特集3/ケーススタディ

くるり一周した光が移築から表現へ

 さてこの板倉、樋口さんはその3年前の集落調査の折に発見し、研究対象として解体・組立を思い立つ。ひとり暮らしの家主さんが亡くなられたため譲り受ける話が進み、キャンパス内のサービス施設として移築することになった。
 そこで問題になったのが開口部だという。もともと窓のない建物だったが、展示空間としての使用も想定すると自然光を入れたい。また古木の風合いに負けない素材を考えていたとき、志村さんのRe-glassに思い当たった。傷んでいた壁材の一段を抜き取り、6種類デザインしたRe-glassのブロックを新たにつくったダボで固定し、木と同様に積み上げる。斧で斫られ日焼けした板の外部にはガラス粒の凹凸が残る面を、鉋で仕上げた板の内部にはなめらかな肌理の面が合わせられた。
 実際に小屋へ近づくと、遠目にはただのストライプに見えていたガラスの異様さが際立ってくる。つねに「割れ」を意識させられるガラスが、木と同じ井桁の形状を取り、そこから上の壁・小屋組・屋根すべての荷重を受けているのだ。上下をつなぐダボが透けて見え、建物の仕組みを暗示する。ひび割れたような素材感もあいまって、背筋が伸びるような緊張を感じさせる。
 ところで板倉の解体は学生の加わった手作業により、屋根を除く軀体は10人がかり1日で終了した。つくばでの組み立てはゆっくりと行われたが、同様の人数と日数でも可能。システマティックに進行できた作業から、移築・再利用をあらかじめ意図した建物のつくりを体感したという。
 工費をたずねると、市販の物置を購入するはずの予算をいただいた10万円、プラス自腹の10万円で計20万円。Re-glassは志村さんと共同研究をしていたクリスタルクレイ社からの提供。若さと情熱を感じさせる、いい話ではないか。
 今のところこの小屋、残念ながらギャラリーとしては使われていない。移築直後から椅子・テーブルなど大学の備品がうずたかく積まれ、小屋は本来の仕事を黙々とこなしてきた。今回苦労してそれらを運び出し、ようやく内部を見ることができた。
 すると外観からの印象とは一変。午後の光がRe-glassにあたると、薄水色の幻想的な光が満ちて、古材の表情を優しく浮かび上がらせた。Re-glassを透過する光は、散乱し溜ってじつに不思議な質を獲得する。圧縮材としての緊張と、光を発する帯のやわらかさ。設計はその両面から、小屋のもつ原初的な空間性をみごとに引き出している。そして、この板倉が生きてきた膨大な時間の底力を見せつけたのだ。

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