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ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)

TOTOx日経デザインラボのコラムです。

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vol.33 インタビュー企画 TOTOの優しさをつくる人たち-第8回 企画者 河上佳世さん

TOTOプラテクノ本社豊前工場にて

vol.33 インタビュー企画TOTOの優しさをつくる人たち-第8回 企画者 河上佳世さん

TOTOプラテクノ本社豊前工場にて

製品と空間の関係性を考え抜いて使いやすい洗面空間を生み出す

vol.33は、入社以来、洗面台の製品化に関わってきた、
企画者の河上佳世さんです。
「使いやすさとは、製品の性能だけでなく、
空間との関係によって決まるもの」という信念を持って仕事を続けてきたといいます。
どんな場合でも、100近い現場の視察と、試作検証をもとに案を練り上げていく。
そんな河上さんが手がけた製品についてお話を伺いました。

約70~100カ所もの現場を観察。現実を下敷きに商品企画を検討

約70~100カ所もの現場を観察。現実を下敷きに商品企画を検討

―――今回発売の「車いす対応洗面コーナータイプ」の企画をご担当されたそうですね。

ええ。入社間もなくから、パブリック向けの洗面空間の企画に取り組んできました。今日はその中から、「車いす対応洗面(居室向け)コーナータイプ」と、それに関連のある「車いす対応洗面(共用向け)」「カウンター一体形コーナー洗面器」の3点を中心にお話ししたいと思います。

―――ちなみに、初めて担当された製品は?

最初の企画は、入社3年目のときに提案した「ニューラバトリースペース」です。女性のお化粧を配慮した製品なんですよ(笑)。私が学生のころのパブリックの洗面台は、ボウルは大きいけれどその分鏡との距離が遠く、化粧がしにくくて困っていたんです。その経験から、鏡と近づきやすくするために、カウンターの奥行きを狭めようと考えました。
ニューラバトリースペースを提案した当初は、開発を担当されていた男性の方々からは、顔を洗うためにボウルにはあの大きさが必要だと説明されました。それに対して、「女性は顔を洗っている人はほとんどいない。化粧直しをしている人が大半」と主張して(笑)。そこで、現場で調査をしたところ、女性が混雑する中で前かがみになりながら化粧する実態が見え、開発に結び付きました。このときの経験から、企画をするときはしつこいくらい現場調査を重ね実態を共有するようにしています。

―――住宅向けと、パブリック向けの企画を考える際、大きく違う点は?

ひとつは、建物の用途によって利用する方々の性別・年齢などの傾向や、目的が異なること。たとえば、飲食店とオフィスビルを比べるとよくわかりますよね。オフィスビルの洗面空間は、手を洗う以外に気分をリフレッシュするのが目的だったりします。
もうひとつは、不特定多数の全然知らない人と一緒に、同じ空間で身だしなみを整えるなどのプライベートな動作をしなくてはならないということ。洗面空間は不快感を生じやすい条件が揃っているので、水をはねにくくするといった衛生対策には気を遣っています。シンプルなデザインにまとめるなど、心地よく過ごせるような視覚的な効果も心掛けています。

―――さまざまな人が心地よく使える工夫、UDは至るところに盛り込まれていますね。

それは大前提です。パブリック向けの製品はどれも、直感的に、どこから水が出てどのように操作したらいいかわかるように留意しています。
また、使い勝手は製品の機能だけでなく、空間との関係性で決まります。十分な広さがとれない場所でも洗面などの動作がしやすく、入口から入って外に出るまでスムーズに動けるように考えながら、機能や洗面スペースを検討します。

河上佳世さんポートレート生産技術本部 高分子事業企画グループ
河上佳世さん
神戸女学院大学総合文化学科で水にまつわる文化について学ぶ。2001年に入社後、TOTOプラテクノ本社豊前工場に在籍。洗面特需設計グループに所属し、女性に配慮した「ニューラバトリースペース」、パブリック向けの「レストルームアイテム01」などの空間商品に関わる。2013年より現職

車いす対応洗面コーナー使用中の写真 上/車いす対応洗面コーナータイプ。高齢者施設などへの引き合いが多い
下/使用中の様子。車いすと壁の間に介助者が入り込める

―――UDの考え方は、今回発売された車いす対応洗面コーナータイプも踏襲しているのですね。

ええ。高齢者施設が増える兆しが見え始めたころに企画・開発をすすめ、発売間もなくから好評をいただいている、車いす使用者の使い勝手に配慮した商品で、壁面に並行に設置するストレートタイプの車いす対応洗面があります。これは、その製品をもとに、デッドスペースになりがちなコーナーを活用できるようにアレンジしたもの。壁面設置寸法700ミリにもかかわらず、アプローチ寸法は1520ミリ確保できたんです。これだけのアプローチ寸法があると、介助者が車いすの両側に立てる。カウンターの角がありませんから、ぶつかってケガをする心配がない、高齢者の顔を見ながら介助しやすくされやすいといったメリットもあります。介護の現場は非常に忙しく、力を使う作業が多いため、介助者は疲れやストレスがたまります。それをこの洗面台が少しでも和らげることができたらいい。ちなみに、この製品のサイズや形状は現場の声を反映したんですよ。

―――車いすを使う方に向け、どんな部分に配慮されましたか?

洗面台自体の使い勝手では、車いすに座ったままで使いやすいボウルのサイズや形状、水栓の位置などですね。ボウルの縁は、つかみやすい丸みのある形状と高さになっています。アプローチするときには、ここをつかんでぐっと洗面台に身体を引き寄せるんですよ。太ももまでしっかり入りやすいようにボウルを浅くしたほか、排水口をボウルの奥に配置して給排水管を壁面側にまとめました。また、ボウルの手前は肘を置きやすいように平らな形にし、カウンターより高さを30ミリ引き下げています。

―――現場からはどんな声がありましたか?

たとえば、18m²の個室の中で浴室・トイレユニットを配置し、ベッドを置いて、壁際に洗面台を設置すると設置寸法はほぼ750ミリ。車いす使用者には幅が狭く、介助者には腰がちょうど洗面台の角に当たってしまいます。施設の設計者にヒアリングをしてみると、「本当は車いすのアプローチ寸法を900ミリ以上取りたいけれども、洗面台の設置にスペースが取れず、なかなか実現できない」と悩んでいる方がたくさんいらっしゃいました。

洗面コーナータイプヒアリングの様子 左/設計者などに集まってもらい、コーナーへの設置について感想をヒアリングした。88%が「今後、狭い個室ではコーナー形が普及するだろう」と回答(写真:TOTO)
右/車いす対応洗面コーナータイプは、コーナーに設置することで車いすの両側に介助者が立てる空間を確保(参考資料:TOTO)

3連の車いす対応型洗面の写真 上/3連の車いす対応形洗面は、介助者がしっかり立てるようボウルの間隔を設定
下/配管や電気温水器は奥にあり、膝にぶつからない。また、ボウルを浅くし表面を滑らかにしてアプローチ性を向上

―――さまざまな条件の中で、サイズやデザインを決めるのは至難の業だったのでは?

ボウルのサイズや形状、水栓の位置など、車いす使用者の使い勝手を損なわないことが大前提にありました。そういった状況で、現場からの要望の「車いすのアプローチ寸法900ミリ以上」、個室での壁面設置寸法を750ミリ以下に納めたいという条件を守りながら、配管類などをどれだけコンパクトにまとめられるかが課題でした。UD研究所と一緒にサイズ違いやデザイン違いのモデルで何度も検証を重ねた結果、車いす使用者の使い勝手を損なわず、条件を満たした壁面設置寸法700ミリというサイズが導き出されました。

―――車いす対応洗面のバリエーションで、3連のものもあるのですね。

それが、施設などで使われる「車いす対応洗面(共用向け)」です。人がたくさん集まる食堂やレクリエーション場などに需要があるんですよ。各ボウルの間には介助者がしっかり入れる間隔をとって設計しています。3つ連続させたことでカウンターが広くなり、ケア用品の常備もできます。

―――コーナー設置のメリットを生かした製品としてほかに、まちなかの「カウンター一体形コーナー洗面器」があるのですね。

メインターゲットは、小さめの店舗や事務所です。十分なスペースのないトイレ空間でも、動作する余裕ができるのでストレスなく使っていただけるのではないでしょうか? 特徴的なのは、手を洗うときの水はねが70%カットできること。コンパクトですが、周囲をびちゃびちゃに濡らすことはありません。手前のリムが削ってあり、ここから手をぐっと中に差し入れて洗えるからです。
このコーナー洗面器はリモデル向けの製品です。狭い空間への設置が前提ですので、企画・開発段階には、すれ違い動線のテストを行いました。日本人男性の平均身長は30年前と比べて8センチ伸びています。今後は外国のお客様も増えるでしょう。空間を広げることはできませんから、そのままの広さである程度の余裕を持ってすれ違える、新たなデザインやサイズを確かめる必要があったんです。

洗面台を製造している工場の様子 この工場ではTOTOの約30品番、20色のパターンの洗面台を製造している。①樹脂を型に流し込んだ後、加熱して硬化させる工程②製造中の3連の車いす対応洗面。型が重いため、上部のクレーンを利用して型を開け固まった製品を取り出す③カウンターをつくるため板をカットする大型切断機④連接タイプの洗面カウンターの前で、製造部門責任者とともに製品形状、製造課題について確認・打ち合せ

カウンター一体形コーナー洗面器の写真 小さめの事務所や店舗でのリモデルをイメージして企画されたカウンター一体形コーナー洗面器

コーナー洗面器の製造工程 コーナー洗面器の製造工程。①まず、減圧器の中に型を置く②型の中に樹脂を流し込む、減圧器の中だと気泡の混入が防げる③樹脂が固まった後、空気を型と製品の間に吹き込み製品を抜き出す④製品の表面を研磨して滑らかにする

―――今後、車いす対応洗面台はどのような方向にブラッシュアップする予定ですか?

超高齢社会を見据えることになりますね。国はすでに在宅医療化をすすめていますから、自宅での介護が主流になると思います。そうすると、高齢者、介助者双方の負担をできる限り減らしたほうがいいでしょう。高齢者は、自分自身で顔を洗えて、手を洗えて、歯を磨いてといった身づくろいができるといいですね。洗面空間を工夫していけば、そうした日常の動作をサポートできるようになるのではないでしょうか? 実は、洗面台は時代の流れとともにどんどん変化してきましたから、今後も進化させていけると思います。

―――本日は、貴重なお話をありがとうございました。

ありがとうございました。

編集後記 大学時代から洗面空間に興味を持ち、入社間もなくから企画に関わり続けているという河上さん。現場を丹念に観察するなど、使う人、空間をつくる人の気持ちや求める使い勝手を製品に反映させるための努力と熱意がひしひしと伝わるインタビューでした。在宅医療化がさらにすすめば、一般家庭で、高齢者が自力で身づくろいできる洗面台は確かに求められるでしょう。家族の誰もが一層自由に身づくろいでき、鏡の前に立つのが楽しくなるデザイン性を兼ね備えた洗面台が世に送り出されるのは、そう遠くはなさそうです。 日経デザイン編集者 介川 亜紀

写真/飯山翔三(特記以外) 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2015年8月31日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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次回予告
vol.34は、北九州市の「リノベーションまちづくり」を推進する北九州市産業経済局の片山二郎氏、建築家の嶋田洋平氏にお話を伺います。
2015年9月28日公開予定。

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