくなります。快適にトイレを使えますし、掃除の手間も減ります。

新商品のネオレストLS、ASは、便座裏の先端部分に「きれい除菌水」(※1)を噴霧する「便座きれい」(※4)機能を搭載。「便座と便器の隙間が狭く、尿などの汚れが外側に垂れにくくなっていますね」(河添さん)

河添:

お風呂の場合、足腰や腕の力が弱くなると屈んで床をゴシゴシ磨くのが辛くなってきます。その結果、汚れを落としきれず浴槽や床がぬるぬるしていると、不衛生であるばかりでなく転倒のリスクが高まります。ご本人が強い意志を持ってがんばらなくても、設備の助けを借りて住環境を清潔に保つことができるというのは、衛生面でも安全面でも、日々の快適さにおいてもとても意味のあることだと思います。

「TOTOのシステムバスは、カウンター下に「きれい除菌水」(※1)の噴射口があります。手の届きにくいカウンター下を含め、床のほぼ全面のきれいさが保てるのはいいですね」(河添さん)

タッチレスやIHクッキングヒーターは、「使うことができれば」有効

タッチレスやIHクッキングヒーターは、「使うことができれば」有効

 センサーがかざした手などを感知して自動的に水が流れる、タッチレス水栓についてはどう思われますか?

河添:

タッチレス水栓は蛇口に触れることなく調理や洗面などの作業ができるわけですから、使える人にとっては有効です。感染予防になりますし、感染を恐れて使う度に蛇口を拭っていた人の手間や不安も和らぐでしょう。しかし、認知機能が落ちてきた高齢者にとって、これまで使ってこなかったものを新しく覚えるのは難しいことです。「どう使っていいかわからない」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。

だからと言って、「タッチレス化を進めるべきでない」とは思いません。タッチレスの水まわりがさらに普及した将来、次の世代の高齢者は戸惑わずに使えるようになるでしょう。入れ替えのタイミングを図るのは難しいですが、無理のない形で便利なものを生活に取り入れていくべきだと思います。

水栓の使い勝手を確認する河添さん

河添:

同じことがIHクッキングヒーターにも言えます。材料を揃え、手順を考え、手を動かし…と、料理をすることは脳や身体の訓練になるので、高齢者にもできるだけ料理をしてほしいと思っています。私たちがご自宅を訪問する際も、なるべく「つくってあげる」のではなく、「一緒につくる」提案をしています。でも、認知症が進んで鍋を焦がしてしまい、もう料理はしないほうがいいのかと悩まれる方もいます。そこで、「じゃあガスコンロを火事の危険がないIHクッキングヒーターに替えよう」と思っても、その時点から操作を覚えるのは難しい。認知症の兆候が現れる前から、先回りしてIHクッキングヒーターに替えるのもひとつの手ですね。

システムキッチン、ザ・クラッソの水栓は、浄水用もきれい除菌水用もタッチレスに。水栓に手をかざすだけで吐水・止水します。「きれい除菌水」(※1)は、排水口の網かごのヌメリを抑え(※5)、きれいが長持ちします

機能低下を補う設備を揃えることで、長く家で暮らすことができる

機能低下を補う設備を揃えることで、長く家で暮らすことができる

 高齢者のお住まいは、今後どういう方向を目指すのが理想的でしょうか?

河添:

ほとんどの皆さんが望むのは「ピンピンコロリ」です。しかしながら、そう簡単なことではありません。平均寿命が延び、心身の不調を抱えながら生きる時間が長くなりました。「ピンピン」が「ピン」や「ピ」になったとき、すなわち身体が虚弱になってきたときに、どうやって暮らしていくかを考えることが必要です。家族に負担をかけることを申し訳なく思って介護施設に入る選択をする方もいますが、機能の低下を補ってくれるような設備を適切に揃えれば、長く快適にわが家で暮らしていけるのではないでしょうか。

身体機能や認知機能が低下しても、一定レベルの清潔さを保てること。料理などご本人がやりたいと思うことを安全に、かつスムーズにできる機能やシステムがついていること。高齢者のお住まいの水まわりは、「清潔」「安全」「わかりやすさ」をキーワードに進化させていくのが良いのではないかと考えています。

「高齢者の暮らしは安全、清潔が第一です。それを保つための日々の作業の手順、設備の使い方はできるだけわかりやすいといい」(河添さん)

※1 きれい除菌水の除菌効果 試験機関:(一財)北里環境科学センター 試験方法:電解水の除菌効力試験 除菌方法:電解した水道水と菌液を混合し除菌効果を確認 試験結果:99%以上(実使用での実証結果ではありません) 効果効能:きれい除菌水は、汚れを抑制するもので清掃不要になるものではありません。使用・環境条件(水質、対象物の材質・形状、汚れの程度など)によっては、効果が異なります。水道水を除菌したという意味ではありません。

※2 【歯ブラシきれい】試験機関:日本微生物クリニック(株) 試験方法:除菌効果試験 除菌方法:電解した水道水により洗浄 対象部分:歯ブラシ 試験結果:99%以上(実使用での実証結果ではありません) <ご使用方法>歯ブラシを水ですすいだ後、「きれい除菌水」の噴霧が自動停止するまでふきかけてください。使用・環境条件(水質や対象物の材質・形状など)によって効果が異なります。すべての菌を除菌できるわけではありません。

※3 【排水口きれい】使用・環境条件(水質や温度・湿度)によって効果が異なります。すべての汚れを抑制できるわけではありません。

※4 【便座きれい】尿ハネで汚れやすい便座裏の先端部分(便座クッションから便座開口部側の範囲)を狙って、きれい除菌水のミストを噴霧します。濡れすぎ防止のため、前の動作から一定時間経過後に噴霧します。便座裏の全面や便座クッションなどに向けて噴霧する機能ではありません。除菌の効果は、実使用での実証結果ではありません。使用・環境条件(水質や対象物の材質・形状など)によって効果が異なります。すべての菌を除菌できるわけではありません。

※5 【網かごきれい】使用・環境条件(水質や対象物の材質・形状など)によって効果が異なります。網かごの汚れ量に対する効果は実験結果であり、実使用の実証結果ではありません。すべての菌を除菌できるわけではありません。<ご使用方法>きれい除菌水の噴霧が自動停止するまでふきかけてください。

<第49回 国際福祉機器展 H.C.R.2022に出展決定!>

2022年10月5日 ~ 7日、TOTOは東京ビッグサイト(江東区)で開催される国際福祉機器展 H.C.R.2022に出展いたします。展示コンセプトを「ふれあいの、新しいかたち。」とし、変化に対応する事で進化を遂げてきたTOTO商品を一堂に展示いたします。また、これに先行して“リアル”展の情報を凝縮したTOTO特設サイトを9月5日から公開。“リアル”展会期中に行われる出展社プレゼンテーションのアーカイブ配信も予定しておりますので、遠方で会場に足を運べない方、更に情報が欲しい方など、TOTO特設サイトへのアクセスを心よりお待ちしております。

2022.11.7 追加掲載 <H.C.R.2022 出展社プレゼンテーション アーカイブ配信>

第49回 国際福祉機器展のリアル展会期中の2022年10月6日に行った出展社プレゼンテーションをアーカイブ配信しております。河添先生にコロナ禍の中での高齢者の行動や意識の変化についてお話いただきました。見逃した方、もう一度聞きたい方、ぜひご覧ください。
『コロナ禍の中で高齢者の行動や意識はどう変わったか』
●心身の機能低下や交流の減少により、家の中の衛生環境はどう変化したか?
●高齢者が安全・安心、快適に長く家で暮らす為の水まわりの工夫とは?

編集後記河添さんによれば、コロナ禍以降、すべての家庭で水まわりの衛生を保つのが簡単とは言えない状況。そのような中で、水まわりに防汚や除菌の機能を備えた機器を取り入れるのは有効な手段のひとつといえます。高齢者の方々にはもちろんですが、介護しているご家族にとっても、日々の掃除の負担の軽減は大きな課題。コロナ禍であっても家族全員が笑顔で暮らし続けるために、リフォームなどの可能性も含め、水まわりの設備の見直しを頭の隅に入れておいてはいかがでしょうか。編集者 介川 亜紀

写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀  2022年9月12日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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