喧騒のなかに置かれた懐かしい風景

裏参道公衆トイレ/マーク・ニューソン

2023.4.20

幹線道路の交差点近くで、高速道路の高架下かつ鉄道も近くを走るという喧噪のなかに置かれたシンプルな形状は、日本の伝統的な素材やかたちをモチーフとしている。内部の最先端の機器とは裏腹に、神社仏閣、茶室、城郭、農村などなじみ深い風景を想起させるデザインは、見る人に潜在的な心地よさや安らぎを与える。丸みを帯びたやさしいフォルムは、凹凸のないシームレスな内部デザインへとつながり、明るい色味や照明計画と相俟って落ち着きのある空間性を獲得している。

日本の伝統的な素材やデザインをモチーフに

敷地は首都高速4号新宿線の高架下で、交通量の激しい幹線道路沿い。そんな雑多な環境下、日本の原風景を思い出させるようなデザインで、周囲と対比的な、どこかのどかな雰囲気を醸し出す。銅板で葺かれ、蓑甲(みのこう)と呼ばれる伝統的な曲線を描く屋根、敷地を支える石垣など、日本建築に親和性の高い素材やデザインの建物は、懐かしささえ感じさせる。屋根の銅板は、時間とともに酸化して緑青を葺き耐久性を高めるとともに、次第に周囲の風景になじみ溶け込んでいく。
※環境の影響で、屋根は青緑ではなく灰茶になる場合があります。

凹凸のないシームレスな内部空間

高低差のある敷地の地盤面を嵩上げし、低い側からは階段でアプローチ、高い側からは段差なく車いすでも入れるようになっている。広いエントランスから内部に向かうと、壁沿いの間接照明とダウンライトの光が拡散する明るいブルーグリーンの室内がやさしく出迎える。
衛生面を重視した内部は、凹凸のないシームレスなデザインが特徴で、特に垂直方向には直線がなく、各所がアールで仕上げられている。陽が落ちると、内部のブルーグリーンが外にこぼれだすとともに、外壁と屋根の間に仕込まれた照明によって独特の形状の屋根が浮かび上がって見える。

利用者を出迎える両開き扉のバリアフリートイレ

小便器、大便器すべて、清掃性に優れた壁掛け式で、各ブースの大便器の便座にはウォシュレットを設置している。ペーパー盗難防止鍵付仕様のスペア付紙巻器、ベビーチェアも各ブースすべてに設置。バリアフリートイレは、車いす使用者の便器へのアプローチのしやすさに配慮し、コンパクト・バリアフリートイレパックが採用され、オストメイト・乳幼児連れに配慮してベビーチェア、フィッティングボードも設置し、さらにベビーシートも付加している。また両開きの自動扉は利用者をやさしく出迎え、開閉ボタンの操作により日英二か国語で利用案内の音声が流れるようになっている。

水まわりの詳細(器具・図面)については こちら をご覧ください。

Marc Newson

同世代で最も影響力のあるデザイナーのひとりと評される。幅広い分野で活躍し、クライアントにはLouis Vuitton、Montblanc、Hermes、Nike、Dom Perignon、Jaeger-LeCoultre、Ferrariなどの企業が名を連ねる。Qantas Airwaysのクリエイティブ・ディレクター(2005年~2015年)や、Apple Watchのデザインに関わって以来、Appleのスペシャルプロジェクト担当デザイナーも務める。2019年にジョナサン・アイブとともにクリエイティブ集団LoveFromを設立。
オーストラリアのシドニーで生まれ、1986年にシドニー大学を卒業。Australian Crafts Councilの助成を受け、23歳で初の個展を開催。25歳までに、代表作であるLockheed Loungeを制作。同作品は現存するデザイナーの作品としてオークションで世界最高値を4度記録。 慈善団体(RED)の長期的な支援者として、アイブと共に2013年にデザインオークションを企画し、同団体のために4600万米ドルを集める。
Gagosianに所属する唯一の工業デザイナーであり、Galerie kreoにも所属する。世界中の主要な美術館で回顧展が開催され、これまでのデザイン作品は世界各国にある40以上の機関のパーマネント・コレクションに収蔵されている。

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