
- 藤森 さっき西沢さんが素材だけで組み立てたいという話をしましたが、それをもう少し話してくれませんか。
- 西沢 これは妹島さんの影響ですが、僕はストラクチャーというものを重視しています。建築というのは、構造をどうするかで、相当のことが決まってしまうと思うのです。なので、構造は一番重要な問題のひとつですね。それから、関係性というか、モノの成り立ちにある明快さがある、ということも重視していると思います。
「ディオール表参道」(03/*8)をやっていたときに、フランスのディオールの人々とものの考え方のギャップがすごくあったんです。彼らはいろんなものを隠して、バシッとかっこよく納めていくんですが、僕らは逆に、醜かろうがなんだろうが、全部露出していく、というか、関係性が重要で、いろんな関係を隠すのが嫌なんでしょうね。たとえば、カーテンウォールを留めるアングルを出そうとすると、クリスチャン・ディオールの店でそんなことやるんじゃないと怒られる。でもわれわれとしては、なんでも石膏ボードで隠してしまう張りぼて建築みたいなものはつくりたくなくて、シンプルな関係をつくりたいというのがあって。構造とか関係性とかいうのは建築の雰囲気を決めるので、重視していますね。 - 藤森 そんなに骨格を感じさせる建築をつくっている印象はないけどね。まあ、鉄板構造は構造がそのまま形になるからだろうけれど。
- 西沢 いや、そんなことはないと思いますよ。今までつくってきた多くの建物は構造にほとんどお金を使っています。仕上げをべたべた張るというのはまずやらない。よく透明だといわれるのも、構造の問題が大きいと思います。やはり壁構造にしたら四方八方に広がるものはつくれないし、ラーメン構造を選んだら、空間はどうしてもラーメンぽいものになってしまう。
- 藤森 今取り組んでいる構造の形式にはどんなものがありますか。
- 西沢 「豊島美術館」(10/*9)というのをつくりましたが、それはコンクリートのシェル構造です。それから、ロンドンでつくった「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2009」(09/*10)という仮設のパビリオンでは、細い柱を林立させて屋根を支えるフラットスラブ的なものを鉄骨でやりました。空間と構造がダイレクトにつながったものです。僕らは結構、すごくモダンなことをしているんですね(笑)。
- 藤森 確かに、形状としてのホワイトキューブも、構造をそのまま形にするというのも、20世紀建築の原理ですよね(笑)。
- 西沢 でも、構造が問題になるのは20世紀だけのことではないですよ。ルネサンス以降はすべて、構造や工法と意匠はダイレクトにつながっている。建築がお茶碗くらいの大きさであれば、構造はなんであってもだいたいもつと思うんですが、建築というのは大きいから、構造が無視できない問題になってくる。それは、ルネサンス以降のあらゆる建築が問題にしていることです。
- 藤森 つまり、材料があって、それを組み立てて建築をつくるというあたりまえのことをしていると?
- 西沢 そうともいえますね。そういう意味でも、材料をぜんぶ真っ白にするというのは、本当は避けたいわけですが、構造にお金を使いすぎると、仕上げが石膏ボードしか張れなくなり、建築がペンキ仕上げになってしまうということが起きます。




