ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)
TOTOx日経デザインラボのコラムです。
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東京・南新宿にあるTOTOテクニカルセンターにて
vol.53 座談会発達障がいを“手がかり”として、すべての人に使いやすいトイレを考える
東京・南新宿にあるTOTOテクニカルセンターにて
ここ数年で広く知られるようになった発達障がい。
しかし、発達障がいのある人やその家族の多くがパブリックトイレを利用する際に戸惑いを感じていることは、あまり知られていません。
そこで今回は、長年発達障がい支援に携わってきた国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」の日詰正文さん、
ユニバーサルデザインのコンサルタントであり自らも発達障がいの息子を持つ橋口亜希子さんに、
発達障がい者が直面するトイレの課題と解決策について伺いました。
お話の中で浮かび上がってきたのは、発達障がいの“ために”ではなく、むしろ発達障がいを“手がかり”としてトイレを考えるというスタンス。
高齢者のほか感覚過敏の健常者、外国の方々、性的マイノリティなど、すべての人が安心して使えるトイレのあり方が見えてきます。
発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。
発達障害には、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)などが含まれます。同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、いくつかの発達障害を併せ持ったりすることもあります。
コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。また、特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりします。また、感覚の過敏さを持ち合わせている場合もあります。
発達年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があります。多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。
(参考:厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html)
感覚過敏や感覚鈍麻が引き起こす、トイレでのトラブル
日詰正文氏(以下、日詰)
橋口亜希子氏(以下、橋口)
―――最初に、発達障がいとは何か教えてください。
日詰正文氏
大学卒業後19年間、長野県の発達障害支援センターにて勤務。2007年4月より厚生労働省 発達障害対策専門官を務め、現在、独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」の事業企画局 研究部部長。言語聴覚士。
橋口亜希子 氏
18年前に我が子が発達障がいと診断されたことから、親の会設立など発達障がいの理解啓発活動を行っている。2015年4月より一般社団法人日本発達障害ネットワーク前事務局長を務め、2018年10月に発達障がいを手がかりとして社会の困りごとを解決するコンサルティングを行う橋口亜希子個人事務所を設立。
―――普段の生活で、発達障がい者の方々が直面しがちな困りごとは何でしょうか?
トイレではどうでしょう。
「ハンドドライヤーは、日本の技術力でもっと音が静かになるとうれしいですね」とお二人は話す
「息子から目が離せず、私自身は極力トイレを我慢していました」と橋口さん
・異性の介助者の同伴が必要だが利用しづらい
・個室が空くのを長時間待つことができない
・4歳を超えてもおむつが取れない場合、交換できる広い場所がない
・トイレによってサインや設備の使い方が異なるため、混乱してしまいひとりでは使えない
・ハンドドライヤーや擬音装置の音が原因でパニックになってしまう
・臭いに敏感で、人が使用した直後は吐き気をもよおすことがある
・トイレが暗いと入るのを躊躇する/白い光が眩しく感じる
・気になることがあると座面に深く腰掛けることを忘れて排泄してしまい、周辺を汚してしまう
・必要な荷物が多くなりやすく、忘れ物をしやすい
・トイレットペーパーの適度な使用量がわからない
「音に過敏な場合、普段から周囲の音を抑えるイヤーマフをつける人もいます」と日詰さん。イヤーマフは周囲の音が耳に入るのを防ぐ、ヘッドフォンのような形状の装着具
―――音に対する過敏な反応、なぜそうなってしまうのでしょうか。
規格の統一と、男女共用広めトイレの増設が目標
―――ひとりでもパブリックトイレを使えるように、ご家族はどんな工夫をしてきたのでしょうか。
―――発達障がいのあるご本人が使いやすいトイレのイメージは?
―――従来の「だれでもトイレ」(※1)についてはいかがでしょうか。
「非常ボタンなどは触ってしまうので、発達障がいの視点でいうとカバーがあるとよいかもしれません」と橋口さん
< 男女共用個室トイレのプラン例 >
主な想定利用者
A)■親子連れなど同伴者がいる方 ■発達障がい者・知的障がい者、高齢者など介助や見守りが必要な方 ■男女別トイレに入りづらさを感じる性的マイノリティ ■着替えをしたい方 ■大きな荷物を持っている方 ■つえやシルバーカーを使用されている方 ■長く待つことが苦手な方 など
B)■乳幼児連れ
C)■車いす使用者 ■オストメイト
(資料/TOTO)
車いす使用者優先トイレや男性・女性トイレとは別に、男女共用の個室トイレを設けた例(資料/TOTO)
2018年10月に公表されたサイン。色調はモノトーンを推奨
―――同伴を前提に、トイレに欲しい機能は?
―――男女共用個室トイレをより使いやすくするにはどうしたらいいでしょう。
トイレの事前学習ができるツールの充実を
「状況判断ができていないことは、周囲の人に分かりにくい」と日詰さん
「発達障がいについて、もっと多くの方に知ってほしい」とお二人は口をそろえる
事前学習ツールのイメージ
下記は、本文中の「写真をクリックすると音が出る」ツールをイメージして作成。写真下の再生ボタン(三角のマーク)をクリックすると実際の音が聞こえます。
ハンドドライヤーの音の例
擬音装置の音の例
―――他にもトラブルを防ぐアイディアがありましたら、教えてください。
―――多くの方々の意見をさまざまな形で生かすことで、パブリックトイレの新たな姿が見えてきそうです。
公共トイレの利用で困ること
2019年1月・3月、TOTOは、発達障がい者の公共トイレに関するアンケート調査を行いました。(一般社団法人 日本発達障害ネットワーク[JDDnet]協力)。発達障がい者本人、あるいは保護者計125名に公共トイレを利用する際の困りごとを訊ねたところ、約60%が何らかで「困っている」ことがわかりました。本人はトイレでの大きな音や臭い、汚れなど、介助する保護者はご自身が用を足すときなども目を離せないことなどを挙げています。
回答例
多目的がない場合、中まで同伴できないので、入り口で信じて待つしかない。もしくは、異性のトイレに周りを気にしながらも一緒に入るしかないこと。 | 保護者(お子様7歳) |
大便をするのに、身障者トイレに入って介助などをするので、ないと困ります。身障者用に限らず、誰でも利用しやすい同伴用トイレが増えるとありがたいです。 | 保護者(お子様15歳) |
混雑時におとなしく(並んで)待っていることが難しい。保護者が用を足す際にこどもが一緒にトイレの個室に入れないと、外で待っていてもらわねばならない。一刻も早く出ないとどこかへ行ってしまうのでは、と焦りながら用を足す羽目になる。 | 保護者(お子様7歳) |
匂いがきつかったり、暗すぎたり、便器の周りが水気が多くて、泥やトイレットペーパーのカスや芯が散乱していると、どんなに遠くても家まで我慢してしまう。明るくて清潔そうなトイレを見つけることが大変。 | 保護者(お子様21歳) |
流すところが分からずパニック、トイレに人が並んでいるときにパニック。 | 保護者(お子様9歳) |
(操作する)場所を探すのに困る。機械の流水音・手を乾かす機械の風の音・ウォシュレットの機械音が大きくて怖い。閉塞感があるとパニックになる。 | 当事者(35歳) |
トイレを待ってる人の話し声などが気になる。手を洗うところが混んでいたら、誰かが避けてくれるまで何も言えない(できない)。ハンドドライヤーの音がうるさい。 | 当事者(20歳) |
出典:「発達障がい者の公共トイレ利用に関するアンケート調査」TOTO調べ(2019)
調査結果レポートはこちらから。> 調査結果を確認する
写真/鈴木愛子 取材・文/飛田恵美子 構成/介川亜紀 2019年2月7日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。