大規模災害の直後に現地に足を踏み入れた経験はないが、プレファブの仮設住宅が密集して立ち並ぶ光景を映像で見ると、応急的な措置として止むをえないと理解はしていても、家族揃って毎日暮らす場所としてはいかにも殺伐とした感じが否めない。それは国内外を問わず共通している。そうした状態に違和感をもっていた若手の設計者や研究者たちによって開発されのが「SAKAN Shell Structure (以下SSS)」である。2年にわたる検討の後、2007年春に滋賀県立大学の敷地内に実物大の実験棟が建てられ、その2年後、倒壊実験が行われて壊された。
SSSの姿はとてもユニークだ。モルタルの非常に薄いシェルでできていて、表面は漆喰仕上げ、四方にアーチ状の開口。その形は長軸6m、短軸3.6mの半楕円回転体を3m角の立方体で立体的に切断したもので、平面3m角、高さ3mの4本足のパビリオンといえばよいだろうか。これには尖ったところはもちろん、およそ角ばったところが見当たらない。どこかで見たという確かな記憶はないが、でも一度は見たことがあるような気もする、ほのぼのとした味わいをもつ、土着的で不思議な姿かたちである。さらにこれらが並び立って集落を構成するありさまは、岩場にフジツボが群生しているような、人工的な気配が薄く、自然界の出来事であるようなさまが思い浮かぶ。プレファブの仮設住宅群とは対極の、応急の暫定的な施設ではあっても、人が集い、暮らしていくのにふさわしいコミュニティの形成が推測される。
SSSの特徴は建設方式にあり、ユニークな姿かたちはあくまでもその結果である。建設方式とは、空気膜を型枠とし、左官技術を用いたセルフビルドにより無筋のモルタルシェル構造体をつくるというものだ。
空気膜は特別にあつらえたものを用いる。接地部を木製のベースプレートで固定し、土囊で押さえた後、送風機で空気圧を高める。およそ20分で所定の圧に達する。四周に開口枠になる木製リブを設置し、全体に麻のネットをかぶせてモルタル接着面をつくる。これで型枠完成。