ところが、翌日の早朝は晴れていたのに、朝食前からポツポツと雨が降り出した。たとえ晴れていても、雨上がりで道がぬかるんでいると、車が立ち往生する危険があるので、クレーン車は出せないと業者が渋っていると聞いたが、これでは無理かもしれない。
それはともかく、朝食前の貴重な時間に藤森さんをつかまえておかないと、現場ではとても話を聞く余裕がないので、茶室について少し語ってもらうことにした。
もともとお茶を飲むのは好きだが、もちろん流派やしきたりにはまったく興味がなかったと言う藤森さん。茶室に関心が湧いたのは、縁あってほぼ同時につくることになった「一夜亭」(03)と「矩庵」(03)以来だという。
「まず、スケールが特殊で、そこがおもしろいことに気づいた。今まで茶室をつくってきた人はインテリアのことだけ考えていて、外から見るというのはありえなかったと思うけど、僕がつくった茶室は窓を大きく取ったから、外から建築と人を一緒に撮影できたんだよ。そしたら、人が大きくてなんともコミカルで、まるで大の大人がお遊戯室で大まじめに儀礼をやってるみたいに見えて、大笑いした」
狭さを感じさせない工夫を学び、変化ある充実した空間をつくるためには、まだまだ考えることがあると感じたという。
もうひとつ、藤森さんが茶室において注目したのは、「火」がある点。利休がたった1.8m四方のスペースの畳の隅を切ってまで炉を設けたのはなぜなのか。「縄文住居以来、火のまわりに生活の場があったわけで、そこには住まいの原形がある。つまり、利休は茶室に建築の基本単位を求めていたんじゃないかと気づいた。火を入れなきゃ、人間のための空間にはならないんだよ」と藤森さんは語る。
原広司さんが昔、「ピラミッドを見ると圧倒されるが、日本には茶室があると思うと踏みとどまれる。最後にうっちゃりをかけてやる、こっちは1坪だぞ、と思うんだ」と言っていたそうだ。たった2畳でつくれる神聖なる空間、茶室。狭さを心地よさに変え、数時間を気持ちよく過ごせる空間づくりを、これからも藤森さんは目指していくのだろう。