藤森照信の「現代住宅併走」
「森のなかの住宅」 設計/長谷川 豪

 何年ぶりだろうか。"デビュー作の新鮮さ"を味わった。デビュー作には作家のすべてが含まれるともいうが、確かに、安藤忠雄さん、伊東豊雄さん、石山修武さんなど同世代のデビュー作を思い浮かべてもそれはいえる。
 長谷川豪のデビュー作〈森のなかの住宅〉。軽井沢の別荘地の流れのほとりに立ち、私のイメージのなかでは軽井沢の小さな落水荘。
 このプロジェクトを知ったのは5年前のSDレビューのときだったが、家形の主室の上にある空間がなんのためかわからなかった。人が歩けるほどの高さをもつが、斜めだから屋根裏として使うわけにもいかないし、環境制御の天井裏としてはデカすぎるし。
 夏の終わりに訪れ、落水荘のイメージは私の膨らませすぎだったとちょっと反省し、中に入り、家形の室内の斜めに傾いた天井面から透けてにじみ落ちるほのかな光に新鮮さを感じるものの、意味は理解できず、台所にまわって、流し台の前に立ち、流し台の上にあいた四角な穴(開口部)から主室を眺め、「妹島和世の『梅林の家』(2003)もこんなだったナ」と思いながら、視線を斜め上にもち上げてタマゲタ。
 初体験。こんな建築空間はこれまでの長い建築探偵稼業のなかでも味わったことがない。大きな天井裏の空間が自分の頭上から斜め上方前方へとスーと延びて、梢の木の葉に縁取られた軽井沢の夏の空へとそのままの勢いで抜けている。
「ホー」久しぶりに声が出る。
「喜んでくれたのは藤森さんが初めてです」
 台所を出て、急な階段を上るときにまた初体験。斜めの天井裏空間を左手に見ながら上ることになるのだが、ふつう屋根裏や天井裏に向かうときは狭くて暗いほうに進むのに、ここは反対で、より広くて明るい光のなかへと上昇していく印象。抜け出て、屋根に出ると、そこは小さな展望台。青空を透かして、夏の終わりの緑が広がる。
 "出"についてうかがうと、東京工業大学の塚本由晴研究室を出て、西沢大良の事務所に入り、この仕事で独立したという。

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