ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)
TOTOx日経デザインラボのコラムです。
TOTOx日経デザインラボのコラムです。
vol.17とvol.18では、70代の国際結婚のご夫婦が、お互いの生活スタイルや趣味を大切にしながら、終の棲家として快適・安全に暮らし続けられるようリノベーションした住まいをご紹介します。
Sさんご夫婦は2人暮らし。数年前、以前お住まいだったマンションの建て替えを機に、親戚が多く住んでいるエリアに引っ越すことを決めました。気軽に受診できる病院が多く、空港に行きやすいなどSさんご夫婦には条件の揃ったエリアです。理想の間取りへの変更が可能なほか住宅の管理やメンテナンスを重視して、そのエリア内にあるマンション住戸を選びました。
リノベーションを担当したカガミ建築計画の各務謙司さんは、設計の際に、Sさん夫婦の暮らしやすさと手持ちの調度品が映える上質なインテリアの両立を目指しました。たとえば、移動をサポートする手すりや腰掛などは、インテリアに溶け込むデザインに徹しています。「お年寄扱いされていると感じるような設備や機能を好まない方は、少なくありません。好みの空間は、そのままで心理的なユニバーサルデザインになり得ると思います」と各務さんは言います。
vol.18では、高齢者の動作への配慮とインテリアが融合した部分にスポットを当て、紹介していきます。
Before
リビングダイニングが仕切られたほか長い廊下に沿って部屋が並ぶなど、家族のコミュニケーションが取りにくい間取り
Before→After
DATA
構造/RC造 13階建7階部分
築年数(リモデル着工時)/約7年
延床面積/187m²
リモデル面積/187m²
リモデル工期/2009年5月~2009年10月
設計/カガミ建築計画 各務謙司
施工/青
上/玄関。段差がごく緩やかに斜めに仕上げられ、つまづき防止とともに廊下とのけじめもつく
左/玄関の収納家具と一体化したベンチ。ベンチ右側のバーが手すり
段差を解消し、ベンチを設置 安心して動ける玄関
靴を脱ぎ履きしたり、上がりかまちへ上がる、など、動作が変化に富む玄関。高齢期を迎え身体が動きにくくなってきたとき、こうした動作の途中で思わずバランスを崩すケースは少なくありません。各務さんは玄関での一連の動作をしやすいように、さまざまな設計に細やかな工夫を盛り込みました。玄関の上りかまちの段差は2.5センチに抑え、さらに断面を斜めに仕上げて、つまづきを防止しています。壁面には靴の脱ぎ履き用にベンチを設置。ベンチは家具と一体化させているので目立ちにくく、意匠の一部になじむようにデザインした手すりを添えるなど、ここでも機能と意匠の融合を実現しています。
上/コルクタイルは足ざわりも柔らか。表面がコーティングされ清掃性もよい
左/トイレと洗面スペースの間には、天井までの高さの電気ヒーターを設置
転倒時のけがを防ぐため 浴室の床をコルクタイルに変更
妻用の浴室は、床材のみコルクタイルに変更しました。コルクタイルはクッション性があり柔らかいので、万が一、転倒した際にもけがを防止できるためです。また、足に触れたときに温かく、冬などに室内の温度差から生じるヒートショックやストレスなどを防ぐのにも有効だと各務さんは考えています。
元々洗面・脱衣室にはトイレがあり、使い勝手も良かったのですが、顔を洗う場所にトイレが置かれているのは心理的に抵抗があるとのことだったので、トイレスペースとの間にはフェンス状の電気ヒーターを取り付けました。双方のスペースをさりげなく目隠しするとともに、冬には洗面・脱衣 室の保温に使用しヒートショックを防いでいます。
上/出入り口付近から見たリビングダイニング。左側が新たに設けた壁面
左/壁面には腰高の収納家具を設置し、ディスプレイを意識して照明も大幅に変更。壁の内側には断熱材を施工している
リビングとダイニングの間仕切りを撤去。広く動きやすいLDに
以前はリビングとダイニングの間に引き戸がありましたが、これを撤去して広々と動きやすいリビングダイニングに変更しました。同時に変更したのが、窓まわりです。以前は外部に接する2面とも全面がガラスだったそう。しかし、そのままでは家具が配置しにくく、心理的にも落ち着かず暮らしづらくなることが予想できました。そこで、各務さんはそのうち1面について、一部の窓を残して壁でふさぎ解決することに。その結果、ローテーブルやソファ、ダイニングテーブルなどを適所に配置でき、リビングダイニングから玄関やキッチンまでスムーズな動線を確保できました。また、新たな壁面まわりには、Sさん夫婦のコレクションである絵画やオブジェを飾り、好みの空間づくりを楽しんでいます。
国民生活センターに医療機関ネットワーク事業の参画医療機関から提供された事故情報によると、65歳以上高齢者の方が20歳以上65歳未満の人よりも住宅内での事故発生の割合が高い。65歳以上の高齢者の家庭内事故は、全事故のうち約77%を占める。そのうち最も多い事故時の場所は「居室」の45.0%、次いで「階段」18.7%、「台所・食堂」17.0%となっている
写真/澤田聖司 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2013年12月13日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。