この日、成田空港に集合したのは、藤森さん、この茶室プロジェクトのコーディネーター役を務めるアジアン・カルチュラル・カウンシル(Asian Cultural Council:ACC )日本代表でアメリカ人のジョージ・コーチさん、東大の藤森研究室の卒業生で今回通訳を引き受けてくれた台湾人の白佐立(ハク・サ・リツ)さんと、写真家・ライター・編集者の取材スタッフの計6名。
ACCとはアメリカとアジア諸国の文化交流を支援する財団。ニューヨークを本拠に、東京、香港、台湾に事務局を構え、個人や企業からの寄付をおもな財源として、これまで数多くのアーティストの活動を支援してきた。
今回のプロジェクトはACCが全面バックアップしているわけではないが、ACC台湾代表でキューレーターとして活躍中の張元茜(チャン・イン・チェン)さん(通称リタさん)と、コーチさんのふたりがパイプ役となって実現にこぎつけたため、できる限り協力しているようだ。ACCの主要メンバーにはお茶好きな人が多く、ふたり以外にもこのプロジェクトになんらかの形でかかわっている人が複数いるという。
飛行機は雨季を迎えた台湾の厚い雲を突き抜け、昼すぎに台北に降り立った。気温はさほど高くはなく、雨も降っていない。空港から車で約1時間、現場近くにある民宿に向かう車中、さっそく藤森さんに話を聞いた。
現地の湖と、竹の茶室が建つ湖岸の一部の敷地を所有するのは、范(ファン)さんという客家(*)の一家。仲間意識が強い客家は集まって住む傾向にあり、范さん一族も客家が多く住む北中部、新竹縣(シン・チュウ・シン)の一角に住んでいる。台湾の日本統治時代に財をなし、地元の地主となった一族ゆえに、総じて親日家らしい。
敷地は一族が住む一帯からさらに奥まった山中にあり、湖は川を堰き止めてつくった人工の貯水池。警察の手が入りにくい立地から、かつては賭博場と売春宿があっただけという秘境。現在土地を所有しているのは歯科医を営む范揚橋(ファン・ヤン・チャウ)さんだが、もとは范さんの父上が地元の乱開発を恐れて購入したとのこと。