パブリックアートを思わせる新タイプのトイレ

広尾東公園トイレ/後智仁

2022.9.26

緑豊かな環境下に置かれたコンクリートの箱は、トイレ出入口側と反対側ではまったく異なる表情を見せる。南面する出入口側は打ち放しのコンクリートとスチールの扉というシンプルな構成である一方、北側は大きなディスプレイを思わせる白い壁が厚いガラスに守られる。壁に見えるのは白い布で覆われた768個のLEDライトで、昼は木漏れ日のように、夜は月明かりや漂う蛍のように79億通りのパターンをランダムに描き出す。

アプローチ方向で変わる二つの顔

坂道の上、北側から近づくとガラスに覆われたパブリックアートのような白い壁が見えてくる。布の下に隠されたLEDライトは、日中はうっすらと緑色に、夜間は白色に発光。ランダムにパターンを描き出すが、79億通りのパターンは、計算上は、二度と同じパターンを見ることはできないという。日中の緑色の光は淡く、天気がいいとガラス面に映る公園の緑と相俟って建物を周囲に溶け込ませる。夜間の白い光は、まさにパブリックアートの様相を呈し、そのほのかな明るさは防犯にも寄与する。

緑のなかに置かれたアートのように

敷地は、東京メトロ・広尾駅とヴィンテージマンションとして名高い広尾ガーデンヒルズを結ぶ通り沿いにある広尾東公園のなか。街路樹のケヤキの高木と公園内の多様な緑に包まれるように、端正なコンクリートの箱が置かれている。高低差のある敷地の中段あたりに置かれた建物には、坂の下(南側)から、中ほどから、坂の上(北側)からと3種類のアプローチが可能。中ほどからはスロープで車いすなどでもアプローチできる。ガラス面以外の3方向の外壁には大きなピクトグラムが掲示され、トイレであることがわかりやすく示されている。

ストレスを感じやすい人を優先する

トイレは、一般的な性別による分け方ではなく、誰でも使えるユニバーサルなブースが二つ並ぶ。一方はオストメイトにも対応、もう一方はベビーシートを備えて子ども連れにやさしい仕様。いずれもバリアフリーで、さまざまな身体状況の人や子ども連れなど、よりトイレでストレスを感じがちな人たちにも使いやすい配慮がなされている。大便器や洗面器、小便器は清掃性に優れた壁掛け式を採用。出入口前には、あえて目隠し壁などは立てず、車いすやベビーカーがより入りやすいことを優先している。

水まわりの詳細(器具・図面)については こちら をご覧ください。

後智仁

クリエイティブディレクター・アートディレクター/WHITE DESIGN代表

1971年東京生まれ。91年武蔵野美術大学短期大学グラフィック科入学、同大学視覚伝達デザイン学科編入。95年博報堂入社。2008年WHITE DESIGN設立 主な仕事に、ユニクロ・サスティナビリティ部門担当クリエイティブディレクター、atama plus株式会社ブランド戦略顧問、大阪経済大学人間科学部客員教授。 ファーストリテイリング・サステネナビリティーレポート、ユニクロ「ドラえもん・サステナモード」、Tシャツ購入でドネーションができる、UT「THE PEACE FOR ALL」。キリン「Tap Marche」など。
近年は、広告やブランディングにとどまらず、ファッション、建築、ディスプレイ、アートと活動の場を広げている。

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