特集7/ケーススタディ

建築とプロダクトのあいだ

 pacoは、基本はひとりでテンポラリーに使うことが想定されている。室内にはアクリル製の小さなキッチン、床の一部を持ち上げて使うテーブル、床下に納められた寝室と収納、そしてトイレとシャワーが納められている。極小でありながら、生活するのに必要な設備が整っているのである。シャワーはトイレの上にクッション板を敷いて浴びる。シャワーカーテンは、透過性のあるオーガンジーを超撥水加工したもので、シャワー時にも4畳半いっぱいの広さが感じられる。
 3m角のボリュームは、最初に設置したギャラリーのスペースの都合もあるが、法規から出てきたものでもある。10㎡以内の増築は、地域や条件によっては確認申請を必要としない。pacoはどこにでも移動して設置できるため、現在のように庭に置いて「離れ」にすることや、自然が豊かな山や海辺に持ち込んでセカンドハウスにすることが似合う。複数を配置してコテージ型のリゾートホテルとする案もあるという。
 箱は下部と中部、屋根の3つのパーツで構成されている。2×4のパネルで8割方を工場で製作し、現場に搬入。施工は大工仕事で、外周のFRP防水工事を含めて10日ほど。価格は「箱だけ」の状態で400万円から、給排水設備や用具が整ったフルスペックの仕様で600万円。いずれも色や窓を開ける選択は、自由にカスタマイズできる。「すべてをカスタマイズできる建築と、車のようなプロダクトとのあいだで、誰もが『なんだかほしくなるもの』をつくりたかった」と長坂さんは言う。確かに、気のきいた小物や設備に触れて、箱が置かれる様子を絵で見ると、夢がふくらむ商品である。

  • 前へ
  • 2/3
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら