特集/インタビュー⑤

皮膜一枚があって 河内建築設計事務所 ホームページへ

―― 今日うかがった「KCH」は、今回唯一のリノベーションです。事務所を兼ねた自邸ですから、基本原理が反映されているのではないかと思います。
河内一泰 以前はまわりの環境や敷地の問題に対して解決を与えることが建築の役割としてとらえられていたように思います。しかし、今では問題解決は建てるときのおもな動機ではなくなってきています。私が今、住宅にどのような可能性があるかを考えるときには、問題解決+αを探しています。自分にとっては、生活や街を楽しむことがそれにあたるのかもしれません。空間としてすごいものをつくることができれば、設計した建築家は満足すると思いますが、住宅ではとくに建物と建て主の生活の両方が必要だからです。学生時代に教えられたのは「建築=空間であり、その空間をどうつくるか」ということに主題が置かれていたように思います。しかし設計活動の実務を通して、空間がよくても生活が変わらないとあまり意味がないと感じています。建て主の生活が変わるような建築ができるように設計したい。それはリノベーション的な考えといいますか、これまでの生活の形式や建物の工法について、みんなが思っている前提をどのように編集して提示するかということであるように思います。こうした発想をするときには、素材に特別なものを用いたり、独自の方法論やコンセプトを打ち出して住宅で表現することは、さほど重要ではなくなります。
―― 人の生活に触れて変えてしまうというと、反発もあると思いますけれど。
河内 そこはやりたいですし、建築家として生活を変える提案をしないといけない、と思っています。多くの住宅業者が宣伝している絵は一般の方の願望を集積したもので、これまでの生活とじつは何も変わっていません。建て主のイメージと完全に一致することはありえませんし、たくさんの要望が含まれていたとしても時間の経過とともにずれていきます。もちろん建て主の希望やイメージを最初にたくさん聞きますが、距離を置くことが大事だと思います。みんながもつ価値観や常識からはずれた住宅、「どうやって住むのだろう?」と思われる空間を提案できればと考えています。
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