「森のコミチ」で結ばれた5つの小屋

鍋島松濤公園トイレ/隈 研吾

2021.8.24

京王井の頭線神泉駅から徒歩圏内、近隣に松濤美術館やギャラリーが建ち並ぶ閑静な住宅街に囲まれた、緑豊かな鍋島松濤公園トイレ。ランダムな角度で設置された、耳付き仕上げをした吉野杉板のルーバーに覆われた5つの小屋は、「森のコミチ」で結ばれている。男女別に分けるのではなく、多様なニーズ(子育て、身だしなみ配慮、車いす等)にあわせて、設置器具や内装が異なる仕様。多様性の時代を象徴したトイレを表している。

集落のような「トイレの村」

元茶園でもあった緑豊かな公園に現れた集落のような分棟型のトイレは、ウッドチップとコンクリートを混ぜて仕上げたコミチでつながり、通り抜けることもでき、公園内の森の一部のように周囲の風景に溶け込んでいる。夜は建物周囲からの照明と公園内の電灯や街路灯の明かりもあわさり、従来の公衆トイレのイメージを感じさせず、自然の中のパブリックアートとしても映える。それぞれの建物の入口の庇(ひさし)、周囲の植え込みや小道からの明かりがトイレを優しく灯し、夜間にも安心して利用できるよう配慮されている。

さまざまな自然木の表情を楽しめる内部空間

すべてのトイレの内装には、余材や間伐材を有効活用している。例えばだれでもトイレは、薄くカットされた丸太、一般トイレには縦長にカットされた木がディスプレイされ、個室ごとにさまざまな自然木の表情を楽しむことができる。また、鍋島松濤公園の豊かな緑をイメージし、トイレの天井はさまざまなグリーンの色彩を配している。各ドアは、安全を配慮し、住宅のドアのようにドアスコープがついており、夜間の空満表示の工夫として、明かり窓も設置されている。

多様なニーズに合わせたプラン

さまざまな利用者に配慮しただれでもトイレは、ベビーチェア・ベビーシートや高齢者・妊産婦優先のサインを表示。小便器ブースは、床面の清掃性のよい壁掛式小便器を採用し、一室は高齢者使用に小便器前に手すりを設置。一般トイレ(身だしなみ配慮トイレ)には、おむつ替えや着替えができるようフィッティングボードを配備。ベッセル式洗面器には自動水栓をセットし、衛生面も配慮している。幼児用トイレは、ブース内に幼児用の小便器、大便器のほか、子どもの手が届く高さに手洗器を配している。THE TOKYO TOILETプロジェクト共通の機能を示すピクトグラムを入口に表示し、個室ごとの設備をわかりやすく案内してくれる。

水まわりの詳細(器具・図面)については こちら をご覧ください。

隈 研吾

1954年生。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。国内外で多数のプロジェクトが進行中。国立競技場の設計にも携わった。主な著書に『点・線・面』(岩波書店)、『ひとの住処』(新潮新書)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、他多数。

Photo (c) J.C. Carbonne

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