藤森照信の「現代住宅併走」
「軽井沢新スタジオ」設計/アントニン・レーモンド

 ようやく中を見ることができた。大学院生時代、軽井沢を建築探偵したとき、戦前の「レーモンド・夏の家」(1933)は見たが、戦後の夏の家(62・軽井沢新スタジオ)は外だけで通り過ぎたからだ。それから30ン年、戦前のは移築をされてペイネ美術館となり、戦後のはレーモンド設計事務所出身の北澤興一さんの手に移っている。
 久しぶりに訪れたが、周囲の光景はほとんど変わっていない。出迎えてくれた北澤興一さん・洋子さん夫妻に案内してもらい、内外を見る。
 まず外。屋根の茅葺きは腐ってしまい2年前に除いたそうだが、印象は意外に変わっていない、というか、見所だった茅葺きが消えても外観の表現力がたいして失われていないことに驚く。屋根面の力は減じても、屋根を支える軒とその下の壁面の表現力は十分残っているからだろう。さらに加えるなら、軒の木組みと壁の表現力が普通の木造以上に発揮された秘密は平面計画にある。平面を地形に沿って折った結果、全体構成に動きが生まれ、ふつうにつくると弱くなりがちな木の表現力が増大した。
 久しぶりに訪れて、レーモンド木造の魅力を再確認したが、でも、今回、訪れたのはそこが目的ではない。目的は中。
 中に入る。うれしい。北澤夫妻のおかげで写真で見た竣工時の姿が、家具や製図台や置き物を含めそのまま残っている。とりわけ、暖炉がそのままだったのがうれしい。

  • 1/3
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら