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Story23
インタビュー

ベッドサイド水洗トイレの導入が増加中。介助の課題、「におい」と「転倒」の予防に注目集まる

story23 ベッドサイド水洗トイレの導入が増加中。介助の課題、「におい」と「転倒」の予防に注目集まる

H.C.R.2024 第51回国際福祉機器展&フォーラムのTOTOブースで主役の一つとなるベッドサイド水洗トイレ。2013年の発売以降も進化を続け、個人宅や高齢者施設、病院で着々と導入数を伸ばしています。ベッドサイド水洗トイレの開発担当・営業担当に、近年の進化や導入先の声について語ってもらいました。

  • TOTO 機器水栓開発第三部 機器水栓開発九グループ
    高橋暢孝(たかはし・のぶたか)
    2010年より福祉機器の研究開発に取り組む。以降、「トイレリフト」「ベッドサイド水洗トイレ」など福祉商品の開発業務に従事。
  • TOTO 販売統括本部 商品営業推進部 パブリック商品営業グループ
    市川初美(いちかわ・はつみ)
    2013年より商品営業部にて、福祉商品の商品価値を伝える商品提案や顧客サポートなどに従事。福祉住環境コーディネーター2級。

ベッドサイド水洗トイレは介助の負担を軽減し、ご本人の自立も促す

ベッドサイド水洗トイレは介助の負担を軽減し、ご本人の自立も促す

高橋暢孝(以下、高橋)
市川初美(以下、市川)

居室内に設置し、移動もできるベッドサイド水洗トイレ。ご自宅や高齢者施設、病院などに導入されています

 ベッドサイド水洗トイレの特徴をお話しください。

高橋:

ベッドのある居室に置くことができ、ご本人のニーズや身体状況に合わせて好きな場所に移動のできる水洗式トイレです。ベッドに近づけることができるため、ご家族や介助者の手を借りずに用を足すことができますし、水洗なので排せつ物の後始末も不要です。

 2013年の発売以降、ベッドサイド水洗トイレはどのように進化してきましたか?

高橋:

大きな変化として、2017年にモデルチェンジを実施しました。発売当初は移動の際に大人2人で持ち上げる必要がありましたが、キャスターをつけて1人でも動かせるようにしました。サイズをコンパクトにし、給排水用のホースも発売当初より50cm長い2.5mを標準としています。また、居室に馴染むような色調に変更しました。よりご本人の生活に合った使い方ができるようになったのではないかと思います。

2017年以降は、「ウォシュレット」の進化に合わせて「きれい除菌水」によるノズル除菌機能「ノズルきれい」を搭載したり、認知機能が落ちてきた方でも直感的に操作できる「らくらくリモコン」をオプションとして用意したりと、少しずつ改良を加えています。

左は一般的なリモコン、右は最低限の機能に絞り操作ボタンを大きくした「らくらくリモコン」。指先での操作がしにくい方でも安心して操作できます

 ベッドサイド水洗トイレはどのような方に喜ばれ、どのように使われてきたのでしょうか?

市川:

特に、居室からトイレまでの移動に付き添い介助が必要な方からとても喜ばれています。夜間に何度もトイレに行く方の場合、ご家族にも大きな負担がかかるものです。そのことに気を揉み、ご本人が飲み物や食べ物を制限されることも少なくありません。ご家族の方から、「ベッドサイド水洗トイレを導入してからちゃんと食べてくれるようになってほっとした」「表情が明るくなった」と感謝のお手紙をいただいています。

また、「家族に迷惑をかけたくない」と退院をためらっていた方が、ベッドサイド水洗トイレを知り「これがあれば自力でトイレに行ける」と安心してご自宅に帰ることができた、というお話も聞きました。

高橋:

介護が始まると、ご家族の中で誰が排せつ物の後始末をするかで揉めてしまい、ご本人がいたたまれなく感じるというケースもあるようです。においも生じるので、家にお客様を招きづらくなるという話も聞きますね。ベッドサイド水洗トイレにするとそうした問題が解決し、生活環境が大きく改善するので、ご本人もご家族も安心されるようです。

市川:

排せつにまつわる話はとてもデリケートです。「自分1人で好きなときに排せつできるようになり、人間としての尊厳を取り戻せたと感じた」という言葉をいただいたことが、とても印象に残っています。排せつに人の手を借りなければいけない状況が続くと、「自分1人では何もできない」と気持ちが落ち込んでいくのだと思います。ベッドサイド水洗トイレはベッドのすぐそばに置けるので失禁などの失敗も減りますし、自尊心が保たれ、心身の自立につながるのではないでしょうか。

「在宅介護で一番大変なのは排せつ介助だという話を聞きます。ベッドサイド水洗トイレによって、介護を楽にできれば」(高橋・市川)

介護人材不足を背景に、高齢者施設や病院への導入が増えている

介護人材不足を背景に、高齢者施設や病院への導入が増えている

 ここ数年、高齢者施設や病院から「ベッドサイド水洗トイレを導入したい」という声が増え、注目が高まっていますね。どのような背景があるのでしょうか?

市川:

ご自宅の場合と同じで、ご本人の自立や介護スタッフの負担やにおいの軽減などを目的に導入いただいています。特に近年は、介護人材不足に悩む施設が少なくありません。居室からトイレへの移動介助や、汚物処理をするのも、時間や労力が必要です。ベッドサイド水洗トイレを導入すると介助の負担を減らすことができますし、ご本人の満足度も上がります。こうしたメリットが福祉関係者に知られてきたことが大きいのではないかと思います。

また、新型コロナウイルス感染症の流行も関係しているかもしれません。コロナに罹患した患者さんが居室内で排せつできれば、院内の感染拡大予防につながりますから。

においを外部に漏らさないようにするため、使用後は「脱臭」から吸い込み量2倍の「オートパワー脱臭」に自動で切替え、洗浄時の粉砕圧送ユニット内の臭気をエアーバッグに納めています

ウエットティッシュや湿布、尿取りパッドといった異物を誤って流してしまった際も、粉砕圧送ユニットで異物をキャッチし簡単に取り出せます

高橋:

病院や施設では居室内に心電図モニターや介護機器などを置く場合もありますが、そのようなときでもベッドサイド水洗トイレは移動ができるのでじゃまにならず、必要に応じて居室内のレイアウトを自由に変えられます。そうした使い勝手の良さも喜ばれているのではないでしょうか。

また、高齢者施設における転倒事故の半数は、排せつ中または排せつのための移動中に起こると言われています。ベッドサイド水洗トイレを導入すればトイレまでの移動距離が短くなり急いで移動する状況を減らせますし、とっさのときにアームレストに手をついて体重を預けてもしっかり支えられる構造にしているため、安心してお使いいただけます。

福祉機器で一番大事なのは“安全に使えること”。ベッドサイド水洗トイレも安全への配慮を考え抜いたものづくりをしています。怪我につながりかねない転倒リスクを最小限にできるのは、施設にとって大きなメリットではないかと考えています。

ベッドサイド水洗トイレのアームレストははね上げ式。ベッド側のアームレストをはね上げ、向かい側のアームレストをしっかり掴み安全に移乗できます。排せつをご本人自身で行うことは、日常生活動作(ADL)の維持・向上にもつながると期待されています

使い方の一例。日中は車いすからのベッドへの移乗がしやすいように離れた場所に置き(左)、夜間は歩行せずに使えるようベッドのそばに移動(図版提供/TOTO)

看護師から「もっとベッドサイド水洗トイレを導入してほしい」という要望が上がる

看護師から「もっとベッドサイド水洗トイレを導入してほしい」という要望が上がる

 高齢者施設への導入事例を教えてください。

市川:

特別養護老人ホーム「万寿の家」(兵庫県神戸市)では、2020年に新築移転するにあたり、すべての居室にベッドサイド水洗トイレ用の給排水管を事前配管してくださいました。事前配管してあると、入居者さまにベッドサイド水洗トイレが必要になったとき、すぐに設置することができます。

高橋:

すべての居室にトイレブースを設置するよりも費用は安く済みます。必要ないときは空間を有効活用できるので、今後事前配管を施す施設は増えていくのではないかと考えています。

「導入してよかった、という声を聞くのは何よりの喜びです」(高橋)「現場の負担を確実に減らせる商品なので、もっと広まってほしい」(市川)

万寿の家でのベッドサイド水洗トイレの設置例(TOTO WEBサイト 事例より)

洗面化粧台の右下のボックスがベッドサイド水洗トイレの接続部(TOTO WEBサイト 事例より)

 病院への導入事例を教えてください。

高橋:

飯田市立病院(長野県飯田市)では、入院病棟を改修する際に、これまでトイレがなかった居室にベッドサイド水洗トイレ用の給排水管を事前配管してくださいました。ベッドサイド水洗トイレの配管は小口径で、所定範囲内であれば排水管の勾配もいらないので後付け工事が簡単です。通常のトイレを設置するのに比べて工事の負荷が小さく工事期間を短縮することができます。実際に飯田市立病院では休業せずに改修することができたと伺いました。

リフォームで事前配管を造設した、飯田市立病院の病室の例(TOTO WEBサイト 事例より)

市川:

汚物処理や夜中のトイレ介助、移動時の転倒などの心配もありましたが、実際にこの商品を使用したことで看護師さんたちに排せつ介助の負担軽減効果を実感いただけたようです。嬉しいことに施設担当者に「もっと入れてください」と要望を上げてくださいました。とても励みになります。

高橋:

現場では「大変なのが普通」になっていたけれど、ベッドサイド水洗トイレを導入して介護負担が軽減できることを体感していただけた事例ですね。そうした声を聞くと、自社商品ながら「いい商品だな」と感じます。

市川:

ベッドサイド水洗トイレにはウォシュレットもついているのでお尻を清潔に保つことができます。そういった点も評価してくださいました。

ベッドサイド水洗トイレは圧力で排せつ物を押し流すので、あまり排水勾配をとれないところにも設置できます

ベッドサイド水洗トイレがもっと浸透すれば、ご本人やご家族のQOL(生活の質)が向上するはず

ベッドサイド水洗トイレがもっと浸透すれば、ご本人やご家族のQOL(生活の質)が向上するはず

 今後、ベッドサイド水洗トイレはどのような方向に進化していくべきだと思いますか?

高橋:

はじめは通常トイレとして設置しておき、生活スタイルの変化に合わせてお好みの場所に移動させるといった使い方ができます。「水洗トイレが移動できる」ということは大きな特徴であり、更に進化が必要だと考えています。ご本人自身で移動できるまでに進化できれば介護負担もより軽減できますし、少しずつ変化していく身体状況、その日の体調等に合わせてよりきめ細かく生活シーンに寄り添うこともできるはずです。長く安心してお使いいただけるように、これからもベッドサイド水洗トイレを磨き続けていきます。

市川:

ベッドサイド水洗トイレはご本人やご家族のQOL(生活の質)を上げる商品です。もっと世の中に浸透して、「いますぐ必要ではないけれど、将来に備えて設置しておこう」という選択が一般的になることを願っています。

 ベッドサイド水洗トイレが展示される、H.C.R.2024 第51回国際福祉機器展&フォーラムでのTOTOブースのコンセプトを教えてください。

市川:

コンセプトは「我が家にずっと暮らしていけるよろこびを」。このコンセプトに沿うさまざまな商品とともに、ベッドサイド水洗トイレの実機もご紹介します。ベッドの横に置く空間を再現し、ベッドからの移乗を試したり、居室に置くイメージをしていただきやすい展示をしています。実際に通水もして、細い配管での排水の様子もご覧いただけます。一般のショールームには展示していない商品なので、是非この機会に商品の進化を、その場でご確認いただけると嬉しいですね。

<Information>
H.C.R.2024 第51回国際福祉機器展&フォーラムに出展決定!

TOTOは2024年10月2日(水)~4日(金)の3日間、東京ビッグサイト東展示ホール(江東区)で開催されるH.C.R.2024 第51回国際福祉機器展&フォーラムに出展いたします。TOTOブースでは「我が家にずっと暮らしていけるよろこびを」を展示コンセプトに、自宅で活用いただけるTOTOならではの福祉機器をご紹介。東2ホール NO.2-15-03にて、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

【出展社プレゼンテーション】

テーマ:排せつ介護の負担軽減! 寝室で使える「水洗トイレ」
日時:2024年10月3日(木)14:30~15:30 / 場所:A会場(東2ホール)
当記事に登場したベッドサイド水洗トイレの開発者の高橋暢孝が、在宅介護だけでなく施設や病院まで、幅広く選ばれる理由とその活用事例をご紹介いたします。

編集後記家庭でも病院でも、介護は、する側、される側双方にさまざまな負担がかかります。だからこそ、少しずつでも、その負担を減らす手立てを模索し実現していけたら、と切に願っています。「ベッドサイド水洗トイレ」の使用は、効果が見えやすい手立てのひとつではないでしょうか。ぜひ会場で実物を見て、開発者の説明をじかに聞いて、採用後のより快適な暮らしのイメージを膨らませてみてください。編集者 介川 亜紀

写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀  2024年9月2日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。

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