「酔拳」のようなデザイナーズホテル 「ラマダ・プラザ・バーゼル」 ホームページへ

 当然だが、ホテルのゲストルームは必ずしもコンテンポラリー・モダンがいいとはいえない。ベッドで休む前のリラックスしたい室内は、やや保守的で伝統的でオーディナリーなデザインのほうが気が休まることも多いのだ。実測して「なるほど」とうなるようなものは「パッと見」派手なものでないことも多い。そしてデザイナーは驚くようなデザインをすることもある。
  スイスの、ドイツ、フランス国境にきわめて近い都市、バーゼル。ライン川のほとりにあり、空港や各国の鉄道駅も近い。国を越える環境問題のバーゼル条約や時計見本市で有名だが、最近現代建築がたくさんできているので、若い建築家や学生がこぞって建築行脚に訪れる街としてよく知られている。
  新しい建築ではヘルツォーク&ド・ムーロン(*1)のカトゥーン・ミュージアム(1996)とかシャウラガー・ミュージアム(2003)やシグナル・ボックス(95)。マリオ・ボッタ(*2)のタンゲリー・ミュージアム(96)やUBS銀行(95)。レンゾ・ピアノ(*3)のバイエラー財団ミュージアム(97)など。ちなみにピーター・ズントー(*4)もここの出身。
  その街中で、30階建てガラス張りのメッセ・タワー(03)にこのホテルがある。設計はモルガー&デゲロ・アンド・マルケス事務所(*5)。低層部はものすごいキャンティレバーで突き出し、1000㎡の大会議室、小さい会議室、レストランなどがそこに入っている一大コンベンション・センター。
  冬の寒さ対策か、ホテルのエントランスは回転ドアでたいへん小さい。吹き抜けたロビーは間接照明を使っていてなかなかきれい。
  224室のハイスタンダードルームといっているが、そのツインルームに入って点検するといろいろある。
  まず、床までの全面開口の大胆なガラス・カーテンウオール。二重でガラスが拭けるように内側ガラスは開ける。もちろんブラインドは中。
  ふたつのベッドにも仕掛け。くっつけてハリウッド型、よいしょと拡げて離すこともできる(これはときどきお目にかかる)。しかし、身体の大きさを考えるとW900はせまいのではないか。ヘッドボードを兼ねた大きな壁はゼブラウッド(*6)。
  何より感心したのはバスルームの床である。1枚ガラスの光床! ちょっとエッチだと思ったが、便器の腰壁とカウンター以外はほとんどガラスかミラーで照明はすべて内照式。こうすると目地が少なく、清潔で清掃にも便利。淡いグリーンのフロストガラスが下からの光を受けてじつに美しい。
  しかし待てよ、照明4灯の交換はどうするのだろうか、また、水があふれると漏電しないものか、長寿命のLEDでも何かあったらガラス床を壊すしかないのではないかなどと考えてしまう。便器は壁取り付け。洗面カウンターは壁から離れ、奥行きは小さい。水栓など金物は壁付き、ソープは洗面もバスも固定の金属容器入りと割り切っている。ドアもアクリルの引き戸と迷いがない。すべて理にかなっている……といっても光床とはよく踏み切ったものだ。効果とメンテを比べて決断をした発注者に脱帽。
  その日はル・コルビュジエのロンシャンの教会(55)や現代建築をいくつか見た後だったので、実測していても知恵熱が出そうだった。
  さて田舎臭いレストランや地ワインでも探して歩くとするか。

*1
Herzog & de Meuron : ともに1950年生まれのバーゼル出身の建築家ユニット。青山のプラダ・ブティック(03)、北京の国際体育館「鳥の巣」(07)など。
*2
Mario Botta :(1943~)スイス出身の建築家。サンフランシスコ近代美術館(95)、聖ジョバンニ教会(98)など。
*3
Renzo Piano :(1943~)イタリア生まれの建築家。ポンピドゥーセンター(リチャード・ロジャースと共同/77)、関西国際空港旅客ターミナル(94)など。
*4
Peter Zumthor :(1943~)ヴァルスのテルメ(96)、ブルーダー・クラウス野外礼拝堂(07)など。
*5
メッセ・タワーはこの計画のために組まれたモルガー&デゲロ・アンド・マルケス事務所の設計。1950年生まれのダニエル・マルケス(Daniele Marques)はチューリッヒに学んだ。ハインリッヒ・デゲロ(Heinrich Degelo)は1957年生まれで、バーゼルでインテリアとプロダクトデザインを学んでいる。M・モルガー(Meinrad Morger)も1957年生まれ。
*6
Zebra wood : マメ科の広葉樹。アフリカの熱帯雨林に生育。褐色の縞杢(シマモク)が特徴。

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