特集1/インタビュー

「“情報量”が増えると体験が豊かになると思う」――藤本

藤森 そういえば、西沢さんのお兄さん、西沢大良さんもかなり不思議な人だよね(笑)。僕は藤本さんとも一緒にやった東京ガスの「SUMIKA Project」(08)のときに話をして、その後、諏訪の家も見たけれど(「諏訪のハウス」99/『TOTO通信』2010年新春号「現代住宅併走」)、彼はひたすら上からの光に興味があって、壁には興味がない。このあいだ、その大良さんの弟子の長谷川豪さんがつくった家を見たら(「森のなかの住宅」参照)、彼は斜めに開いた天井裏から見る空にしか興味がない(笑)。彼らは、上とは何か、斜めとは何かという実験をしているんですよ。
 藤本さんは最近、どんな実験に興味がありますか。植物の問題?
藤本 植物は最初に「house N」でちょっと植えて、「SUMIKA Project」でつくった「House before House」(*5)ではもっといっぱい植えたんですけれど、植物が出てくるのはたぶん中と外の問題に……。
藤森 重要な働きをすると?
藤本 はい。「house N」では3層の箱のうち、一番外の箱と中間の箱のあいだは外なので、一応木ぐらい生えていないとという程度でした。後は夏は日射を遮るとか。ただ植物を扱ってみてわかったのは、1本の樹木でも本当に多様なんですよね。「House before House」では最初、一個一個の箱の素材や色を変えたほうがいいかなと思っていたんですが、木の多様さに比べて、色を変えるなんて……。
藤森 こざかしい?(笑)
藤本 多様でもなんでもないなと思って、結局、白くしたんですね。ちょっとあきらめた。で、最近は建築でつくる多様さについて考えています。
 このあいだ「武蔵野美術大学美術館・図書館」(10/*6)が出来上がったときに、あの建物はプログラムが複雑だということもありますが、モノがもっている「情報量の奥行き」みたいなものをうまくつくると、ものすごく豊かな体験になるのではないかという気がしたんです。たとえば、本がぎっしり入った本棚がいっぱいあることによって、その向こうとこちらの空間では明るさも違って見えたりする。僕は「情報量」とか「解像度」という言葉を使っていますが、面として本棚を見たときに、一つひとつのピースが見えてくる距離まで近づくと、情報の奥行きがガーッと増えてくる。つまり、中と外のあいだをつくりたいというのと基本的には同じですが、中と外だけだと0か1かという単純な単位だけれど、そのあいだにグラデーションをつくることで、それだけ情報量が一気に増えて体験が豊かになってくる。そうすると非常におもしろいんじゃないかと思っているんです。
藤森 その「情報量」というのは基本的に、物質がもつ情報量ですか。
藤本 物質もありますし、素材とか、プランのつくり方、光、後は使われ方もそうですね。人が動くことで生まれる情報の変化というのは膨大なので、そういうものをうまく複合すれば、おもしろいことが起こるんじゃないかという気がしています。
 そういう意味では、白く塗るというのも多様さを生む効果があると思います。最初に白くしたのは、いっぱいキューブがある「情緒障害児短期治療施設 生活棟」(06/*7)ですが、あのときは明るさの問題が発端でした。外から入った光がどう反射していくかを考えると、白以外の色だと相当気持ち悪いなと思ったんです。で、できてみると、白だと向きによって壁の色も明るさも変化するので、何かの色がついているという単一の情報より、より豊かになるような感じがしました。
「house N」も白くした主目的は明るさで、3重の箱だと白以外では内部が相当暗くなると思って白く塗ったんですが、その一方で、真ん中の箱の屋根に映り込んだ光が反射したりすることによって、単なる明るさのグラデーションを超えた何かが起こるんじゃないかということも考えました。実際にできてみると、外の天気によってどの層の箱が明るくなるかがずいぶん変わるので、空間全体の奥行き感も変わったりして、すごくおもしろいんです。白にすることで何かが増えるというか……。
藤森 ああ、そう。白は実験でよけいな夾雑物を出さないためかと思っていたけれど。
藤本 確かに、あのときは箱・箱・箱というのがきれいに見えたほうがいいかなという思いも半分ぐらいはありましたが、今はだんだん、白のほうがより反転が起こりやすいから情報量が増えて、体験が豊かになるんじゃないかということを考えていますね。
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