ホッとワクワク+(プラス)

ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)

TOTOx日経デザインラボのコラムです。

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vol.39 インタビュー企画 TOTOの優しさをつくる人たち-第10回 取扱説明書企画者 田島 里佳さん

小倉第三工場の開発部オフィスにて

vol.39 インタビュー企画TOTOの優しさをつくる人たち-第10回 取扱説明書企画者 田島 里佳さん

小倉第三工場の開発部オフィスにて

他部署との密な連携でお客様が満足する取扱説明書を目指す

ネオレスト・ハイブリッドシリーズの取扱説明書が、
日本マニュアルコンテスト2015の紙マニュアル部門で優良賞を受賞。
ネオレストの受賞は、2011年、2012年に引き続き今回が3度目です。
実は取扱説明書は、制作を担当するグループだけでなく、
製品の開発部をはじめ品質保証部、お客様相談室など 多くの部署の協力体制のもとつくられています。
優良賞の獲得を支えた各部署の役割と連携など
取扱説明書制作のまとめ役である田島里佳さんにお話を伺いました。

初代から改善を重ねより分かりやすい内容に

初代から改善を重ねより分かりやすい内容に

―――田島さんが担当した、「ネオレスト・ハイブリッドシリーズ AH・RH」(以下、ネオレスト)の取扱説明書がコンテストで入賞されたそうですね。

はい。日本マニュアルコンテスト2015で、紙マニュアル一般部門の優良賞をいただきました。ウォシュレット一体形便器のネオレストが、ビジュアルを効果的に使って説明されている、と評価をいただきました。操作説明については、対象箇所をイラストで示したり、操作方法を端的な分かりやすい言葉で示されていることなどが良かったようです。
ネオレストは1993年に発売され、ブラッシュアップを重ねてきたロングセラー商品です。取扱説明書も、商品がマイナーチェンジするたびに代々の担当者が少しずつ改善を重ねた結果、今回の3度目の受賞につながりました。

田島 里佳さんポートレートウォシュレット開発第二部 包装・印刷物グループ
田島 里佳さん
1993年に入社し品質保証部(現お客様本部)に配属。社外の主婦の方によるモニター評価などを通じて、お客様の声を商品に活かす業務に従事。2008年にウォシュレット事業部に転籍し、新商品のお客様の声を収集・分析するなどの業務を行ない、2014年より現職

取扱説明書表紙 田島さんの担当した取扱説明書(資料/TOTO)

受賞歴 包装・印刷物グループが受賞した数々の賞。取扱説明書のほか製品のパッケージなどにも多くの受賞歴がある

―――取扱説明書はどのような体制でつくっていますか?

私たち、包装・印刷物グループは、ネオレストの開発を担当しているウォシュレット開発第二部の中にあります。私たちは取扱説明書を製品開発リーダー、また部内外の関連する部署の皆さんと密に連携しながらつくりあげていきます。そのほか版下作成には子会社のサンアクアTOTOの皆さんが関わることもあります。受賞は、関係者全員でかなえたものですね。

取扱説明書体制図ウォシュレット開発第二部の中に包装・印刷物グループがあり、それ以外のレストルーム商品統括部などの商品開発に密接な各部や、安全面を担保するウォシュレット品質保証部など多数の部署が連携(資料/TOTO)

―――どのように連携を?

まず、「新商品にどんな機能があるか」「デザインは?」「リモコンの操作方法は?」など取扱説明書を制作する上で大前提となる製品情報を製品開発リーダーと共有します。さらに、お客様の声をお客様相談室の問合せ内容やウォシュレット品質保証部からのフィードバック情報によって収集し、それら全てをベースに最初の原稿を作ります。
その上で取扱説明書に変更点を赤字で書き込んで、関係者全員に渡します。確実にみんなで情報共有したうえで、変更点について確認したり意見をもらったりするわけですね。そして、重要な変更点はそういった書類のやりとりのみではなく、担当部署のオフィスまで出向き直接会って話し合います。これがとても大切。メールや電話などでは分かりにくいことでも、試作品を見ながら話せばすぐに解決する場合もありますね。
ウォシュレット開発第二部の関連部門はTOTO小倉第三工場の同じフロアに集まっていますし、製品をテストする実験場も、版下を制作するサンアクアTOTOも同じ棟にあるので、原稿の中で気になることがあったらすぐに会いに行ける。とても助かっています。

モニターをみながら サンアクアTOTOのオフィスで、版下制作の担当者たちとモニターを見ながら確認作業中。同社は障がいのある方々を積極的に雇用している

試作品の確認 実験場にて、試作品を見ながら担当者に機能の仕組みの確認などを行う

お客様の問い合わせを着実に反映していく

お客様の問い合わせを着実に反映していく

―――取扱説明書を改善するときの方向性は?

機器の操作しやすさ、誌面のわかりやすさが重要ですね。いちばんに「正しい記載をすること」に留意して「それを分かりやすく伝えるためにどうすればいいか」を考えます。特に、動作、仕様に関わる部分には、厳重に何度もチェックします。
それを大前提にして、お客様相談室に寄せられる声を、数の多い項目から優先して内容に反映していきます。お客様の問い合わせが、より少なくなることを目指します。
誌面は、多くの方が分かりやすくなるように、全体をゆったりと構成しています。
2009年版の時点では、できるだけたくさんの情報量を今と同じページ数にギュッと詰め込んでいました。でも、2012年版をつくるときに、お客様がより分かりやすいように、全体のデザイン、構成、イラストなどを全面的に見直しました。説明する文章を思い切って減らして余白を多く取り、イラストを大きくしていますね。ネオレストには非常に多くの機能があるので、誌面上でそれぞれの機能を区別しやすくする工夫もしています。以降、2012年版をベースにし、改善を図ってきました。

―――具体的に、どういった部分を改善しましたか?

お客様相談室には、ウォシュレットの温水や便座の温度調節方法のお問合せがコンスタントに入っていたので、同相談室のほか温度調整、節電の担当部署と相談しながら該当ページの説明の内容を変更しました。それに伴って、ネオレストのリモコンでの温度調整の説明も見直しました。ウォシュレットのとある機種では温水と乾燥、便座の温度設定のランプが共用で、しかも操作したときだけ点灯する仕組みです。ですから、ぱっと見ただけではどこを押してどう温度を確認すればいいのか迷うかもしれません。ただ、もしかしたら、取扱説明書を全くご覧にならず、問い合わせしている方もいらっしゃるかも。

―――お客様相談室のコミュニケーター(お客様との相談役)の皆さんとも連携するのですね。

お客様の真意を知りたいんです。お客様からあがってきた声を記録するレポートからは、お客様が取扱説明書を見たのか見なかったのかも分からないことがあります。ですから、あがってきたレポートを見て気になったことがあれば、担当のコミュニケーターにヒアリングしたほうがいいんです。
コミュニケーターの皆さんが、取扱説明書のどの部分を、どのように説明しているのかも知りたい。よく使う部分や、その部分のどういう書き方がお客様に伝えやすいと感じるのか教えてもらいます。そのコミュニケーターさんが説明のときによく使う言葉を、取扱説明書に取り入れることもありますね。もちろん、取扱説明書の中で変更してほしい部分も、率直に聞きます。

―――昨今、製品開発の場では「直感的に操作できるもの」を目指しています。そのフォローをするツールとしては、どのような配慮、工夫をしていますか?

操作方法を羅列するのではなくて、お客様のニーズである「何がしたい」という思考に繋がるような構成なり表現なりにしています。ほかには、仕様を細かく書きすぎないようにしていますね。たとえば、「おまかせ節電」の機能は「あまり使わない時間帯をウォシュレットが見つけて温度を下げる」という表現だけにして、どのように機器がその時間帯をモニターするかまでは入れていません。製品が直感的に使えてシンプルであるなら、取扱説明書もシンプルですっきりとしたレイアウトであるべきかな、と思っています。

製品の確認 実験場に原稿を持ち込み、製品を実際に動作させながら、記載内容に間違いがないかを確認する

取扱説明書の束 修正作業中の取扱説明書のページの束。確認事項や注意点を付箋で細かく記しておく

7つ道具 7つ道具は至ってシンプル。赤・青2色の消せるボールペンと付箋、スケジュール帳

取扱説明書 節電機能のページは、12年版(右)では、説明文を減らしたうえイラストを加えている

―――取扱説明書の制作にやりがいを感じている、とお聞きしました。

印刷物の作成を担当する前は、お客様の声を集めて分析し新商品のCA(※注)などを行う業務でした。ですから、お客様相談室の問合せのレポート、商品に同梱しているご愛用者アンケートの回答など、とにかくずっと目にしていました。そうした分析結果を製品担当者にフィードバックする立場から、今度は取扱説明書の制作という、自分で直接的にその分析を反映できる立場になれたことでやりがいを感じています。
ただ、CAの際にお客様と接して、トイレは不具合なく用を足せたらいいという人が多いのも実感しているので、私たちメーカーの「より多くの人に快適に使ってほしい」という強い思いをお客様にお伝えするのが難しいことも分かっています。
そのせいか、デパートなどのトイレで流し方に困っている人を見かけたら、率先してお声がけしてしまうんですよね。何となく責任を感じて…(笑)。
※注CA…事業活動の生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法である、PDCA(plan-do-check-act cycle)サイクルのPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の うちCheckとAct

―――今後はどのように改善を重ねる予定ですか?

多岐に渡っていますが、そのうちのひとつは、海外向けの商品開発に関する取り組み。多様な製品への展開を踏まえて、言語面でのユニバーサルデザインなども配慮しながら、シンプルでポイントの分かりやすい取扱説明書に取り組んでいきます。

―――ますます忙しくなりますね。さらに進化した取扱説明書が楽しみです。

はい、頑張ります。ありがとうございました。

編集後記 今回の取材で、取扱説明書の制作は開発部門をはじめとする社内の皆さんの声、お客様からの電話や商品に同梱のアンケートに記載されるお客様の声など、幅広い情報を収集してひとつひとつ検討しながら反映していくという、地道で気の抜けない作業の積み重ねであることが分かりました。あらためてページをめくってみると、なるほど見やすい。そして、これまで気づかなかった便利な機能が結構あることに気づきました。なくてはならない、そして快適に使い続けたい製品だけに、購入したら丁寧につくられたこの取扱説明書をまず読むのがよさそうです。日経デザイン編集者 介川 亜紀

写真/飯山翔三(特記以外) 取材・文・構成/介川亜紀 監修/日経デザイン 2016年3月28日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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次回予告
vol.40は、待合空間での安全・快適な利用を目指してつくられたコクヨのロビーチェアーの開発秘話を、企画担当者にうかがいます。
2016年6月20日公開予定。

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