ニュースリリース
2022年10月13日
調査・受賞・その他
〜衛生陶器だけでなく、シャワー・浴室などへの適用可能性が高評価〜
TOTO株式会社(本社:福岡県北九州市、社長:清田 徳明)は、スーパーコンピュータ「富岳」を利用して実施した研究「微細気泡および飛沫を含む気液二相流シミュレーションの住宅設備機器適用」で、「HPCI※1利用研究課題優秀成果賞」を受賞しました。
本研究は、HPCIシステム利用研究課題(課題番号:hp210013)を通して、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」の計算資源の提供を受け、2021年3月から2022年3月にかけて実施したものです。
本研究は、2022年10月27日(木)〜28日(金)にオンライン開催される「第9回『富岳』を中核とするHPCIシステム利用研究課題 成果報告会」[主催:一般社団法人高度情報科学技術研究機構(RIST)]で、成果発表および表彰・講評が行なわれます。
TOTOは、水まわり商品の開発に活用するため、水と空気が混在する(気液二相流)流体シミュレーションソフトウェアの独自開発に2000年より取り組みはじめ、2010年代半ばから衛生陶器(便器)の商品開発に全面的に活用しています。
今回受賞した研究は、衛生陶器以外の水まわり商品の開発に高精度流体シミュレーションを適用させるためのものです。TOTOの独自ソフトを「富岳」に最適化させる等により、衛生陶器を大きく上回る計算量が必要なシャワーなどの水栓金具からの吐水や、浴室床の水はけのシミュレーションが、現実的な計算時間で実施できることが実証できました。
本研究を具体的な商品開発に活用するため、TOTOは2022年度も「富岳」を利用し(課題番号:hp220046)、計算精度の向上・計算時間の短縮・より広範囲への適応などの課題克服をめざしています。
環境への配慮と、きれいと快適を両立した水まわり商品「サスティナブルプロダクツ」を世界中のお客様へ提供するため、TOTOは今後も解析技術をより一層向上させてまいります。
※1:「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ」の略称。国内の大学や研究機関のスーパーコンピュータやストレージを高速ネットワークで結んだ共用計算環境基盤。HPCIの計算資源として中核をなしているのが、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」。
TOTO独自開発ソフトを用いて「富岳」で計算した
オーバーヘッドシャワーの人体への吐水の様子と
表面の力積分布のシミュレーション結果
「優秀成果賞」について
HPCIシステムを利用して前年度に実施・完了した産業利用課題・一般課題・若手人材育成課題の中から、成果報告会プログラム委員会により選出された特に優秀な成果が認められた課題に与えられる賞。2022年度に受賞した7課題のうち、民間企業によるものはTOTO1社のみ。
「成果報告会」概要
開催名 | 第9回「富岳」を中核とするHPCIシステム利用研究課題 成果報告会 |
主催 | 一般財団法人高度情報科学技術研究機構(RIST) |
開催日 | 2022年10月27日(木)〜28日(金) |
開催形式 | オンライン開催(Zoom Meetings/Slackを利用) |
参加費 | 無料 ※事前申し込みが必要 [締切:10月20日(木)] |
プログラム(予定) | 10月27日(木) 午後 ・第5回HPCIコンソーシアムシンポジウム 終日 ・ポスター展示(Slack) 10月28日(金) 10:00~18:00 ・特別講演 ・優秀成果賞課題による成果発表(口頭発表) ・ブレークアウトセッション(ポスターコアタイム) ・優秀成果賞の表彰と講評 終日 ・ポスター展示(Slack) |
今回「優秀成果賞」を受賞したTOTOの研究は、衛生陶器以外の水まわり商品の開発に高精度流体シミュレーションを適用させる目的で実施したものです。
①プログラムの改良による計算時間のさらなる短縮
TOTOは、2020年度の「『富岳』試行的利用課題(利用準備課題)」(課題番号:hp200243)より「富岳」を利用しています。2020年度の研究で、GPU※2で構築された計算環境に合わせて開発してきたTOTOの独自開発ソフトを、CPU※3で構築された「富岳」に適応させることができ、有効性を確認しました。
流体シミュレーションには膨大な計算が必要なため、計算時間の短縮は重要な課題です。2020年度はソフトのチューニングにより、研究開始時から約3割の時間短縮ができました。今回の2021年度の研究では、「富岳」の特性を見極め、プログラム改良を加えたことにより、さらに4割強の計算時間の短縮を実現しました。
※2:GPU(Graphics Processing Unit)は、もともとは画像処理に特化したプロセッサ(計算処理装置)だが、処理を行うコアの数がCPUより多く、大量の計算を行うことに向いているため、GPUベースに構築されたスーパーコンピュータも多い。代表例は東京工業大学の「TSUBAME」。
※3:CPU(Central Processing Unit)は、一般に“コンピュータの頭脳”とも呼ばれるプロセッサ。全てのコンピュータに不可欠な存在で、複雑な処理に向いている。「富岳」には、富士通が開発した「A64FX」というCPUが15万8976個使用されている。
②シャワー製品性能の事前評価シミュレーション技術の研究
シャワーのノズルは穴の直径が1ミリ以下のものも多く、その穴から出るシャワー水流を精度よくシミュレーションするためには、0.2ミリ以下のメッシュ※4で計算する必要があります。また、オーバーヘッドシャワーは直径300ミリ程度の大きさの商品が多く、計算する範囲も広くなります。
細かく、広い範囲のシミュレーションは、民間企業が通常使える計算環境では計算パワーが足りず、実行しても商品開発において非現実的な時間が必要となるため、事実上不可能でした。
今回、「富岳」の計算環境を利用することで、約1億5000万メッシュ、約30万タイムステップ※5の気液二相流シミュレーションが、1週間以内程度の実用的な時間で実施することができました。その結果、オーバーヘッドシャワーの内部に水が流入し、ノズルからシャワー水流が出て、止水後に残った水がポタポタと落下する様子まで再現できました。
※4:流体解析や構造解析を行うため、コンピュータで計算できるように解析する対象を小さな要素として分割した任意の小空間のこと。メッシュを細かくするほどに精度は上がるが、計算時間はメッシュ数に応じて増大する。
※5:流体解析や構造解析を行う際の、時間の刻み幅のこと。
オーバーヘッドシャワーの計算モデルが確立したことにより、ノズルから吐水されて空間に放たれたシャワー水流の挙動、さらにシャワー水流が人体に当たった際の力のかかり具合(力積)まで範囲を広げた大規模な計算を「富岳」で実施しました。
その結果、オーバーヘッドシャワーの浴び心地や、着水する範囲をシミュレーションで評価できることを実証することができました。
③浴室床表面の薄膜流れシミュレーション技術の研究
2001年よりTOTOのユニットバスルームに搭載している「カラリ床」は、独自の溝パターンにより水の表面張力を壊しながら溝に引き込み確実に排水することで、“翌朝には靴下で入れるほどカラリと乾く”として高い評価を頂いています。
今回、「富岳」を用いることにより、1ミリ以下レベルの溝形状が数十センチ範囲でレイアウトされた床表面における流体シミュレーション技術の確立を試みました。結果、床表面の薄い水膜が最初は床の傾斜に従って流れ、残った水は溝へ引き込まれることで流れていく様子を再現することができました。
今後は、実際のカラリ床との比較等でシミュレーション結果の妥当性の検証を進め、より効果的な溝形状やレイアウトなどの開発に活用できる解析技術へと高めていきます。
ニュースリリース全文は、以下よりダウンロードしてご覧ください。
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