特集2/ドキュメント

 建築団や取材スタッフの顔に落胆の色が浮かぶ。藤森さんなど、今日の遠足は中止と言われた子どもみたいに、見るからにしょんぼりしている。しかし、さすが冷静かつ行動力のある司令塔のリタさんは、別の工事業者に掛けあうと言い出した。依頼した当日にこんな山中に来てくれる業者が見つかるかどうかはわからないが、このチャンスを逃しては、これから本格的な雨季を迎える現場にクレーン車が来られる日など、当分ないかもしれない。交渉はリタさんたちに任せ、建築団はとりあえず竹の茶室の上のタープをはずし、まわりを片づけ、宙吊りのための準備に取りかかった。
 一方、藤森さんは寸暇を惜しんで、先ほど採集した竹の油抜きを始めた。取材班も手伝いながら、これで何をつくるのかと問うと、舟の屋形の入り口部分に張ってある銅板のエッジで、出入りする人が怪我をする危険があるので、竹を丸く曲げてガードにするという。
 そうこうしているうちに、レベッカさんから朗報が届いた。掛けあったほかの業者が引き受けてくれ、クレーン車が11時頃には到着するというのだ。ただ、時間どおりに来るのかと危ぶんでいたら、やはり11時半になってもクレーン車は来ない。藤森さんとコーチさんは今さらあがいてもしようがないと、腰を落ち着け、油抜きした竹をさらにあぶっては曲げ、曲げ木ならぬ曲げ竹のアーチを製作。舟の屋形入り口のガードは無事完成した。
 レベッカさんから、クレーン車は湖の入り口にかかる橋を越え、時速10㎞ぐらいののろのろ運転でこちらに向かっているらしいと実況中継があってからほどなく、待ちに待ったクレーン車のエンジン音が聞こえてきた。もはや時刻は昼の12時前。われわれに残された時間はわずか1時間半。
 建築団は吊り上げ専用のベルトを引っかけるため、茶室の下に柱を差し渡す準備を開始。湖上から吊り上げ風景を撮影する藤塚さんは塩ビ管のいかだボートで湖に漕ぎ出す。ずうっと和気藹々ムードだった現場が、このときばかりは緊張感に包まれた。

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