特集/座談会+ケーススタディ

渡辺恵祐(UR都市機構) 昭和30年代に建てたものは昭和60年代に建て替えに入りましたから、昭和35年(1960年)築のひばりが丘もその頃に建て替えが検討されていたと思います。現在のUR都市機構(独立行政法人都市再生機構)は、もともと昭和30年に日本住宅公団として設立され、戦後の復興期に、都市部に大量に流入する若い人たちの受け皿として団地をどんどんつくってきました。高度成長期に入って、昭和40~50年代の初めくらいにそれがピークを迎えます。しかし時代とともに住宅の面積も拡大しまして、初期のものを見ると狭い、古い、さらにエレベータがないのでバリアフリーという点からもきびしいということで建て替え事業を始めました。現在までに、昭和30年代のものは、かなり建て替えが進んでいます。
 それで次は昭和40年代のもの、ということになるのですが、時代も変わり環境問題などもあり、すべてを壊して建て替えるというのは、現実的ではなくなってきました。現在、UR都市機構が管理している約76万戸の集合住宅のおよそ6割が昭和40~50年代初めにかけてのもので、この大量のストックをどうするかが問題になります。建て替え事業の一方で、古い住戸のリニューアルというのはずっとやっていますが、空き家になったときに1戸ずつやることですから、それほど大胆なことはできません。そこで、そういったリニューアルと建て替えの中間的なことはできないか、住棟単位で、その軀体を生かしながら少子高齢化などの現在のニーズに対応できる方法はないか、ということで今回のプロジェクト(ルネッサンス計画)が始まりました。ですから、実験の本当のターゲットは、ひばりが丘のような昭和30年代のものだけではなく、昭和40~50年代にできた大量のストックで、それに対応する技術開発をしたいというのがスタートです。
市川 軀体を生かしながら、ということですが、壁や床の一部を取り去るだけでなく、床スラブ全体を撤去したり最上階の住戸を丸ごと減築したり、とかなり大がかりな工事になっていますね。
渡辺 実験ということもありますが、1住戸の床面積が35㎡で設備も陳腐化して、という状態で少々リニューアルしても、今の社会的なニーズにはなかなか応えきれないんですね。そもそも最初の頃の公団住宅というのは高齢者のことをあまり想定していないし、単身者向けは別棟でつくっていました。都市に流入してきた、これから子どもを育てるような若い夫婦や家族が対象で、まさに都市の勤労者のための住宅だったんです。それが今は、高齢者も一人暮らしもと多様化しているわけですから、物理的にたぶん同じものでは対応できないという前提です。
市川 ひばりが丘団地には、今回実験対象となった階段室型住棟のほかに、スターハウス(平面がY型・星型の住棟)といわれるものやテラスハウスもあります。階段室型住棟が選ばれたのには理由がありますか。
内藤 宏(UR都市機構) 先ほど76万戸のうち、約6割が昭和40~50年代初めのものという話が出ましたが、さらにその約半数がこの階段室型です。ですから非常に数が多い、波及効果が大きいというのが理由ですね。
市川 ひばりが丘のほかに、同じく昭和35年に建てられた大阪の向ヶ丘第一団地でも実験を行っていますね(写真参照)。ひばりが丘は竹中工務店と、向ヶ丘は戸田建設グループと一緒に、ということですが、パートナーを選んだ経緯、また東京と大阪での違いについてはどうなっていますか。
内藤 プロジェクトを始めるにあたり公募で提案を募って、いろいろなアイデアを出してもらい、それを検討して竹中さんと戸田さんのグループにお願いしました。東京と大阪ではできるだけ実験が重複しないようにしていて、大きく違うのは、ひばりが丘は軀体を一部撤去するなどの構造的な実験をしていますが、向ヶ丘は置き屋根をしたり一部テラスを増築したりといった比較的軽微な改変を主としている点です。そのため向ヶ丘は「過半の改造」にあたらないので、堺市に確認申請を出して申請を降ろしてもらっています。ひばりが丘の場合には、あくまでも解体が決まっている住棟を使った実証試験として、人が住まない、使わないという条件で東京都から特別に許可を得ている状態ですが、向ヶ丘はURの職員が体験宿泊などで実生活の実験も行えるようになっています。


>> UR都市機構のストック事情
>> 「ひばりが丘団地ストック再生実証試験」の概要
>> 実験1/階段室型住棟にエレベータと共用外廊下を新設する
>> 実験2/階段室の解体撤去の工法と施工性を検証する
>> 実験3/梁成(せい)を縮小して居住空間の広がりを向上する
>> 実験4/スラブの改修で遮音性能を上げる
>> 実験5/最上階4住戸を減築する
>> A棟のおもな住戸計画
>> B棟のおもな住戸計画
>> C棟のおもな住戸計画

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