鎮守の森から生まれた「3本のキノコ」

代々木八幡公衆トイレ/伊東豊雄

2021.9.27

800年以上の歴史をもつ代々木八幡宮の森に寄り添う敷地環境下、その大地から生まれたような建築をコンセプトにキノコを連想させる形状となった。分散して配置された三つの棟は、敷地内に行き止まりのない回遊性と視線の抜けを生み出し、開放感とともに防犯性を高めている。交通量の激しい山手通り沿いで、穏やかなアースカラーのモザイクタイルをまとった小さなトイレは、背後の森の緑に溶け込み、かつ誰もが安心して利用できるさりげない落ち着いたデザインでまとめられている。

ドーム状の天井面から優しい光が周囲にこぼれる

3つの棟は、敷地の傾斜に合わせて1棟ずつ床の高さを変えているが、建物高さ自体は裏の斜面から続くように奥に位置するだれでもトイレのみ少し高くしている。キノコの傘をイメージさせる屋根は内部でもドーム状の天井となっており、夜、内部照明を反射させて内部だけでなくハイサイドライト越しに建物周囲にも明るさを届ける。周囲まで明るくすることで安全性を高めるとともに、行燈のような優しい光に照らし出される建物が周辺のランドマークにもなる。

アースカラーの特注タイルをグラデーションで

3つの棟は、道路側の右に男性トイレ、左に女性トイレ、敷地奥にだれでもトイレという配置。分棟とすることで行き止まりがなくなり、また各棟を円形平面としているため隙間から見るとどこからでも広がりのある景色となる。各棟の外壁は、土を想起させる濃いブラウンからグラデーションで上に行くほど明るい色になる、セルフクリーニング機能を施した特注のモザイクタイル。足元はスカート状に立ち上がり、壁面では足裏が届く20cm程度まで床と同じく滑り止め機能付きとなっている。

使いやすさや安全性とともにメンテナンスにも配慮

従来、だれでもトイレに集約されがちだった高齢者や子供連れ利用者への配慮も、男性トイレ、女性トイレの個室の広さを確保することで分散させ、多様な利用者が使いやすいように計画されている。男性小便器ブースは、利用のしやすさに配慮して半屋外空間になっているが、男性トイレの個室と山側の壁で挟み込むような配置とすることで道路側からの視線をカット。内部は使いやすさや安全性などとともにメンテナンスにも対応するため、落書きガード塗装の壁面や目地のない着色表面強化剤磨き仕上げの床、壁掛け式の機器などが採用されている。

水まわりの詳細(器具・図面)については こちら をご覧ください。

伊東豊雄

建築家。1941年生まれ。
主な作品に、「せんだいメディアテーク」、「多摩美術大学図書館(八王子)」、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」、「台中国家歌劇院」(台湾)など。
日本建築学会賞、ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル、プリツカー建築賞など受賞。
2011年に私塾「伊東建築塾」を設立。これからのまちや建築のあり方を考える場として様々な活動を行っている。

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