ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)
TOTOx日経デザインラボのコラムです。
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TOTOバスクリエイトの研修施設にて
vol.23 インタビュー企画TOTOの優しさをつくる人たち-第一回 デザイナー 重信真澄さん
TOTOバスクリエイトの研修施設にて
vol.23からは、新たな企画がスタート。
TOTOのユニバーサルデザイン(以下、UD)商品に関わっているさまざまなエキスパートに話をうかがいます。
どういった思いを持ち、どういったプロセスで、ものづくりに取り組んでいるのか。
その話からは、それぞれの商品の新たな魅力と、進むべきUDの未来が見えてくることでしょう。
第1回のvol.23は、システムバス開発担当のデザイナーです。
心身ともに心地よく入れるよう機能とデザイン性の両立を追求
―――重信さんは入社後4年目から、システムバス「サザナFタイプ」の開発に関わってきたそうですね。
はい。「スプリノ」という高級シリーズをもとに、新たに「サザナ」シリーズを開発するタイミングで関わりました。私が担当したのが、その中のFタイプです。
―――その際に、デザインではどんな課題があったのでしょうか?
「スプリノFタイプ」には、一旦腰掛けて浴槽にスライド移動したり、シャワーを浴びたりできるベンチカウンターが設置されています。こういったUD機能を向上させながら、見た目のインテリア性を高めることが大きな課題でした。高齢者をサポートするUD機能と、若い世代も好むインテリア性を兼ね備えていれば、家族全員が心地よく使える商品になりますね。高価格商品になっているスプリノに対して、より多くのお客様に選んでいただけるようコストを抑えることも、重要なミッションでした。
重信真澄さん千葉工業大学工学部工業デザイン学科で空間デザインを専攻。入社後、デザイン本部に所属しシステムバスの開発に従事。
左:サザナFタイプのベンチカウンターに座った様子
右:ベンチカウンターから浴槽に移る様子
―――どういった部分をブラッシュアップしていきましたか?
浴槽につかるのはもちろん、ベンチに座って入浴するスタイルもごく自然に楽しめる形にしたかった。スプリノのベンチカウンターと背もたれ(アクセントボード)を進化させようと考えました。こだわったのは肌が触れる部分の触感です。ベンチカウンターは一体成型品で、座面にはフィット感と座りやすさを考慮した材質と形状を 選んでいます。座面の前面は丸みを持たせながら、少し周りよりも高くしています。柔らかな印象を生むだけでなく、背もたれに寄り掛かったときに前のほうにズルっと滑り落ちないようにしたんですよ。また、座ったままシャワーを浴びるために水はけにも配慮しています。
見た目の印象にもこだわりました。離れて見たときに「座っていいんだよ」というのをアピールするようにしたくて。ソファのようなデザインにまとめたかったので、海外の著名なデザイナーのソファの画像をたくさん集めて研究しました。
背もたれは平らな板だったのですが、もたれやすさを検討して、コンパクトな立体形状に変更しました。背中の当たる面は緩やかな曲線になり、上部はぐっとつかめる手すりを兼ねているんです。
―――人の体型は千差万別。背もたれの曲線はどうやって検討しましたか?
福祉機器、介護用品は危険防止のために丸っこい形をしているものが多いですよね。サザナFタイプは全体的にすっきりした直線でまとめ、身体の当たるところだけ柔らかい曲線を用いメリハリをつけました。
形状は念入りに検討しました。デザインしたあと発泡スチロールをカットして模型をつくり、実際に試してみました。何度もつかんだり、もたれたりして偶然にでき上がった曲線を、反対にデザインに取り込んだこともありましたね。
―――ベンチカウンターを設置するための工夫は?
ゆったりとくつろげるベンチカウンターを設置するには、水栓金具とシャワーの位置が課題になります。そこで、ベンチカウンターの上部ではなく、サイド面の壁に水栓金具とシャワーを取り付けました。配管はベンチカウンター下に配置したので、デザイン性を損なうこともありません。
ベンチカウンターの座面の断面の様子(写真:TOTO提供)
左上下:発泡スチロールでつくった背もたれの模型。曲線の角度が異なる
右:実際の背もたれ(アクセントボード)は中空構造で強度を確保。上部が膨らみ手すりが一体化している
水栓やシャワーへの給水管はベンチカウンターの下に収めた。組立の煩雑さを防止
―――色の組み合わせはかなり豊富になっていますね。
ベンチカウンターも壁面に取り付けるアクセントボードも、木目2色のみだったんです。この色調ですと、相性の良い壁や浴槽の色が限られるので、お客様の要望に応えにくいんです。ですから、ベンチカウンターと座面、アクセントボードは他のパーツとの相性のいいものを選りすぐってホワイト、ブラック、ベージュの3色に増やしました。ベンチカウンターと座面、アクセントボードの色の組み合わせは27通り。壁や浴槽も好みの色を選べます。
―――今後は、サザナFタイプをどのように進化させたいとお考えですか?
まだ、ベンチカウンターでやり残したことがありまして…。もっと座面を柔らかくしたいとか、もっと座りやすい形があるんじゃないか、などと考えています。浴槽との組み合わせ方が今は限られていますが、もっと自由にレイアウトできないの? とか。身体を洗う、温めるといった機能的なことからもう一歩進んで、リラックスやリフレッシュといった人の“気持ち”に関わるところも進化させたいですね。
―――たくさんの人が、自宅のバスタイムを楽しみにするようになりますね。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
画面上で壁や浴槽、ベンチカウンターなどの色の組み合わせを検討中。東京・青山のデザイン本部にて
ベンチカウンター周辺のデザインを比較したCG
今回取り上げた商品はこちらシステムバス sazana(商品詳細ページへリンクします)
写真/丸毛透(特記以外) 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2014年7月25日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。