としま区民センター
(東京都豊島区)

国内屈指のターミナル駅「池袋」を有する商業地であり、舞台芸術やサブカルチャーのメッカであり、利便性の高い住宅地でもある──。

そんな豊島区で現在進められているまちづくりの重要なキーワードの一つが「トイレ」です。トイレは生活文化の基盤を支えるもの。その快適性や清潔さに磨きをかけることは、まちの安全、安心にも大きく貢献するという考えのもと、さまざまな取り組みが行われています。

例えば、区内に約130ある公園トイレ・公衆トイレのうち85カ所で全面改修を進めたり、「としまパブリックトイレマップ」を作成して区内の施設で配布したり──。また、2019年11月にオープンした「としま区民センター」では、日本一きれいな公衆トイレを目指し、こだわりの空間をつくり上げました。

豊島区のこうした動きの背景には何があったのか。また、それは持続可能なまちづくりにどのように関係しているのか──。豊島区の担当者の方へのインタビューを掲載します。そして、下の写真のとおり、公共施設のトイレのイメージを覆すとしま区民センターの事例を詳しく紹介します。

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    ラグジュアリー感のある3階女子トイレ。ゆったりとした空間に、さまざまなタイプのスタイリングコーナーが設けられている。

「消滅可能性都市」から「持続発展都市」へ トイレはまちの品格を表すものその刷新が地域の魅力を高める

多様な取り組みが評価され、内閣府の「SDGs未来都市」などに選ばれている豊島区。
これまでの成果や今後への思いなどについて、豊島区の小倉桂さんに聞きました。

まちが抱える課題を女性目線で見つめ直した

──豊島区では「持続発展都市」を掲げ、
女性にやさしいまちづくりなどを積極的に進めています。

小倉少子高齢化や人口減少は、都心部においても深刻な問題。特に豊島区は、2014年に東京23区で唯一、日本創成会議による「消滅可能性都市」に選ばれています。

実は当時、池袋は人気の街ランキングなどで上位だったのですが、「2040年までに20〜39歳の若年女性が半減する」という選定基準には納得させられるところもありました。 豊島区は人口の流出入が激しく、定住する人が少なかった。そうした状況が、持続可能なまちづくりを加速させる大きなきっかけになりました

豊島区 文化商工部 文化デザイン課長
小倉 桂さん

──具体的にどのような対策を取られたのでしょうか。

小倉重要な取り組みの一つが、20代から30代の区内女性を中心に構成した「としまF1会議」の設置です。女性の目線でまちを見つめ直し、子どもや高齢者、障がい者、外国人などすべての人にとっての住みやすさ、働きやすさを再確認したいと考えました。

この会議で忌憚なく議論をしてもらった結果、課題の一つとして挙がったのがまさに「トイレ」でした。公衆トイレに対して、「できれば使いたくない」「ほかを探す」といった声がとても多かった。こうした声を受け、さまざまなプロジェクトが始まったのです。

──としま区民センターのトイレも、その中の一つですね。

小倉象徴的な事例といえます。旧区庁舎跡地に建てられたHareza池袋の一角を占めるとしま区民センターは、池袋駅から徒歩7分ほどの好立地。多くの人が利用しやすいこの場所で高い利便性、快適性を備えた「日本一きれいな公衆トイレ」を目指しました。

9階建ての建物はホールや会議室、スタジオ、また親子用の休憩スペースなどからなりますが、2階、3階はかなりの部分をトイレが占めています。

企画段階で限られた床面積をどう有効活用するかという議論はありましたが、「トイレはまちの品格を表す」と考え、区長自らTOTOさんのショールームにも足を運ぶなどしてプロジェクトを進めていきました。

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    としま区民センターの2階に設けられた「パパママ☆すぽっと」。
    木のぬくもりに満ちた親子の休憩スポットだ。

──特徴やこだわりを教えてください。

小倉まず、あらゆる人が利用する公共施設のトイレとしてユニバーサルデザインは大前提。通常の男子トイレ、女子トイレのほか、「おやこトイレ」や「多機能トイレ」、「男女兼用トイレ」を設けました。個室の扉には非常時に外開きできる機構も採用しています。

さらに細かな配慮としては、1階のタッチパネル式の案内板で多機能トイレなどの「手すり」が左右どちらに付いているかを示しています。
体のどちら側に障がいがあるかによって、選べるようにするためです。

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    2階おやこトイレ。子ども用の便器には手すりやグリップが
    取り付けられている。

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    「手すり」が便器の左右どちらに設置されているかなどを1階の案内板で表示。

──その他、使い勝手や快適性の面で工夫した点はありますか。

小倉混雑緩和には気を配りました。というのも、としま区民センター内には広いホールがあり、また大規模な劇場とも連絡通路でつながっています。
さらに近隣ではいろいろなイベントが開催されるため、多くの人が集中してトイレを利用する場合がある。

そこで便器の数を増やすのはもちろん、女子トイレでは入り口と出口を分離したり、入り口に待ちスペースを設けたり、さまざまな工夫をしています。一方で着替えに使えるフィッティングコーナーなども設置し、落ち着いてゆっくりと利用できる空間にしました。

加えて、トイレの案内や見回りなどを行う「トイレコンシェルジュ」を警備員とは別に常駐させるなど、先進的な取り組みも行っています。

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    2階女子トイレ。
    集中利用時にも対応できるように
    23の個室が設置されている。

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    明るい色合いで親しみやすい空間を
    実現した2階女子トイレの個室。
     

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    2階女子トイレの洗面コーナー。
    個別鏡によって、隣の人の視線が気にならないようにしている。

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    多目的ホールに併設された8階男子トイレ。汚垂れ石には耐傷性や防汚性に優れた「ハイドロセラ・フロア」を採用。

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    8階男子トイレの洗面コーナー。非接触で手洗いができるアクアオート(自動水栓)やオートソープディスペンサー(自動水石けん供給栓)を設置。

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    多目的ホールに併設された8階女子トイレの洗面コーナー。多くの人が利用できるように両面利用可能なアイランド型を採用。

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    イベント時の着替えなどを考慮し、3階女子トイレにはフィッティングコーナーが用意されている。

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    3階には男性用のフィッティングコーナーも設置されている。

避けられていたトイレが行きたくなる場所に

──コロナ渦の中、衛生管理への要請も高まっています。

小倉もともと衛生面は重視しており、自動水栓や自動水石けん供給栓によって非接触で手洗いができるようにしています。さらにコロナ禍を受け、トイレ清掃の回数を増やし、除菌作業も追加しました。

清掃については、豊島区と花王でパートナー協定を締結しており、定期的な清掃チェックも受けています。ブラックライトを使って目に見えない汚れも確認する本格的なものです。

──かなり力を注いでいますね。

小倉トイレはつくって終わりではありません。「汚い、暗い、怖い」のイメージを「きれい、明るい、安心、安全」へと刷新し、それを〝維持〟していくことが重要。それこそが、持続可能なまちづくりを支えることになると考えています。

実際、としま区民センターにはトイレ利用だけを目的に訪れる人もいます。かつては「少し我慢してでもデパートのトイレを使う」といわれていた公衆トイレが、行きたくなる場所になってきている。これはまちの変化を示す一つの成果です。

──最後に、「持続発展都市」の実現に向けて今後の抱負をお願いします。

小倉「ピンチをチャンスに!」は、消滅可能性都市とされた私たちの合言葉です。
重要施策の一つであるトイレは、まさに誰もが日常の中で利用する生活文化の基盤。そのイメージを改善することは、まちの魅力や求心力を高めると信じています。

そして、池袋副都心を抱える豊島区でそれを実現することは都市部のまちづくりのモデルケースにもなるはず。長期的な事業には困難もあるでしょうが、全国の自治体をリードする意気込みで今後も取り組みを続けていきます。

DATA

名  称
としま区民センター
所 在 地
東京都豊島区東池袋1-20-10
施  主
豊島区
設  計
株式会社伊藤喜三郎建築研究所
施  工
建築:株式会社松尾工務店東京支店
空調:菱和・ユタカ特定建設工事共同企業体
衛生:菱機・信和特定建設工事共同企業体
電気:トーエネック・広和特定建設工事共同企業体
構造・規模
鉄骨造一部鉄筋コンクリート造(地下3階、地上9階)
延床面積9073.96㎡
竣 工 年 月
2019年10月

おもなTOTO使用機器

壁掛大便器セット・フラッシュバルブ式 UAXC系/ウォシュレット TCF5533系
棚付二連紙巻器 YH702/小便器 UFS900系/壁掛ハイバック洗面器 LSH135系
カウンター一体形コーナー洗面器 MLRB32ABL/自動水栓 TEN87G1
RESTROOM ITEM 01 フラットカウンター多機能トイレパック XPDA系
幼児用大便器 CS300B/幼児用小便器 U310GY
クリーンドライ TYC420W/掃除用流し SK22A

性別や年齢、障がいの有無などを問わず、誰もが安心して快適に使えるように─。現在、東京都内では公園などの公衆トイレを改修、新設するプロジェクトが各所で進行しています。

豊島区が取り組んでいる「としまパブリックトイレプロジェクトは」は、2018年から3年計画で区内の公園トイレの60%以上を全面改修する一大事業。なかには公園自体の整備と連動したものもあり、池袋西口公園のトイレはその一つです。

野外劇場としてリニューアルされた池袋西口公園。トイレもその雰囲気にマッチするよう、木を活かした内装とするなど工夫されています。設置機器については設計段階からTOTOが提案しており、今の時代に求められる公衆トイレのあり方を追求しました。

一方、日本財団が行う公共トイレプロジェクト「THE TOKYO TOILET」。TOTOはこの取り組みにも参画し、アドバイザーとして現状調査と設置機器を含めたトイレ空間のレイアウト提案で協力しています。

このプロジェクトは、渋谷区内の17カ所に著名なクリエーターによる個性あふれる公共トイレを設置するというものです。多くの公共トイレが、暗い、汚い、臭い、怖いといった理由で利用者が限られている状態にあるものの、トイレは日本が世界に誇る「おもてなし」文化の象徴。優れたデザイン・クリエイティブの力で、新しい社会のあり方を広く提案・発信することを目的としています。

すでに複数のトイレが完成しており、2021年夏までにすべての設置を終える予定。どんな斬新なトイレが登場するのかこれからも楽しみです。

劇場の雰囲気と合わせて、トイレの壁面、天井にはふんだんに木材を使用。バリアフリー設計で多機能トイレも設置されている。

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