特集/座談会+ケーススタディ

壁、スラブから、梁成(せい)、柱まで、RC軀体工事の可能性を工法の比較検証で探る

市川 今回、竹中工務店が施工も担当したA棟、B棟だけでも7タイプの住戸がつくられていて、4種類の外廊下の施工方法同じく4種類の解体工法など、かなりの数の実証試験が実施されています。竹中さん側からの提案の概要を教えてください。
伊村達矢(竹中工務店) 並んでいるふたつの住戸の壁を抜いてつなげるとか、上下の住戸をつなげるといったマスタープランをURさんのほうから公募の要綱として提示され、それに対して具体的な実験計画とデザインの提案を行いました。プランとしては、少子高齢化、ライフスタイルの多様化など、従来のn+LDKでは対応できないニーズに対して、できるだけ空間を大きくとって、自由に間仕切れるようなストラクチャーをまずつくること。そのうえで、可変性を高めるように通風や採光を拡張することを主眼に提案しています。プランを実現するために構造的にどうするか、というのがおもな試験項目になるわけですが、それについては実施設計の段階でURさんとすり合わせをしながら、試験項目のバリエーションを決めています。
木下庸子(建築家) 今日、拝見して、昭和30年代に量産された住宅でも、住戸間の戸境壁を抜くだけで、あるいは上下階をつなげるだけで、こんなに空間的に新しい可能性が広がるんだということに驚きました。エレベータも、とてもうまく付けられているし、新設の外廊下も意匠的にとけ込んでいる。廊下の付け方についても、竹中さん側からの提案ですか。
大内 裕(竹中工務店) 公募の段階では最も効率のいいS造で提案しましたが、S造でも床がRCの場合とデッキ合成スラブにした場合、さらにRC造で片持ち梁でやった場合と耐力壁を増設した場合など、施工性やコストを検証するために、実施設計段階でURさんと実験の種類や内容を詰めています。また、解体の工法についても、壊す部分ごとに、ハンドブレーカーを使うところ、重機の解体用ニブラーを使うところ、ウォールソーで壊してレッカーで撤去するところなど、それぞれ違う工法を試しています。今回は効率だけを追うのではなく、実験として比較検証することを主眼にしています。
市川 今回の実験の内容を見ると、従来の技術を組み合わせたものが多いようです。それぞれの技術については竹中工務店ですでにデータをおもちだと思いますが、今回やってみて初めてわかったことなどはあるんでしょうか。
大内 確かに個々のデータ自体はあって、それほど極端に想定と違ったというのはありません。ただ、私どもは建設会社ですから、つねに最も効率のいい方法が求められます。今回のようにいろいろやってみましょうという機会はないんですね。それから解体は一般的に棟全体を防音壁で覆ってやりますから、ここのようにオープンな状態で、音や振動がどれくらいの距離でどの程度になるか、といったことはあまりデータがありませんでした。たとえば軀体の解体をするときに工具の種類によって実際どれくらい振動が違うのか、今回9種類の工具を試しています。そのなかのウォータージェット工法は低振動型の解体工法といわれているんですが、こういう開放された状態で使うと振動は少ないが音が思っていた以上に遠くまで響くとか。そういう部分でいろいろ勉強させてもらいました。


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