同市保健福祉部健康増進課の飯野一幸さんは、計画にあたり、第一に要望したのは「どんな人にも使いやすい建物にしたい」ことだったと振り返る。これに対し、設計を担当した日建設計が掲げたテーマはアクセシビリティ。「建物にも、必要な情報にも、寄りつきやすくしたいと考えました」と同社設計部門設計室長の岩﨑克也さんは語る。
アクセスのしやすさを象徴するのは、まず「わかりやすい骨格」を目指したというプラン。吹抜けのある大きなホールを中心に、4つの四角いボリュームをずらしながら組み合わせた卍型の平面のおかげで、室内は明るく開放的。南北2方向に出入り口があるだけでなく、4面すべてに開口部があり、見る方向によって異なる表情の山並みが見えるなど、切り取られた風景が目印となるため、自分が今どこにいるかがわかりやすい。また、南北で外壁タイルの色を変えたり、ホールの吹抜けに面した壁面に方角と階数を示した大きなサインを配してあるのも、自分の位置を確認しやすくするための配慮だ。
ただし、こうした視覚的な仕掛けはほんの序の口であることが、岩﨑さんに館内を案内していただくうちにわかってくる。たとえば、1階、2階とも床から高さ900㎜上がった壁沿いに、素材を変えた幅200㎜のラインがまわしてあるが、これは手すり代わりのガイドの役目を果たす。帯状のラインをなぞっていけば、スイッチ、引き手、コンセント、点字情報などもすべてここに集約されている。