
- 内藤 今回は建て替え前なので1棟全部空き家の状態でしたが、今後、いろいろやろうとした場合、棟全体が空き家というのは現実的に難しいと思うんですね。部分的に空いたところで工事をしようとした場合、どういう工法でやって、どれくらい離れていれば耐えられる音や振動なのかなどのデータはありませんでしたから、今回の実験結果は貴重になると思います。
- 木下 実際に住みながら、ある程度軀体を壊すような改変はできそうですか。
- 大内 可能性からすると、2住戸3住戸離れていれば、部屋内の戸境の壁を抜くとか床を抜くくらいはいけそうかなという感じです。梁成の縮小も、棟全体のどこかに住んでいるという範囲なら可能かもしれません。もちろん騒音ゼロというわけにはいきませんが。
- 木下 床を抜くのも大丈夫なんですか。
- 大内 コスト的に割高にはなりますが、低騒音の工法でやればいけるかな、と。ただ、その上下に住まわれているとちょっと難しいでしょうね。横に離れているぶんには、なんとかなるように思います。
- 市川 床スラブについても何種類か実験していますね。
- 大内 当時の建物は、スラブ自体11㎝くらいしかないので、遮音性を高めるために床スラブに手を入れるのは欠かせないと思います。今回は既存のスラブの下端に15㎝増し打ちする方法、既存スラブを撤去して18㎝厚で打ち直す方法、さらに、15㎝厚で打ち直したうえPC鋼棒で引っ張る工法の3種類を試しています。
- 市川 結果はどうでしたか。
- 伊村 遮音性については、増し打ちするものが一番高かったのですが、これはスラブ厚が既存スラブと合計で26㎝と一番厚くなりますから、当然といえば当然の結果です。ただ施工は大変です。
- 木下 下からの増し打ちはどのように施工しましたか。
- 大内 当初は上の階に影響が出ないように、下から圧入することを予定しましたが、施工管理をするうえで危険だということになり、最終的には既存スラブに穴をあけて、上の階から高流度コンクリートを流し込みました。
- 伊村 施工性など費用対効果でいうと、スラブを新たに打つのではなく、既存スラブの上を高遮音二重床にして、仕上げ材で衝撃音を低減できるようにする工法はかなりいい結果が出ています。
- 市川 それは特殊な仕上げ材を使うということですか。
- 伊村 竹中工務店の技術研究所で開発した工法です。床下地パネルの上に遮音シートを1枚敷き、さらに下地パネルの下に2枚の遮音シートを取り付けた工法です。重量衝撃音を10dB以上低減できることがわかりました。軀体をいじらないで遮音性を高めるときには有効だと思います。
- 市川 仕上げで音を低減するのは、天井裏でも試していますね。
- 伊村 高遮音天井と呼んでいるものです。天井仕上げをしたボード裏に、5㎝角の立方体で重さ約1㎏のおもりを一定の間隔で並べ、このおもりが制振装置の役割をして上からの揺れを吸収し、衝撃音を抑制します。これは5dBくらい低減できるという結果が出ています。
>> UR都市機構のストック事情
>> 「ひばりが丘団地ストック再生実証試験」の概要
>> 実験1/階段室型住棟にエレベータと共用外廊下を新設する
>> 実験2/階段室の解体撤去の工法と施工性を検証する
>> 実験3/梁成(せい)を縮小して居住空間の広がりを向上する
>> 実験4/スラブの改修で遮音性能を上げる
>> 実験5/最上階4住戸を減築する
>> A棟のおもな住戸計画
>> B棟のおもな住戸計画
>> C棟のおもな住戸計画




