ユニバーサルデザインStory別冊

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別冊02

バリアフリーからユニバーサルデザインまで
25年に渡る「国際福祉機器展」展示の移り変わり

TOTOは1995年から国際福祉機器展(H.C.R.)に出展し、
バリアフリーやユニバーサルデザインを取り入れた水まわりの設備や福祉機器を紹介し続けてきました。
その変遷を追いかけることで、社会背景の変化のほか、
徐々に福祉という考え方やユニバーサルデザインが世の中に浸透してきたことが分かります。
この別冊を一読いただくと、これまでの歴史の変遷の先にある今年のH.C.R.に来場したとき、
より深く、ポイントを押さえながら水まわりの設備や福祉機器、住宅、高齢者施設で必要な配慮をチェックできるはずです。

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出展初年度は試作品3品を公開
来場者の声がブラッシュアップのヒントに

本橋毅氏(以降、本橋)
赤田義史氏(以降、赤田)

―――1995年に初めてTOTOが国際福祉機器展(以下、H.C.R.)に出展して以降、おふたりとも要所で関わってきたそうですね。

本橋:
私は初年度の1995年から福祉機器の開発担当者の一員として、しばらくの間、展示に関わりました。1995年は、TOTOが福祉機器を販売する前年に当たり、販売を予定して開発を進めている3製品の試作品を展示することになりました。
当時、TOTOでは福祉機器の開発は、病院の医師や理学療法士の先生方の意見を聞きながら進めていました。残念ながら、実際に機器を使用する方や介護する方の生の声を聴くチャンスはほとんどありませんでした。H.C.R.は、そうした生の声を聴ける絶好の機会であり、また、福祉機器の新商品を発表する場にふさわしいと考え、出展を決めたのです。

UD・プレゼンテーション推進部 本橋毅(もとはし たけし)氏東北大学工学部で機械工学を専攻。1988年入社。1995年より約20年間、福祉機器・UD商品の研究・開発業務に従事。2017年より販売部門にてUD視点のマーケティング・コミュニケーションツール制作・使い勝手検証等の業務に従事。H.C.R.には1995年より参画。

UD・プレゼンテーション推進部 プレゼンテーション企画グループ 赤田義史(あかた よしふみ)氏立教大学経済学部を卒業後、入社。給湯機・ウォシュレットの販売・事業関連業務を経て楽&楽事業推進本部(UD・プレゼンテーション推進部の前身)へ公募異動。2005年全社方針のUD推進テーマに沿って、国際福祉機器展(H.C.R.)プロジェクトリーダーを担当。

―――当時のブースの広さは?

本橋:
12m×3mほど、通路沿いに細長くレイアウトされ、いわばウナギの寝床のような形でした。近年の展示の1/6程度の広さですね。

―――当時は他社の展示にも、試作品が多かったのですか。

本橋:
当時はまだ、日本の住設メーカーはほとんど福祉機器をつくっていなかったと記憶しています。住設メーカーで福祉機器に取り組んだのは、おそらく弊社が最初だったのではないでしょうか。そのような中で、日本の会社が代理店としてすでにある海外の福祉機器商品を展示しているケースと、同じく日本の福祉機器専門メーカーが新商品を展示しているケースがありました。車いすやリフト、入浴用の特殊浴槽などを中心に、補助具と呼ばれる杖やシャワーチェアー、ポータブルトイレなどが並んでいました。2000年に介護保険が導入される前でしたので、国内メーカーの本格参入はこれから、といったところでした。
当時の海外の福祉機器のサイズは、やはり日本の住まいや、日本人の体格には合っていませんでした。介護保険開始後の家庭での介護を前提に、各社が日本に合う福祉機器開発に取り組んでいた時期だったと思います。

―――会場での来場者の反応を覚えていますか。

本橋:
出展当初、私たちTOTO社員はまだ障がいや介護についての知識が十分でなかったこともあり、福祉機器販売の専門家や介護者の方々がせっかく来場してくださっても、言葉が通じない場面が多々ありました。障がいの症状や介護の専門用語などがわからないわけです。とはいえ、来場者は日常生活で困り、真剣に家庭への導入を検討しているので、30分以上も同じ方と話し込むことも珍しくありませんでした。 現在は、まず高齢者や障がい者の方々に使っていただき、都度検証をしながら開発を進めますが、当時はそういった体制の黎明期でした。

―――試作品にはどんなご意見がありましたか。

本橋:
試作品の一つは便座が上がったり下がったりして、トイレでの立ち座りを補助する昇降便座でした。45度程度まで傾くようにしていたのですが、その昇降角度や経路、スピードもだめ、アームレストも使いにくいと厳しいご意見をいただいたんです。そういった声を生かして、角度は10数度、アームレストはもっと体の近い部分にするなど改良することができました。
H.C.R.は、当時はもちろん今も、ユーザーの皆さんの声を聴ける貴重な場のひとつだと思います。

―――そのほかに展示した試作品は、どんなものでしょうか。

本橋:
水まわり用車いす、一般的にはシャワーキャリーと呼ばれ、当時は武骨なステンレス製のものが主流でした。これをできる限り軽量化し、家庭内で座ったままトイレを使えて、シャワーも浴びられるようなものとして開発したんです。

展示会前、「水まわり用車いす」の開発現場にて。右前が本橋氏

1995年当時の展示会用資料。左が「簡易昇降便座」、右が「水まわり用車いす」(参考出品)

2004年以降、一人でも多くの人が
より使いやすく快適であることを配慮した展示へと進化

―――その後、展示の内容はどのように変化していきましたか。

赤田:
本橋の話の通り、当初は福祉機器の新商品を展示するような場で、障がい者や高齢者のバリアを取り除く、バリアフリーの考え方が中心でした。
大きな変化は2004年です。そこで弊社はCSR宣言、いわゆる企業の社会的責任を宣言し、全社で取り組むことになります。ミッションのひとつにユニバーサルデザインが掲げられました。それを受けて、H.C.R.でも“バリアを取り除く”という福祉機器中心の考え方から、一人でも多くの人が使いやすく快適にというものづくり、生活空間提案をしていこうという方針にシフトしました。ハードだけでなく、ソフト-配慮や考え方-を重視するようになったのも、その表れです。
この頃になると、商品の企画・開発など、ものづくり部門だけでなく、ユニバーサルデザイン関連商品の販売に関わっている社員も展示説明の応援に参加していました。部門の垣根を越えての、取り組みです。

H.C.R.の際、赤田氏が身に着けていたストラップとネームプレート。苦労の跡がにじむ

―――いわゆるソフトの部分をユーザーに伝えるのは難しそうですね。

赤田:
その通りです。そこで、展示にエンターテイメント性を盛り込むことにしました。ピエロを登用して、コミカルなしぐさで、展示している様々な商品を実際に使ってもらいました。「これは使いやすくこんなに快適です」といったところを、司会の方とやりとりするような演出です。
また、新しい取り組みとして、商品とともに写真を展示して説明したり、お持ち帰り用の資料を用意したりするなどお客様との絆を大切にしました。
2005年にはH.C.R.来場者が、過去最高の約13万人を記録。その頃になると車いすユーザーの方も増えて、ブースは当初の約8倍まで広がっていたものの、混雑は防げませんでした。それを機に、新たな商品の見せ方や空間のつくり方を模索し始めました。

2005年の展示の資料。ピエロが便器に座るなどして使い勝手をアピールしている

―――展示商品の変遷と、社会的背景は密接に結びついているようです。

本橋:
先程の話と重なりますが、当初、商品はバリアフリーがメインで、2004年ごろからはユニバーサルデザインの要素が盛り込まれるようになりました。2007年ごろになると、日本が超高齢社会に突入したことから、高齢者や要介護高齢者に焦点を当てた展示に切り替わりました。ですから商品についても、住設メーカーである弊社は、家庭の一般的なトイレを高齢者も利用しやすくするなど、双方の視点を持って開発に取り組むようになりました。 それ以降、TOTOの活動の変遷、最新の技術を伝えるもののほか、高齢者への配慮、生活のしやすさなどを総合的に展示し、これらの基本的な要素は今も変わらず、脈々と続いています。 その後さらに加わったのが、高齢者施設向けの商品です。施設不足が叫ばれる中で、各社ともに施設向け商品が増え、介護をしている方や施設の施主の方々に現場で採用したときの特長が伝わる展示が増えました。近頃の課題として介護人材が不足していることから、少しでも介護負荷が軽減されたり、見守りに役立つような商品の展示も目立ってきています。

2007年のH.C.R.のTOTOブースの様子。車いすユーザーが多数来場した

赤田:
高齢者配慮の代表的な商品に、例えば、奥行きが短くコンパクトな便器「パブリックコンパクト便器フラッシュタンク式」があります。狭いトイレ空間でも設置でき、便器から立ち上がるのに必要な便器前スペースを確保できます。立ち上がりが難しい高齢者にとっては、やさしい配慮となります。また、施設向けであれば、高齢者(利用者)だけでなく、介護スタッフへの配慮も大切にしています。この便器だとコンパクトな分、トイレの個室内に介護スタッフに必要な介護スペースを確保できますよね。「ベッドサイド水洗トイレ」もそうです。ベッドの傍における水洗トイレなので、身体が弱りがちな高齢者(利用者)の移動がらくになりますし、介護スタッフにとってはポータブルトイレのようなバケツの後始末作業が不要になります。

―――最後に、おふたりが長らくH.C.R.の展示に関わって得た経験などを踏まえて、お考えになる未来の方向性をお話しください。

本橋:
高齢化が世界一のスピードで進み、社会の状況が変わってきている中でも、障がいがあっても高齢になっても、人が家庭で自立した生活をしたい、あるいはさせてあげたいという思いは変わらないでしょう。その中で排せつや入浴は高いハードルになります。そういった困りごとに対して弊社が商品を開発し、情報を提供する場としてH.C.Rは.やはり重要です。さらに、来場者の方々とコミュニケーションを取り、新たな提案につなぐ気づきを得るためにも、H.C.R.に出展し続ける意味は大きいと思います。
赤田:
来場者の方々に加え、部門を超えた多くの社員とも顔を突き合わせて会話できる場所です。今後も、障がい者、高齢者、介護スタッフ、介護ショップの方など、現場はどういったことを望んでいるのかをキャッチし、社員間でも共有して、新しい提案をし続けていきたいです。今年のH.C.R.は、次世代のプロジェクトリーダーのもと、再び一緒に取り組みたいと思っています。
25周年のTOTOブースにて、社員一同、皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております。

本橋氏がまとめたH.C.R.の展示の変遷と社会的背景

今回の国際福祉機器展への出展商品のコラムご紹介

これまで、UD Styleのコラム「ホッとワクワク+」では、バリアフリーやユニバーサルデザインを配慮した商品の企画者や研究者にインタビューを重ねてきました。その中から、今回出展予定の商品の記事を抜粋してご紹介します。

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