ホッとワクワク+(プラス)

ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)

TOTOx日経デザインラボのコラムです。

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vol.24 インタビュー企画 TOTOの優しさをつくる人たち-第2回 開発者 中村憲通さん

TOTO小倉第二工場の実験室にて

vol.24 インタビュー企画TOTOの優しさをつくる人たち-第2回 開発者 中村憲通さん

TOTO小倉第二工場の実験室にて

お客様が信頼して使える安全な手すりをつくる

vol.23から新たに始まった、
TOTOのユニバーサルデザイン商品に関わるエキスパートへのインタビュー。
vol.24はトイレ用アームレストの開発者に話をうかがいました。
地道なテストとデータ解析を積み重ね、安全で使いやすい手すり商品を着々とつくり上げています。
小さな身体からあふれ出る開発への熱意が、インタビューにも滲み出ているようです。

シミュレーションと実物での検証を積み重ね、高い安全性を裏づけ

シミュレーションと実物での検証を積み重ね、高い安全性を裏づけ

―――大学ではどんな分野を専攻されたのですか?

大学の工学部で、流体力学を専攻。原子力をはじめとする発電の分野で、熱をいかに効率よく伝えるかという研究をしていました。例えば、研究ではパソコンでのシミュレーションを駆使して、流体の流れやそれに伴う熱の移動を可視化したりしていました。

―――手すりの開発に関わり始めたのはいつごろですか?

2009年の入社間もなくから、手すりの開発を担当しています。最初に携わったのは、住宅の浴室向けの「インテリア・バー(UB後付けタイプ)」です。今回フルモデルチェンジしたアームレストでは開発者として、企画やデザイン、製造の担当者と協力しながら、お客様へのヒアリングに始まり、設計、試作、評価試験、量産性の確認など商品を生み出すまでの一連の工程を推進しました。

―――手すりの開発は、大学での研究内容と異なりますね。

お恥ずかしい話ですが、入社するまでは手すりとは縁が無かったので、手すりのありがたさを経験したことがありませんでした。ですから、配属が決まって、少々驚きました(笑)。TOTOが住宅用手すりのトップランナーであることも入社してから知ったくらいです。それまでは介護に関する知識は持ち合わせていませんでしたが、配属後から福祉住環境コーディネーターの資格を取るなどして少しずつ福祉について勉強していきました。ただ、大学時代に身に付けたシミュレーションの知識や技術は、手すりの開発でも役立っています。

―――手すりの開発についての第一印象は…

安全に対する責任感を強く感じました。絶対に、お客様がご使用中に外れたり壊れたりしないようにする。そのために驚くほどたくさんの評価試験をやっているんですよ。強度に関するだけでも垂直、水平方向、それぞれ大きい荷重がかかっても大丈夫かとか、繰り返しの使用を想定した条件でも問題ないかなど。一本の手すりに対してこれだけの評価試験があって、やっと商品として出て行くことに最初は驚きました。

中村さんポートレート機器水栓生産設計部 中村 憲通 ノリユキ さん同志社大学工学部で流体力学を専攻。2009年に入社後、TOTOの手すりの開発に従事。

―――インテリア・バーの次に、「アームレスト」の開発に入るわけですね。

この2種類は使われ方が異なります。インテリア・バーは握ったり、掴んだりして身体を支え、アームレストはひじ掛けや立ち座りの補助をします。また、インテリア・バーは固定式ですが、アームレストはアーム部をはね上げられる可動式です。アーム部をはね上げて、お掃除の際に邪魔にならないようにしています。開発にあたっては、可動中に指の巻き込みや挟まれのないことや、スムーズに可動し続けるかなど、可動式ならではの難しさがありました。

―――開発プロセスの最初に、徹底的に利用シーンの洗い出しをするとお聞きしました。実験内容は利用シーンの洗い出しと通じているのですね。

商品の仕様を決めるために、まず、お客様がこの商品をどのように使うのか徹底的に使用シーンを洗い出します。お客様がトイレのドアを開けて中に入り、便器に近づいて座り、用を足して出る。アーム部は跳ね上がっていたら下ろすけれども、どういった下ろし方があるだろう…という風に一連の動作を思い浮かべながら、商品の扱われ方を考えていきます。施工や掃除を含めてですね。高齢者はもちろん、子どもも想定します。子どもがぶら下がったり、乗ったりなど、誤った使い方も考えますね(笑)。

―――なるほど(笑)、ありそうですね。

次に、洗い出した使用シーンをもとに商品の仕様を検討します。例えば、強度では、実際に人に使ってもらってモニター評価を行い、どのくらいの荷重が商品にかかるのか実測し、耐荷重を決めます。このようにして商品の要求仕様を固めたあとに詳細設計を行い、ようやく試作品での強度試験や耐久試験に入ります。

アームレストアームレストの骨組み、右が実際の商品の状態

アームレスト固定の様子左/アームレストはまず台座部を壁面に取り付けてから、アーム部を固定する。台座とアーム部を分離することで施工しやすくなった
右/手すり商品の取り付け位置などを検討する実験用のコンクリート壁

モニター評価の様子一般ユーザーに協力いただき、試作品をモニター評価する

―――代表的な試験をいくつか、ご紹介ください。

強度試験や耐久試験のほかに、応力確認試験もあります。アームレスト全体に「ひずみゲージ」というセンサーを取り付けて、アーム部の先端に荷重がかかったときに各ポイントにどのくらいの力がかかっているかを実測します。パソコンでのシミュレーションの結果と照らし合わせて、安全に設計されていることを確認する試験です。また、破壊試験といって、商品が壊れるまで荷重をかけ、急にバキッと折れるような危険な壊れ方をしないか確認する試験も行います。そのほかにも、ロボットを使いアーム部をはね上げたり下ろしたりする操作を繰り返して、可動部の耐久性を確認する操作耐久試験もあります。

―――デザインでは、アーム部の曲線がとても印象的ですね。

アームレストは元々、ネオレストとの組合せを想定してデザインされた商品なんです。タンクがなくローシルエットなネオレストに合うように、壁に取り付ける台座部の位置は低く設定しており、モデルチェンジの際にもこの考えを踏襲しました。また、アーム部先端はひじ掛けや立ち座りの補助として使いやすい位置にする必要があります。デザイン性と使い勝手の両立を考えた結果、このアーチ形状に辿り着きました。

耐久試験の様子ロボットを使った耐久試験。アーム部をはね上げ下ろす操作を昼夜問わず連続で行う

応力確認試験の様子応力確認試験。アームレストの骨組みにひずみゲージを取り付けて、アーム先端に荷重をかけた際の各ポイントのひずみを測定する

シミュレーションの様子シミュレーションの様子。応力確認試験の結果と比べながら、部品の形状を検討する*通常、実験場では保護具を着用しますが、今回の取材は安全を十分確保した上で私服にて行いました。ご了承ください

TOTO小倉第2工場外観TOTO小倉第二工場

―――アームレストの開発では、「備えるリモデル」を強く意識されたそうですね。

アームレストのメインターゲットはアクティブシニアです。皆さん、まだまだお元気だからこそ、ご自宅にいかにも福祉機器っぽい商品を敬遠される方々も多い。とはいえ、身体状況は変化していきます。それに備えて、アクティブシニアの皆さんに受け入れていただけけるよう、福祉機器らしくないデザイン性、かっこよさにこだわりました。
実は、高齢者の方に限れば、転倒などのご自宅での家庭内事故による1年間の死亡者数は、交通事故による死亡者数を超えています。それだけ家庭内にはまだまだ多くの危険が潜んでいるということですね。私が開発した商品で家庭内事故が少しでも予防でき、より多くの方がご自宅でできるだけ長く健やかに暮らせるようにしたい。一緒に暮らしていた生前の祖母の姿を思い浮かべながら、開発に臨んでいます。

―――かっこよく安全性が高い手すりなら、来客にも自慢できそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

ありがとうございました。

写真/鈴木愛子 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2014年8月22日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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次回予告
vol.23からTOTOのUD商品と、それぞれのデザイン、開発のストーリーにスポットを当てるインタビューを連載中。
vol.25 は「ベッドサイド水洗トイレ」の開発者に話をうかがいます。
2014年9月下旬公開予定。

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