TOTOグループの存在意義は、企業理念の実践そのもの
私が社長に就任して2年が経過しました。就任した当時は、新型コロナウイルス感染症拡大というこれまでに経験したことがない未曽有の状況下でした。翌月の業績さえ見通せず、当然ながら年度計画も立案できない状況の中でのスタートでしたが、その時私が考えていたのは、「短期的に売上や利益が減ったとしても、社員とその家族が安全で元気でいれば、業績は必ず回復することができる」ということでした。中長期で成長していくためにはとにかく「人」が財産であり、グループ全社員の安全を最優先で考えていました。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、世の中の価値観が大きく変わりました。
その中で改めて私たちがこの先、社会のために、お客様のために、どのような存在にならなければいけないのか、TOTOグループの存在意義を自身に問いかけ、根本から考えることができた大きな1年目でした。
結果として見出した答えはシンプルでした。TOTOグループの存在意義は企業理念を実践することです。1年目は苦しいながらもグループ社員全員がお客様や仲間のことを考え、いろいろな形で助け合いながら動いてくれました。トラブルが起こったとき、トップからの指示がなくても社員全員が一枚岩で動ける、つまりTOTOグループは企業理念がしっかり共有され、自ら動ける組織なのだということを実感しました。現場で、現実に起こっているさまざまな課題に対して仲間と連携し、最適な行動をとる現場力はコロナ禍でさらに強くなりました。
現代は、想定外のことが当たり前のように起こる時代です。いつ何が起こったとしても全員で力を合わせて対応していく力がTOTOグループにはあると確信しています。
代々の社長に受け継がれてきた「先人の言葉」
TOTOグループには、初代社長から二代目社長に送られた書簡「先人の言葉」があります。「どうしても親切が第一、良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体で、その実体を握り得れば、結果として報酬という影が映る」という考え方です。この「先人の言葉」は、代々の社長に受け継がれ、大切にされてきました。この言葉は、グループ社員全員が知っています。私の社長としての言動が、書簡に基づいているのかをグループ社員全員から常に見られているという意識を持って自らを顧みています。
「先人の言葉」に基づき、将来にわたって企業活動の基調となるものとして1962年に「社是」が制定されました。そして今の時代にふさわしく、さらにTOTOグループで共有できるように「企業理念」「企業行動憲章」を制定し、2004年に「TOTOグループ経営に関する理念体系」が整備されました。
理念教育にはさまざまな方法があると思いますが、私たちの先輩たちは、常にそれに基づいた行動をとり、背中を見せて教えてくれました。もちろん研修などといった理念教育も大事ですが、上司や先輩、仲間たちと行動をともにし、日々の事業活動の中で体感することで、社員一人ひとりに浸透します。理念を知っているという概念ではなく、そういう行動をとることが当たり前であるという企業風土になっているのです。
過去最高業績となった2021年度
就任2年目となった2021年度も順風満帆ではありませんでした。新型コロナウイルス感染症の影響は継続しており、多くの原材料の価格が上昇し、私たちのさまざまなコストが膨らみました。また、コロナ禍での供給活動の制約、さらに自然災害の多発も相まった想定外の事態に、サプライチェーンの一部が途切れ、部品調達ができなかったことで、商品の受注を制限せざるを得ない状況にも陥りました。
しかしながら、マイナス要因だけではありませんでした。コロナ禍でお客様の意識に大きな変化が表れました。それは、TOTOグループが磨き続けてきた衛生性や清潔性などがますます重要視されるようになったことです。例えば、私たちが節水を目的として開発した自動水栓が「非接触」という新たな価値を生み、それが追い風の一つとなりました。また、リモートワークなどが進み、自宅で過ごす時間が長くなったことで、家での生活をより快適にするためにリフォームしたいというような方々が増えたことも追い風になりました。
2021年度は、追い風と逆風の中、グループ全社員の頑張りにより過去最高業績となりました。もちろん充実感はあります。しかしその充実感よりも、私たちはメーカーとして、供給不足によりお客様に納期面でご迷惑をおかけしたという課題感の方がとても大きいと感じています。2022年度もさまざまな環境変化が起こると思います。さらなる成長のためには、その変化にしっかり対応しながら、中長期の課題を一つずつ解決していかねばなりません。
スピード感を上げていくために必要な「予見」と「準備」
3年目に向けて最も重要なのは「スピード」です。2022年度に入っても、コロナ禍に加え国際社会の分断の深刻化、気候変動による地球温暖化など、さまざまな社会環境の変化が起こってきます。
私たちが目指すのは、2030年に向けてしっかりと企業理念を体現していくこと、つまりきれいで快適・健康な暮らしの実現、社会・地球環境への貢献ができる商品を提供していくことです。そこに近づいていきたいのですが、一方で社会環境の変化という現実があります。この2年間で変化への対応力は向上してきたと実感していますが、これからは、もっと変化に対応するスピードを上げて、理念体現のために取り組む領域を増やしていかなければならないと思っています。
そのために、少しだけでも先のことを「予見」し「準備」することが重要だと考えています。こういうことが起こり得るであろうと「予見」し、実際に起こったら、どのように動かないといけないのかと考え、「準備」しておくだけで、スピード感が全く変わってきます。これは会社全体の舵取りをする私の仕事でもありますし、併せて各々のリージョンや部門、現場の中で個人個人でも実践していくことが大事だと思っています。会社全体の力量というのは個々の力の総量で成り立っていますので、個々の能力を磨いていくというのは非常に重要です。個人個人が少し先のことを考えて、もう一つ、もう一歩社会のことを、お客様のことを思って行動するだけで全く変わってくるのです。
絶対に変えてはいけないもの「どうしても親切が第一」
初代社長から二代目社長に送られた書簡「先人の言葉」は、「どうしても親切が第一」という言葉から始まります。「親切である」「誠実である」というのは私たちの普遍的な価値観です。TOTOという会社を想起していただいたときに、「商品の品質が良い」「技術が優れている」といったご評価はもちろん嬉しいですが、TOTOは「親切な会社だ」「誠実な会社だ」「お客様思いの会社だ」、そういったご評価をいただけることが何より嬉しいです。また「先人の言葉」では、「利益は影」と言い切っています。新型コロナウイルス感染症拡大が始まったころ、社員とそのご家族が元気であれば、利益はいずれ回復できると思ったことも書簡の精神に基づくものです。TOTOらしさとは親切で誠実で、お客様思いであること、その前提で事業を行えば、さまざまな課題も解決していけるはずです。社会課題に誠実に向き合う、環境課題に対して丁寧に取り組むことを続けていれば必ず利益はついてきます。ここは絶対に変えてはいけないことです。
長期を見据えた「新共通価値創造戦略 TOTO WILL 2030」
「グループ共有理念」は、私たちの「心」の部分として、未来永劫、将来にわたって引き継いでいくもの、持ち続けていかなければならないものです。一方でさまざまな変化に対して、「体」の動かし方は変えていかなければなりません。これが中期経営計画などの戦略になりますが、これまでは3年~5年といったスパンで、かなり緻密に組み立てて計画を作ってきました。しかしそれが根底から覆される事象が次々と起こるようになりました。そうなると緻密な計画というものはあまり意味がありません。短期ではなく長期を見据えた目標を示し、そこからバックキャストすることで見えてくる課題を足元で解決していくという考え方に変えていきます。そのため、2021年4月に「新共通価値創造戦略 TOTO WILL 2030」(以下、WILL2030)を策定しました。
TOTOグループは、2050年カーボンニュートラルで持続可能な社会の実現を、また、すべての人に快適で健康な暮らしをご提供することを目指し、社会課題、環境課題を解決しながら経済的成長を実現していきます。そのために、企業理念を体現していくための取り組むべき重要課題であるマテリアリティ「きれいと快適」「環境」「人とのつながり」を極めていきます。そして、この活動を通じ、SDGsにも貢献していきます。
自分が苦しいとき、壁にぶつかったときには仲間が助けてくれます。なぜ助けるのか、それはお客様にすべてが向けられ、全員が親切に誠実に仕事をしているからです。部門は違っても、TOTOグループの仲間はお客様に向かってつながっています。ですから、お互いに助け合うのは当たり前になります。「先人の言葉」の中にある「良品の供給」「需要家の満足」は私たちの中に当たり前にしみ込んでいるのです。
「取り組むべき課題」を「取り組みたい課題」に変えていく
マテリアリティである「きれいと快適」「環境」、そして「人とのつながり」は、TOTOグループ全員が取り組むべき課題です。これを「取り組むべき課題」から、皆が「取り組みたい課題」に変えていくのが私の使命だと思っています。社員全員が「取り組みたい課題」と思うようになれば、間違いなく一人ひとりのやる気やエネルギー量が大きくなっていきます。そうなると、私たちTOTOグループ約3万7,000人のエネルギー量は非常に大きくなり、社会課題の解決に向けたスピードも一層上がっていくのです。
人間の欲求(行動の動機)にとって、認められることはとても大切です。褒められたり、感謝されたり、高い評価を受けたりすることで、満たされるのです。お客様から感謝された、仲間から褒められた、社会から高い評価を受けた、それらは次の行動のエネルギーになっていきます。私たちは日常生活に関わりの深いメーカーですから、そういう場面に接する機会は多いはずです。自分が一生懸命やったことが認められることが次の「取り組みたい」を生んでくれるのです。「取り組むべき」を「取り組みたい」に変えていきたいと思っています。
大切にしている社員との対話
個の能力を磨くという意味では、2020年12月からオンラインによる社員との対話を始めました。以降、49回289名の社員とさまざまなテーマについて対話を行っています(2022年6月末時点)。その中で私が社員によく言っていることは、頭の中で考えているだけで行動しなければ、何の意味もない、動かないといけないということです。お客様のこと、社会のことを思って行動した答えは一つである必要はありません。お客様も多様化されており、答えがさまざまであっても良いのです。結果として成功することもあれば、失敗することもありますが、成功も失敗も経験になって、次の成長につながっていきます。だから恐れずに行動してほしいと伝えています。社員が動き出すきっかけをつくることが私の責務だと思っています。
対話を積み重ねてきた結果、私が要求するよりも先に動けるようになった事例もいくつか出てきたように感じています。1年目の2020年度の動きと2021年度の動きでは間違いなく2021年度の方が早くなっています。一人ひとりが社会やお客様のことを考え、具体的に行動することが当たり前である、といった集団をつくっていきたいと思います。
デジタル化は、さまざまな可能性を秘めている
TOTOグループは、お客様に寄り添い、比較的ハード中心の技術で豊かで快適な生活文化を創造してきました。それがデジタル化された世界につながってくると、スマートフォンで外から操作して、自動でお風呂掃除をし、栓を閉めて、帰った時間にはバスタブに温かいお湯が溜まっているということが可能になりました。私たちが衛生性や快適性を磨き込んできた商品とデジタル化を組み合わせていけば、時間や場所の制約なしに、さまざまなことが可能となり、新しい価値が拡がっていきます。私たちはこれまで「お客様の新たな価値」をご提供し、生活文化を創ってきたという自負があります。デジタルを活用することで、益々価値を拡げていきたいと考えています。
事業プロセスも同様で、工場のスマートファクトリー化を進めています。開発の領域であれば、さまざまなシミュレーション技術により、水を流体解析し、設計に反映していくことで、試作の回数などが大幅に削減でき、圧倒的に開発スピードも、開発効率も上がってきます。併せてその3Dデータを製造現場に移管すれば、間違いも起こりにくくなります。また現場の中には、蓄積された多数のデータがあります。AIを使って、そのデータを有効活用し、分析していけば、良品の条件を確立しやすくなります。また、ロボットを活用することで、人の作業がラクになります。こういった形で効率を上げていきたいと思います。
デジタル化を進める上で重要なのは、その担い手です。まずは、全社員のITやDX(デジタルトランスフォーメーション)のリテラシーを上げていきます。リテラシーを上げて、各種のツールを使いこなすだけでも業務スピードはかなり上がっていきます。また、データを使いこなせる専門人財をもっと増やしていきます。製造、販売、開発等さまざまな現場で保有するデータをより正確に早く集めて分析し、最短の方法で、ものづくりや販売・開発に反映させるといった取り組みを一層強化していきます。
「守り」と「攻め」を意識したガバナンスの強化
「変えていく」という意味では、ガバナンスの強化の一環として、取締役会の「監査・監督機能の強化」「業務執行の迅速化かつ効率化」を目的に、今回監査等委員会設置会社への移行を行いました。ガバナンスの役割は、最終的には企業価値を最大化していくことにあると思います。「守り」の部分をもっと固める一方、「攻め」の部分もさらに強化していく必要があります。そういった意味で、社外取締役の方々には「守り」はもちろんのこと、リスクテイクの部分においても執行部門の後押しをしていただきたいと思っています。
豊富な経験を有されている社外取締役の皆様からさまざまなご意見を頂戴し、経営に反映していきます。
感謝の意を表し、ステークホルダーの皆様とともに
価値を向上していく
私たちの事業活動は、ステークホルダーの皆様に支えられ、協業しながら成り立っています。まず、私たち自身が誠実に向き合っていかなければならないということが原点です。関係性をより良くしていくためには、各ステークホルダーの皆様の価値を向上させていかなければなりません。それ無しには、ステークホルダーの皆様との関係性も進化していきません。
お客様へは引き続き豊かで快適な生活文化のご提供を通じ、一層ご満足いただけることを目指します。株主の皆様には、配当などしっかり還元しつつ、より一層対話の機会を増やすことや、財務情報だけではなく非財務情報もご提供しながら、より深い対話の上、理解を深めていただき、信頼関係を高めていきます。お取引先様に対しては、適正なお取引はもちろんのこと、より強固なパートナーシップを構築し、新たな連携なども進め、共存共栄していきたいと思います。また、私たちが事業活動を安心してできているのは、地域社会の方々のご理解あってのことであり、より良い関係を築いていくために、さまざまな取り組みを各地域で行っていきます。
そして何より社員です。TOTOグループの持続的成長にとって「人」は財産です。失敗を恐れずに行動できる組織をつくりながら、全世代が活躍できる環境をしっかりとつくっていきます。全員が安心してチャレンジでき、イキイキと働ける会社を目指します。
TOTOグループの企業価値をいかに向上させていけるのかを意識しながら仕組みを整え、活動の深みを増していきたいと思っています。
すべてのステークホルダーの皆様に感謝をし、ともに価値を向上させ、より良い関係を進化させていくことが、私たちの使命です。
社会のために、お客様のために、全社員が心を一つにして、明るい未来を切り拓いていきます。
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