特集2/ドキュメント

午後/快晴 コーチさんの結び

 奇跡的に間に合ってよかったが、まさかこんな秒読みになるとは。今頃定員3名の竹の茶室には誰が入っているんだろう。
  空港に向かう車中、コーチさんが、よくここまでたどり着いたと感慨深げに語る。行動力と統率力でこのプロジェクトを実現に導いたリタさん、手先の器用さと勘のよさで藤森さんの片腕役をみごとこなした揚存さん、通訳と施工の双方を兼ねて作業を円滑に進めるのにひと役買ってくれた白さんなど、誰が欠けても、事はこううまくは運ばなかっただろうとコーチさんは言う。
  また、さまざまな一流アーティストとかかわってきた目利きでもあるコーチさんだけに、ふたつの茶室については、こう語ってくれた。
「竹の上の茶室と湖に浮かぶ茶室、このふたつは男と女、静と動、陰と陽など、さまざまな対比の意味をもつ空間で、お互いがどう作用しあうかというのも興味がありますね。台湾初というだけではなく、同時に同じ場所に藤森さんの茶室がふたつ誕生するというのも初めてのことですから。ハイブリッドのおもしろさがあると思います」
  ふたつの茶室で楽しむお茶は、当然ながら日本の抹茶や煎茶ではなく、中国茶。現場で休憩時に淹れてもらったお茶はプーアール茶のような独特の香りのお茶、地元の名産である東方美人や、包種茶と呼ばれるお茶など、一つひとつ、香りや色が大きく異なっていた。コーチさんによれば、味を重視する日本のお茶と比べ、中国茶は香りが重要な要素で、作法もフォーマルな日本の茶道に比べると堅苦しくなく、リラックスした雰囲気で楽しむものだという。しきたりにとらわれず、サイズと躙(にじ)り口と炉さえ守れば、後は自由につくるという藤森流茶室は、中国茶の世界にはちょうどなじみがいいのかもしれない。
  今回の取材を通じて感じたのは、リタさんが言うように、藤森さんの作品は完成形だけではなく、状況に応じて時々刻々変化していくプロセスを含めてひとつの作品であること、そして、小さな茶室程度の建築なら素人集団でもなんとかできてしまうし、大勢でひとつのものをつくり上げるおもしろさや充実感を味わう体験は、人間や社会を元気にするためにはけっこう重要ではないか、ということだ。
  さらに付け加えるなら、物事が予定どおりに進まなかろうと、「ま、いっか」と笑って許せるような、南国独特のゆるい台湾人気質もまた、藤森建築には似つかわしい気がした。

>> 写真家再訪。これが出来上がりだ。

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