特集1/インタビュー

完成の後

―― 完成後驚いたのは塀がないということです。
藤森 僕は「塀」は一度もつくったことがない。以前は隣の農家とのあいだに塀があったんです。ところが子ども同士が同級生で親しくなって、塀があるとずっと外をまわって遠まわりしなくちゃいけない。危ないんですよ、小ちゃい子どもには。で、穴をあけたんですよ、ブロック塀に。それで子どもたちはそこを通っていた。そのうち隣のおじさんも回覧板とか持ってくるときにそこを通ってくる(笑)。だったらこれはいらないなと、とってしまった。
  じつは僕は建物の地べたからの立ち上がりが気になるんです。
  木造だと下にコンクリートの布基礎、その上に木の土台があって、要するに建物と地べたとの接点の断切状態が見えてしまう。それともうひとつは隣の敷地との関係です。それを切りたくないんです。実用上切らざるをえないかもしれないけれど、視覚的には切りたくないんです。
  これが周辺の風景に少し影響を与えた。ウチが塀がなくて、反対隣の奥さんも「いらないわね」と言って立派な大谷石の塀を取り払っちゃった。その結果、各家の庭を通して150mぐらいの距離で視線が通った。
―― タンポポの手入れを自分でされていましたね。
藤森 やってた。もう絶望的(笑)。冬のあいだ、給水がうまくいかなくて枯れました。最初はハシゴをかけて、一応命綱を付けてやりました。何が一番大変かって雑草です。放っておくと3年もすると木まで生えてくる。
―― そんなことを自分でやった建築家は前代未聞でしょうね。
藤森 自分でやるしかないものね。一番悲惨なのはね、雨の日にね、壁のタンポポに水をかけてるとき。
―― 雨が降ってもそこの土は乾いたまま(笑)。
 最後にタンポポハウスが立ち上がったとき、ご自身で違和感を感じたとおっしゃっていましたね。
藤森 今でもある。どういう違和感かというと、周辺の郊外住宅地との違和感。明らかに変ですよ、私の家のほうが。これを建てて初めてわかったのは、まわりの家は全部ぺらぺら。しかし、そのぺらぺらこそ市民社会と郊外住宅地の本質を示しているということですね。
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