特集6/ケーススタディ

 実際の施工は基礎を専門業者に依頼し、土台からパネルの立ち上げはセルフビルドで行った。近所の人たちを中心に集まり、総勢15名。ゴールデンウィークの3連休で上棟した。その後、ガラスや塗装の工事は断続的になったが、集中して行えば延べ約1週間で完成するという。予算は総額150万円できちんと納まった。じつはこの建て主夫婦は、原田真宏さんのご両親である。「父は船舶の設計をしていたので、合理性があれば形状にとやかくいわれることがなかった」と原田さんは振り返る。屋根の外側を船舶用の防水塗料とする仕上げは、父親からの提案であった。後日、塩ビ小波を根太材にのせて打ち付けることにしたが、それも自分たちの手による。「セルフビルドすると、どのようにできているかがわかっているので、改造することを恐れないようですね」と原田さん。何もかも合理的にする必要があったこの小屋が生み出した、大きな効果のひとつである。
 きびしいローコストの条件のなかで、合理性を突き詰めた原田さん。パネルにはいくつもの役割と機能をもたせ、システマチックな工法を考案した。しかし、それらの工夫はいわれなければ気づかないほど、表に見えず目立たない。セルフビルドにありがちな雑な感じも受けず、シンプルでおおらかな空間ができている。ケースごとの必要に応じた徹底的な合理化は、いわゆるモダニズムを超えて多様な美しさを生み出すことを確信させる小屋である。

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