当然、トイレにおいてもUDは重要な課題となった。北海道空港ではトイレの実物大模型をつくり、実際にさまざまな身体状況の人や関係者による検証を重ね、改善すべき点を一つひとつ見直して現在の形にこぎつけた。検証によって、壁の色と便器の色が近いと識別しにくかったり、鍵の形状によって手や指の力が弱い人にはドアの開閉がしづらいなど、健常者が見過ごしがちな問題点がいくつも発見できたと平川さんは振り返る。
「空港のトイレは子どもからお年寄りまで、さまざまな人が使いますし、大きな手荷物を持った方も多い。それだけに、トイレの印象が空港の評価を左右すると言っても過言ではありません」と語るのは、設計にあたった㈱日建設計の赤司博之さん。さまざまな人の意見を聞くことは大切だが、「特定の人の使い勝手を重視するあまり、ほかの人の使い勝手が悪くなっては困るので、バランスを保つことを心がけました」と赤司さんは言う。
そういえば、日建設計が以前に設計したトイレも、UDの考え方を取り入れた最先端のトイレとして高い評価を受けたが、赤司さんによれば、「それでもオープンからしばらくして、小型の車いすが入れる一般トイレブースの奥行きが『あと10㎝あればもっとよかったのに』という声が上がったんです」とのこと。ドアの開閉時にともすれば車いすがぶつかることがあり、緊急の際を考えるともう少し余裕がほしかったというのが反省点だったと言う。
その教訓が生かされた今回のトイレは、まず多機能トイレが幅2.7m×奥行き3mで、国内の国際線旅客ターミナルビルでは最大。電動車いすが余裕で回転できる。一方、一般トイレのブースも幅1.2m×奥行き2mで、これまでのビルでは入れなかった小型手動車いすや、旅行客がスーツケースごと入っても余裕の大きさだ。