特集2/ドキュメント

 コンクリートで足元を固めた柱の上部の揺れ具合や接合部分の仕上がりを点検すべく、藤森さんは透け透けの足場をどんどん上っていくが、高いところが苦手なこちらは後れをとるばかり。なんとか頂上にはたどり着いたが、到底、湖の眺めを楽しむ余裕はなかった。
  それにしても、「高過庵」をはじめ、なぜわざわざ高いところに茶室をつくるのか。下界から離れるほど別天地をつくりやすいというのはあるだろうが、藤森さんいわく、「なんでだろうねえ、とんがったものの上が好きなんだよ」。著書『藤森照信建築』(TOTO出版)のなかで赤瀬川原平さんが、小学校入学時に初めて教室に入った生徒たちに先生が「好きなところに座りなさい」と言ったところ、テルボ少年(藤森さん)は座席ではなく、一段高い窓の敷居に座ったという逸話を披露していたのを思い出す。ともかく見晴らしのよいてっぺん好きなDNAの持ち主なのだろう。
  さて、地上に降りた藤森さんは即、茶室の屋根づくりに取りかかる。下地板の上に防虫・防腐塗料を塗った垂木を打ち付け、その上に一枚一枚手作業で波板状に折り曲げた銅板を重ね張りしていくのだが、わざと等間隔にしない垂木の留め方といい、1枚として同じものがない銅板の表情といい、いかにもツルピカ嫌いで毛深い仕上げを追求する藤森さんらしい。「きれいにならないように、テキトーにやるのがけっこう難しい」そうだ。
  また、「つくりながら考える」のも藤森流。手を動かして試行錯誤しながら、その場にある材料や状況に応じて、臨機応変に形や仕上げを考えていく。海外のイベント向けに茶室をつくる場合など、図面どおりに事を進めねばならず、とてもやりにくいとこぼす。
  最初はどうなることかと思ったが、眺めているうちに録画の早送りのように作業はみるみる進行していく。舟の銅板張りもだいぶ進んだようだ。「1坪当たり約2人、普通の10倍ぐらいの人が働いている。こんな現場、ほかにないでしょ」。だから、クレーン車が来るまでには十分間に合うと、藤森さんは余裕の表情。

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