特集2/ドキュメント

 垂木が屋根からはみ出した裾の部分が通行の邪魔になって危ないと、弟の范さんの妻で、夫と同じくアーティストである兪瑞玲(イウ・ルヘ・リン)さん(通称レベッカさん)が突如、一つひとつに使い古しの軍手を被せはじめる。茶室が突然、手がたくさん生えた唐傘お化けみたいになって、みんな大笑い。「現代美術は楽でいいなあ」と藤森さん。なごやかで、つくっているものも小さい現場は、建設現場というよりは、夏休みの宿題の工作を子どもそっちのけでつくっている大人の集団のように見える。
  屋根葺きを建築団のメンバーに任せ、藤森さんは茶室内に入って思案している様子。外壁や内装は高所でもできるが、上にのせてから左官工事をするのは大変なので、炉は今つくってしまおうと考えたらしい。
  内部は藤森さんの茶室では最小の2畳だそうだが、炉はどこに切るのかと思ったら、壁にあいた穴から飛び出させた形で据え付けるようだ。つくり方は写真説明に譲るが、あっというまに壁から突き出した亀の頭みたいな炉が完成した。
  茶室の準備が整ったところで、重さを量ってみようと藤森さんが言い出した。どうやって量るのかと思ったら、家庭用の体重計を取り出し、まず湖側の2隅を持ち上げて体重計の上にのせて計測、次に逆側の2隅をのせて計測し、4つの数字を合計すれば総重量が出るとのこと。数学や理科に弱い人間にはなぜそうなるのか、まるでわからないが、測定の結果、重さは約353㎏と判明。小さめの御輿ぐらいだろうか。藤森さんには十分、想定内の数字だったようで、よしよしと今度は茶室を支える土台の補強に取りかかるべく、足場を上っていく。
 午後には雨も上がり、晴れ間がのぞいてきた。高所取材は遠慮して、あいまを縫って建築団の面々に話を聞く。藤森さんの評判はすこぶるよく、やさしく、頭がよく、偉い先生なのにいばっていないと全員口々にほめる。ただ、弟の揚存さんだけが「面と向かってはとても言えないけど、先生は来るとすぐ着替えて一気に作業を始め、休憩も食事も早いので、全然休めなくて少し困ってます」と本音を言ったのがおかしかった。
 揚存さんはこうも語る。「普通の建築家のように図面どおりつくるのではなく、イメージは頭の中にあって、しかも、つくりながらどんどん変わっていく。それが楽しくもあり、大変でもあります」。藤森さんがいないと作業が停滞し、東京に連絡をとろうにも何人も人を介すと意思の疎通がうまく図れず、もどかしい思いをしたこともあったようだ。それでも、今回の貴重な体験が、「今後、自分自身の変化に影響を及ぼすでしょう」と笑顔でしめくくってくれた。
  夕刻、竹の茶室は本体、土台ともに準備万端整い、この日の作業はめでたく終了。空には月も出て、明日はクレーン吊り上げにもってこいの日和になりそうだ。

>> 4月28日(水)

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