ホッとワクワク+(プラス)

ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)

TOTOx日経デザインラボのコラムです。

ホッとワクワク+(プラス)

vol.29 インタビュー企画 TOTOの優しさをつくる人たち-第5回 開発者 高橋暢孝さん

TOTO小倉第二工場の実験室にて

vol.29 インタビュー企画TOTOの優しさをつくる人たち-第5回 開発者 高橋暢孝さん

TOTO小倉第二工場の実験室にて

「何パターンもテストして安全・安心な便座の角度と高さを吟味」

vol.29は、2015年4月にリニューアルして、発売されるトイレリフト。
その開発者、高橋暢孝さんに話をうかがいます。
日常である排泄行為をよりスムーズに、安心してサポートできる商品にしたい。
そういう思いを胸に、快適な使い心地に向けて、繊細なリサーチや調整を重ねた、
トイレリフト開発の経験談を語っていただきました。

高齢者、ハンディキャップを持つ方など幅広い使用者を前提にテストを重ねる

高齢者、ハンディキャップを持つ方など幅広い使用者を前提にテストを重ねる

―――まず、トイレリフトについて、簡単にご説明いただけますでしょうか?

はい。洋式便器に取り付ける装置で、スイッチを押すと電動で便座が昇降します。便座に立ち座りしやすくなり、排泄する本人だけでなく、介助する方の負担も軽減できますね。

―――この商品は、どういった方がターゲットなのでしょうか?

手すりだけではうまく立ち座りのできない方ですね。たとえば、足腰が弱いためにドスンと座ってしまうとか、立ち上がれないといった方の動きをサポートします。また、リウマチなどの病気や、ケガが原因で膝を曲げると痛みを感じる方の立ち座りのサポートにも向いています。
人間は立つ瞬間に全身の筋肉を使っていて、結構、力が必要です。でも実は、体が弱っていたりケガをしている方であっても、介助者が背中をちょっと押してあげるだけで、ふっと立てたりもします。そこを、トイレリフトが介助者の代わりになって軽やかにサポートする。そういうイメージです。

―――高橋さんは入社以来、UD研究部の福祉技術研究グループに所属されていて、今回はトイレリフトのリニューアルに関わったのですね。

はい。2015年4月発売の機種へのリニューアルを担当しました。商品の構造部分が専門です。試作品をつくってモニターの方々に見ていただいたり実際に使っていただき、その多くのご意見から、より使いやすい商品へとモデルチェンジを図りました。
新たなトイレリフトは、高齢者はもちろんのこと、ハンディキャップがある方にも使っていただく想定だったので、さまざまな身体のコンディションの皆さんにお願いして、問題ないかどうか確認することが求められました。身体のコンディションは千差万別ですから。今までの商品の改良型を目指していますので、変えた部分が有効かどうか厳しい目で確認していきました。

高橋さんポートレート総合研究所 UD研究部 
福祉技術研究グループ
高橋 暢孝さん
湘南工科大学工学部で材料工学を専攻。2007年に入社後、UD研究部の福祉技術研究グループに配属され、トイレリフトを中心とした福祉商品の開発に取り組む

―――初期型はどのようなものだったのでしょうか?

初期型は約21年前、1993年12月の発売です。このときは、垂直に上げ下げするだけの機構で、価格は現在の約4倍でした。次は、便座が斜めに上がるタイプと、垂直に押し上げるタイプの2種類の機種を用意して、買うときにお客様に合うほうを選んで購入いただくようにしました。その次には、2種類の動きを1台の機種に搭載して、現場で切り替えができるように改良しました。施工した後に実際に座っていただいて、どちらがいいか判断してもらい、施工者さんが切り替える仕組みです。

―――4月発売予定の機種にはどんな変化があるのですか?

施工後に動きを切り替えられる点を踏襲したうえで、止まる高さを選べるようにしたんです。それぞれの方にちょうどいい高さであれば、転倒する恐れが減ります。身長の高い方に配慮して、規定よりもさらに上げられるモードを追加しました。
操作は、使用者あるいは介助者がスイッチを押し、ちょうどいい高さに来たらスイッチから手を離すというごく簡単なものです。動きはゆっくりですが、うまく操作できない方もいらっしゃる。便座が上がり過ぎると使用者の転倒につながるので、それぞれ高さの上限を設定できるようにしています。

アームレストを下げた状態のトイレリフト トイレリフトの便座をおろし、アームレストを下げた状態。トイレリフトは必ず床に固定する。横づけした車いすから移乗するときなどは、アームレストを跳ね上げる フキダシ/昇降スイッチはワイヤーつきリモコン。座ったときに手の届きやすい便座や壁などに固定も可能

カットした浴槽をまたいでたった様子 モニター利用の様子1 便座を垂直に上げた様子 左/便座が垂直に上がった状態で、モニターがアームレストをプッシュアップして立ちあがるシーン 右/便座を垂直に上げた様子

握りやすい形状の浴槽縁 モニター利用の様子2 便座を斜めに上げた様子 左/便座が斜めに上がった状態で、モニターが立ちあがるシーン 右/便座を斜めに上げた様子

―――今回の開発時に、ほかにも課題はありましたか?

ええ。使用者や介助者がより動きやすくなるよう、便器の前方、足元付近の空間をより広く取れる形状に変更しました。肘を掛けるアームレストを支持する脚の位置は、以前は便器の脇付近にあったのですが、これをかなり後方に持っていきました。トイレの扉が便器の横に位置する間取りでは、便器の隣に車いすを置いたり横付けして移乗するときには、支持脚が便器付近にあると邪魔になるケースがあるんですね。
アームレストの支持脚を後方に持っていくことで、全体のデザイン性も向上させることができました。トイレリフトを支える複数の支持材が、支持脚の位置の変更でほとんど後方に収められたんです。ですから、トイレ空間全体がすっきりと見えるのではないでしょうか?
また、以前のモデルにあった便器と接するプレートをなくすことで、便器をさっと拭けて掃除がしやすい構成としました。この部分は、どうしても尿の飛び散りで汚れやすい場所なんです。

―――実際に試してみた方々の感想は?

現行品を使っている方にヒアリングをしたり、リウマチの方ですとか、片マヒのある方にお願いしてモニターをしていただきました。そこで、一部の方から便座が高過ぎて足が浮いてしまうのが怖いという声もありました。また、斜めの状態が怖いという方もいらっしゃいましたね。前に押し出されるような感じを受けたようです。
トイレリフトなど福祉向けの商品は、ケアマネージャーさんや介護用品専門ショップの方がお勧めするケースが多いのですが、そういった方々から、「前に押し出されたときの怖さは、排泄にも影響するのではないか」という意見もありました。そこで、便座の角度は綿密に検討しました。

―――どのくらいのパターンを検討したのですか?

これもモニターの方に協力いただき、さまざまな角度を試して絞り込んでいきました。最初は15度だったのですが「怖いです」という声が多かった。特に、初めて使う方には、15度はちょっと角度が急すぎるようでした。そこから1度きざみで角度を小さくしてテストをくりかえし、多くの方に快適に使っていただける角度にたどり着きました。動いているときにも安心して腰を落ち着けていられ、立ち座りもしやすい角度です。

浴槽内に座った様子 介助の様子 掃除の様子 左/便器の前方にトイレリフトの支持脚が出ておらず、介助者が足を踏込みやすい 右/便座まわりをすっきりとさせて掃除しやすい配置とした

いすから立ち上がる様子 アームリフトの構造1 アームリフトの構造2 耐久テストの様子 上/便座を持ち上げるリフトには強靭な鉄製のアームを使っている 左/トイレリフトを動かすモーターの基板の部分 右/耐久テストの様子。使用年数と家族人数を前提に昇降を繰り返したり、便座の上におもりを乗せ耐久性を確かめているものもある

排水トラップの比較 作業の様子 模式図 左/トイレリフトの構造の接続部分などの具合を確認していく高橋さん 右/高橋さんがテストを行った荷重計算の模式図

―――動くスピードも重要ですね。

以前の商品は、遅く感じる方もいらっしゃったようです。特に、一旦座って用を足すために下に下ろす時ですね。だいたい使用者は、尿意をもよおしてトイレに行って、すばやく座って、すませたい。でも、安全性を保つためには、座った状態でリフトをゆっくり下ろしたほうがいい。しかし、便座が下りるまで待っていられない、もう少し早くしてほしいという声を多くいただきました。検討の結果、下ろすと上げる、どちらの動作も少しだけスピードを上げることにしました。どちらも不安を感じないか、体勢を保ち続けられるかどうかなど、安心・安全に十分留意してテストしました。

―――トイレリフトは、どんどん認知度を高めたい商品ですね。

やはり最初は、これがないと立ち座りができない人がいる事実に、驚きました。そういう身体状態の方々は、トイレで自分自身で排泄できることをとても重要に考えていらっしゃるんですね。尿意をもよおした時に、自分の意思で、トイレという場所で排泄できる。それを実現できるトイレリフトに対して、モニターの方々が「なくてはならない」と口々におっしゃるのを聞いて、多くの皆さんをサポートする商品の開発に携われることを非常にうれしく思いました。今もその思いは変わりません。

―――本日は、貴重なお話をありがとうございました。

ありがとうございました。

写真/鈴木愛子(特記以外) 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2015年3月23日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。


ページトップへ

次回予告
vol.30は、4月29日から30日まで開催されるイベント「グリーンリモデルフェア2015」のTOTOブースをレポートします。
2015年5月11日公開予定。

ユニバーサルデザインStoryについてお聞きします。

このページの記事内容についてアンケートにご協力ください。

Q1.この記事について、どう思われましたか?
Q2.どんなところに興味がもてましたか?具体的に教えてください。
Q3.「ユニバーサルデザインStory」を次号も読みたいと思いますか?
Q4.ご意見がございましたらご自由に記入ください。
Q5.お客様についてお教えください。
性別:
年代:

送信後、もとのページに戻ります。

ページトップへ

Share
  • Facebookでシェアする

CLOSE