UD styleの新しいコラム、「ホッとワクワク+(プラス)」創刊号は、日経デザインの下川編集長が、TOTOテクニカルセンター次長の前橋信之さん、デザインセンターの緒方里奈さんに、TOTOが実践する最先端のユニバーサルデザインについてインタビューしました。 -ユニバーサルデザインとはー
「ユニバーサルデザイン」(以下、UD)は1980年代に、誰もが平等に、家具や家電のような工業製品、建物を使えるようにと、設計者であり教育者だったロナルド・メイス氏が提唱した考え方です。当初は、今でいうバリアフリー用品や介護用品との違いが曖昧でした。日本ではそういった黎明期のUDが導入された後、企業の哲学ともいえるCSR<企業の社会的責任>に近いことから、企業が独自のUD基準をつくったり、開発に取り入れていった経緯があります。日本のUDは、黎明期から成長期を経て、今は成熟期を迎えています。
バリアフリー、高齢者対応も含むユニバーサルデザイン
- 下川:
- 日本のUDが成熟期に入った1990年以降には、高齢社会の本格化も重なっていますね。それまで、TOTOはUDについて、企業としてどういった取り組みをしてきたのでしょうか。
- 前橋:
- 私どもは1960年代にはすでに、弊社製品が公共の衛生機器としてどうあるべきか、今でいうバリアフリーに向かい合い始めたと聞いています。TOTOの主力製品である便器、浴室と障がい者との関係性は切り離せない課題であることから、バリアフリー製品の開発を脈々と続けてきました。1990年代からは、日本の高齢化を見据えて、高齢者配慮に向け研究と開発をスタート。2005年には、それまですでに行ってきたバリアフリー対応、高齢者配慮の製品開発を、「ユニバーサルデザイン」という包括的な取り組みとしてとらえ直しCSR宣言を行いました。UDという言葉の中に、バリアフリー、高齢者配慮という取り組みを包含しながら活動してきたというのが、これまでのおおまかな流れですね。
- 下川:
- 緒方さんは、製品のデザインを総括するデザインセンターで、主に腰掛便器のデザインを担当していらっしゃるそうですね。現状の御社製品の中には、UDの工夫や考え方がどういった形で盛り込まれているのでしょうか?
- 緒方:
- 公共施設向け製品はバリアフリーからスタートしているので、これまでに蓄積したUDの要素が隅々に取り入れられています。子供に使いやすいか否かも重要な点ですね。最近は住宅向け製品で高齢者対応を一層積極的にすすめており、どのようにUDを組み込むかはデザインセンターの大きな課題です。ごく初期のコンセプト立案や、アイディアスケッチの段階から、お客様の使いやすさは非常に考えますね。たとえば、私がデザインを担当したウォシュレット一体形便器「ネオレスト」は、形状の美しさと同時に、UD視点である快適性や清掃性を追求しました。それを操作するリモコンも、同様のスタンスでデザインを手掛けています。リモコンは、直観的に使いこなせることにもこだわりましたね。
TOTOコミュニケーション本部
テクニカルセンター次長 前橋信之氏
1984年TOTO入社。アルカリイオン生成器や食器洗い乾燥機の研究開発、福祉機器の商品企画を担当。2004年よりユニバーサルデザイン推進事業などに従事。
- 下川:
- 今までは、リモコンに赤、青、黄など色をつけて認識しやすくする傾向がありました。
- 緒方:
- 色を使うと分かりやすいのですが、ともすると子供っぽい、おもちゃっぽい印象になってしまいます。それをいかに払拭するか、それでいて美しさとUDを両立しうるということを最新のネオレストで試みたのです。
- 下川:
- こういったストーリーからも、UDが成熟段階に入ってきたと実感します。
- 緒方:
- 実際にそうですね。バリアフリーという概念は、私たちデザイナーの中では「ユニバーサルデザイン」へと昇華しています。TOTOでは幅広いデザイン性、価格帯のものをラインナップしているわけですが、意匠の美しさも重視するハイデザイン製品、高級製品では、UDの概念を持ちつつ美しさも兼ね備えたデザイン提案をしていきたい。お客様の趣向と使い勝手の満足度双方を満たすことも、実は総合的なUDではないでしょうか。
- 下川:
- これまでハイデザイン製品、高級製品でUDを実現するのは難しいと言われてきましたが、さきほど拝見したネオレストのリモコンには、UDが溶け込んでいましたね。
- 緒方:
- デザインセンターでは、「暮らしにそっと寄り添うデザイン」というフィロソフィーを掲げています。快適に使える製品だからといって使いやすさを前面に出すわけではなく、さきほどの話にあった「毎日の暮らしの中で使いやすい」ことが、自然でユーザーの意識には上らない、そういうものを目指しています。
TOTOデザインセンター
プロダクトデザイン部 デザイナー
緒方里奈氏
1989年TOTO入社。これまで水栓金具、食器洗い乾燥機、温水洗浄便座「ウォシュレット」、国際商品などのデザインを担当。現在はレストルーム関連商品、自動水栓のデザインに従事。
- 前橋:
- ロナルド・メイス氏が提唱したころの、すべての人が使いやすいというUDは非常に難しいことだと思います。製品の対象者を設定して、完成した製品がその対象者にとって操作性が高く、精神的な満足度も高ければいいのではないでしょうか。あとは、製品のラインナップからユーザーが適切なものを選び取れるような情報提供ができれば、トータルなUDにつながると考えています。
- 下川:
- 公共施設、住宅など使われる場所によっても求められるポイントが変わりますね。
- 前橋:
- 近年では高齢化がすすみ、身体能力の低下とともに杖をつくようになった方もよく見かけます。たとえば、公共施設に向けては、そういった方々にも気軽に利用していただけるよう、フォローするポイントがあるはずです。場所ごとに、ユーザーの特性を明確にしたうえで開発をすすめる必要があるでしょう。
- 下川:
- 住宅向け製品では、総合的に、どのようにUDを落とし込もうとお考えですか?
- 前橋:
- 私たちの製品は毎日必ず使うという前提があります。家電や自動車と違い、日々つきあわざるを得ない。その期間も、20年、30年と長い。だからこそ、いろいろな人が無理なく使い続けられる工夫をベースにして、どう魅力を盛り込むのかが重要になってきます。
- 下川:
- 期間が長ければ、ユーザーの身体の状況は変化します。たとえば、リタイアを機に60歳前後にリモデルで設置した製品を80歳まで使い続けるとすれば、その間の使い勝手の変化は大きいでしょう。
- 緒方:
- できれば、その使用期間に少し手を加えるだけで、段階的に使いやすさが向上する製品を開発していきたいですね。
(vol.02に続きます)
日経デザイン編集長 下川一哉氏
1988年日経BP社入社。1994年に日経デザイン編集部に配属、2008年より編集長。デザイン情報番組「TOKYO AWARD」(テレビ東京)にも出演中。
写真/山田愼二 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2012年4月24日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。
- vol.02ではユニバーサルデザインを内包した製品を使うメリットを考えていきます。
2012年5月下旬公開予定。