ホッとワクワク+(プラス)

ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)

TOTOx日経デザインラボのコラムです。

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vol.21 インタビュー企画 生活とデザインの関わりを再考する

TOTO汐留ビルディング オフィスにて

vol.21 インタビュー企画生活とデザインの関わりを再考する

TOTO汐留ビルディング オフィスにて

日経デザイン編集長 丸尾弘志氏×ヒロタデザインスタジオ代表 廣田尚子氏

日々の心地よい暮らしを生み出してくれるデザイン。
では、プロのデザイナーは、デザインをどのように使いこなして、
ひとつひとつの商品や生活空間にまで心地よさをもたらしているのでしょうか?
そこには誰でもが快適に暮らすためのユニバーサルデザインのヒントが隠れているかもしれません。
笑顔が爽やかな日経デザイン新編集長、丸尾弘志氏がプロダクトデザイナー、廣田尚子氏に聞きました。

モノの快適は機能と”空気感”が生み出す

モノの快適は機能と”空気感”が生み出す

日経デザイン編集長 丸尾弘志氏(以下、丸尾)
プロダクトデザイナー 廣田尚子氏(以下、廣田)

丸尾:
今回の対談では、廣田さんのこれまでの仕事をベースに、生活とデザインの関わりについてざっくばらんにお聞きしたいと思います。廣田さんは、デザインする際、常に「快適」を意識していらっしゃるそうですね。
廣田:
ええ、そうですね。快適と言っても実は多くの方向性があるので、それぞれのモノにフィットする快適を吟味して組み合わせる。けれども、複雑なままではなくシンプルに見せることが大事です。
丸尾:
主に機能面でしょうか?
廣田:
機能的な快適はもちろん、モノが醸し出す空気感から来る快適もあるでしょう。手で持つものでしたら重量感、しっくりくるという感覚もありますね。いろいろな意味での快適を考えています。
丸尾:
ユーザーが異なると、それに伴って快適の種類も異なりますね。
廣田:
売り方が違っても、変わります。
丸尾:
そうですか。たとえば、どういった場合ですか?
廣田:
どの会社が製造、販売するのか、どの店に並べるかが大きく関係しますね。この商品(左の写真)はサーモス(東京都港区)が製造し、スターバックスコーヒージャパン(東京都品川区。以降スタバ)の各店舗に置いている保温・保冷機能を持つ真空二重構造のオリジナルタンブラーです。サーモスでは同様の機能を持つ商品は量販店などでもたくさん販売するわけですが、そこで扱うものとスタバで扱うものは異なります。どういった層に向けるのか、その層にどんな佇まいが好まれるのか、どんな使い勝手が求められるのか。誰が発信する商品かで大きな違いがあります。
丸尾:
このタンブラーは一般的なサーモスの商品とは色や質感がだいぶ違うのですね。
廣田:
まずは大きさ。通常、すでに浸透している真空断熱携帯マグだとコンパクトで、鞄に入りやすいことが大事です。スタバの場合、第一に求められるのはコンパクトさではありません。持ち帰り用の、少し頭の大きいあの紙カップのバランス。「紙カップがこれに替わったよ」というメッセージが大事で、オリジナリティに結び付くんですよ。むしろ小さく見せる必要はない。スタバを好む人たちの愛着を引き継ぐと同時に、垢抜けた、先進的なイメージをどうやって伝えられるかが勝負どころでした。
丸尾:
紙コップが投影されているとは意外でした。
廣田:
量販店で販売しているような真空断熱携帯マグや樹脂製タンブラーとは異なる、紙コップに近い新たなデザインを生もうとしました。ふたは全部ではなく部分が開くとか、上端が筒状に1周太くなっているとか、小さなデザインの要素を積み重ねで差別化を図っています。
丸尾:
スタバの場合、ユーザーはそのショップらしさが好き。使う人が商品の持つ空気感にフィットすることが大事なんですね。

丸尾氏ポートレート丸尾弘志氏日経デザイン新編集長。1998年国際基督教大学卒。同年日経BP社に入社、日経システムプロバイダ記者。2001年に日経デザインに配属後、パッケージデザインのリサーチやブランディング、知的財産、新素材開発にまつわる取材を行う。2014年現職。主な著書に「パッケージデザインの教科書」「売れるデザインの新鉄則30」など

タンブラーを触りながらスターバックスコーヒーのステンレス ToGoロゴタンブラーマットホワイト。350ミリリットルと470ミリリットルの2種類

廣田氏ポートレート

情報を抽象化すると目標が見える

情報を抽象化すると目標が見える

廣田:
デザインするときにはいつも、調査をして得た情報は具象ととらえています。数値的なデータはもちろん個々のユーザーに関する情報もそうですし、つまり、世の中で起こっている現象は具象なんですね。デザインをするとき、情報が具象のままだと自分のアイデアに反映しにくいので、一旦、分類して抽象化してみる。すると、複雑な情報をシンプルに捉えられて、行くべき方向が見えてくるんです。
丸尾:
このタンブラーを手掛けた際も、綿密な調査をされたのですか?
廣田:
同業他社の商品が数多くある中で、何が個性なのかということなどを調べました。機能の類似したさまざまな商品が調査対象です。携帯マグとは一線を画そうと試みた結果、紙コップに近づけるというコンセプトが生まれてきました。先程お話ししたようにそれを、空気感で表現したんですよ。
丸尾:
なるほど。
廣田:
日本でつくられるユニバーサルデザインに関連する商品は、基本的な機能はかなり成熟しています。日本のテクノロジーとデザイン性はやはり素晴らしい。私はユニバーサルデザインには愛着が湧くような感覚、たとえば質感や匂いなどから導かれる空気感も含まれると思っていますが、その部分は残念ながら未発達。空気感はこれから開発の余地がありますし、時代によっても変わっていくべき部分なので、可能性は尽きないと思います。
丸尾:
機能性に空気感をふわっとまとわせて、人との親和性を高める。
廣田:
デザインのジャンルの中では、ファッションが一番進化しているでしょう。表現の奥深さ、レパートリー、ビジネスという意味でも進んでいる。ファッションに関わるインテリア、つまり店舗の内装はそれに追随して同じくらい進化しているように思います。そう考えますと、インテリアは空気感を表現しやすいのではないでしょうか。もっと日常に、たとえば、一般の住宅にももっと広がっていい。
丸尾:
廣田さんは、幅広いジャンルのデザインを手掛けていらっしゃいますね。家庭用品からファッション雑貨、インテリア…。最近は三重県の温泉施設に置く直径5メートルの大型ロビーベンチも手掛けたそうですね。家庭用品などのプロダクトとインテリアはデザインの手法が違うように思いますが、いかがでしょう。
廣田:
この大きさは初めてですが、取り組む姿勢はこれまでと変わりません。デザインの中で、ジャンルという垣根は私にはないんです。
丸尾:
なるほど。
廣田:
私は生活者でもあります。普段の生活を振り返ると、家具と食器は近い感覚で決めています。食器や文具、家にしつらえる花瓶、洋服までも大きな意味でつながっている自分のセンスで買い求めていますね。生活者として区切りがないように、デザインでも区切りをせずに扱いたい。自然なスタンスだと思います。

廣田氏ポートレート2廣田 尚子 氏ヒロタデザインスタジオ代表。2003年よりグッドデザイン賞審査員、2010年より女子美術大学芸術学部デザイン工芸学科教授。
1990年東京芸術大学卒業、GKプランニング&デザインを経て1996年ヒロタデザインスタジオ設立。プランニング・コンセプトワークからプロダクトを中心にデザインを手掛ける。
ヒロタデザインスタジオ

タブレットを触りながらタブレットを使い、温泉施設に置いた大型ロビーベンチ「minamo」について説明中。

大型ロビーベンチ廣田さんは当温泉施設で「minamo」と照明「hoshiful」を担当。ベンチでは水面をイメージし、安らぎによるもてなしを表現した。座面の低いところに子ども、高いところに大人が座るユニバーサルデザイン(写真:繁田論)

インタビューの様子

写真/鈴木愛子(特記以外) 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2014年5月23日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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次回予告
vol.22は引き続き、日経デザイン編集長の丸尾弘志氏によるプロダクトデザイナー、廣田尚子氏のインタビューをお届けします。
2014年6月下旬公開予定。

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