特集2/ドキュメント

午後/土砂降りのち晴れ、月夜 クレーン車は来なかった……

 話を聞いているうちに雨はどんどん強くなり、日本ならとうに大雨洪水警報が発令されていそうなひどさに。しかも、1時間以上も続いている。これでは今日のクレーン吊り上げ作業はあきらめるしかない。
  この日の現場は中断していた舟の茶室の屋根張りを続行する一方、雨のタープ下でもできる内職を進めておくことになった。
  内職とは、竹の油抜き。藤森さんは茶室の床に竹を張るつもりだという。といっても、桂離宮の月見台のすのこのように、まっすぐ伸びた竹をそのまま並べる手法はいやだからと、わざわざ縦に割いて、隙間をあけて不均質さを強調するように張り、あいだを漆喰で埋めるらしい。竹は乾燥させた後、1本1本熱して油を抜き、節に産みつけられている虫の卵を殺しておかないと、後で虫が食ってとんでもないことになるという。油抜き(写真4枚目参照)は根気さえあれば誰にでもできる作業。われわれも、見よう見まねで手伝うはめに。
  この日も気づけば、あんなに降っていた雨は上がっている。そこで、藤森さんが始めたのは、竹の茶室の天井と壁の上部の仕上げの見本づくり。竹を割いた小片をバーナーで焼いて炭状にしたものを、隙間をあけながらボーダー状に並べ、そのあいだを漆喰で埋めて縞模様にする予定だという。揚存さん夫妻も興味津々で見学している。
 そういえば、外壁はお得意の焼杉仕上げにするから、後で時間があったら実演して見せてもいいという話だった。藤森さんに聞くと、焼杉はもう飽きたと閉口しつつも、「十分乾いてないとうまく火がつかないかもしれないけど、まあやるだけやってみましょう」と、杉板を運び出すよう指示を出し、入り口近くの空き地に向かった。作業の手順は写真2枚目、3枚目をご参照いただきたいが、なんとも原始的。ものの数分で焼き上がり、墨色のざらざらした表面が表れた。これでくるまれた茶室はどんな表情を見せるのだろう。
  日が暮れ、今日はこれでお開きかと思ったら、屋形の銅板張りが完成した舟のあたりで藤森さんと揚存さん夫妻が何か始めた。内部をライトアップするらしい。
  あかりが灯ると、銅板の隙間から光が漏れ、屋形全体が赤くなり、闇のなかに幻想的な風景が浮かび上がった。見ていた建築団から歓声が起こる。隙間から炎が出ているようで、「溶鉱炉みたいだなあ」と藤森さんもご満悦。
  空にはまた月が出ている。明日は出発までにクレーン吊りが完了するだろうか。

>> 4月29日(木)

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